【22話】どれだけ時が経とうとも
剣を構えタイミングを図りあっていた、あわよくばこのまま戦うこともなく牽制しあったまま終わりたかったんだがな。
ノアに勝つ方法なんて不意打ちや奇襲そこら辺なんか考えたさ、でもそんな事したくなかったし、やっぱりそれでもお前に勝てる見込みが全くないよ。
牽制はまだ続くかと思っていたが、小さいながらに金属音が聞こえてくる、どうやらノアが手に持つ剣を震わせていたようだ。
突然ノアは声を荒らげ
「い、しい、シイ」
色々と集中していた為、ひどく驚いた。
きっと大切な妹さんの名を呼んでいるんだろうな。
頭を押さえノアは苦しそうだった、このまま戦わなくていいならそっちの方がよかったが、なんとノアは勢いのまま剣を乱暴に叩きつけるように斬ってきた。
何とか防御は出来たが、信じられないくらいの馬鹿力だ、ただ妙な違和感を覚える。
斬りつけては距離をとる事を繰り返される、体力の消耗でも狙っているのだろうか、それにさっきからなんだこの違和感は、でも違和感というより既視感だろうか、ノアの行動にはどこか覚えがあった。
もしかして俺の動きか? 思い出したのはノアとの訓練の日々、洗脳が解けてきている証拠だろうか、少しだけ安心した。
これなら上手く行けるはずだと思っていると、魔女の退屈そうな声が聞こえてくる。
「ちょっと黒騎士いつまで遊んでいるの、早く終わらせて」
うるさい奴だなと睨んでいると、瞬きをしたほんの一瞬に魔女の首が地面へと落ちた。
目を疑ったが、どうやらノアが首を斬り落としたみたいだ。
流石にこれには驚きを隠せなかった、仮にも操られている状態だというのに操り主に手を出せるものなのかと驚く、同時にノアの強さに感心した。
邪魔者もいなくなったので、再び斬り合いになりノアの動きを観察する。
やっぱりそうだ昔の俺の動きと全く同じだ、ただ何故意図的にそんな動きをしているんだ、ノアならもっと早くて強いのに、まさか俺を勝たせる為? 意味が分からなかったが、決して手を抜く事はなく攻撃を続ける。
そしてチャンスは突然やってくるもので、一瞬だけノアに隙が生まれ一気に畳みかける。
いけるやっとノアに勝てる、傷つけないように剣を落とす目的で、ノアの剣めがけて振り下ろそうとすると
「クオ……殿、どうかそのまま――俺を殺してくれ」
剣の軌道修正を慌てて行う、避ける素振りもなくノアは攻撃を受け入れようとしていた。
ありえない、頭が痛くなってくる
「それがお前の考えなのか? お前が自分で考えた事なのか?」
剣を構え直し、ノアを真っ直ぐ見ながら
「否定だ、そんな考え否定してやる」
ありきたりで安直でつまらなかったとしてもハッピーエンドでいいじゃないか、何だよ自分が死んで終わりですってか、だったらお前の妹さんはシフィはどうなるんだよ。
拳を握りしめ目を覚まさせてやろうかと思っていたが、それよりも先にノアは俺の顔面を殴りつけてきた。
勢いよく地面に叩きつけられ、そのまま馬乗りになられ殴られ続けられた。
「なぜ分かってくれないんだ、君だって見ただろう、俺がシフィに何を言い何をしたかを」
声を荒らげ殴る事を辞めずに訴え続ける。
「十年程いや十二年もだ、騙され意味もなく魔物を殺し続け得たものは力だけ、その間に妹の事はほったらかしで、挙句には途中で探すを事を俺は……」
胸ぐらを掴まれ
「君だけは分かってくれると思ったんだ、愚かな俺の目を覚まさしてくれたのは君だった初めてだったんだ、同調ではなく怒りを自身の意思をぶつけてくれたのは」
頭がうなだれ濁った青い瞳が現れる、目の中にはあの魔女と同じような白い糸が、寄生虫のように蠢いていた。
お前は今もずっと抗っているんだな、ノアの本音を聞き口を開く。
「ノアお前なら大丈夫だお前が強い事くらいちゃんと理解してるさ、何だかんだここまで来れたじゃないか、あともう少しだ一緒に皆で帰ろう、約束だってあるだろ」
そして手を差し出し握手を促す、これで平和的解決……とはいかなかった、返ってきたのは力強い拳だった。
こいつまた殴りやがった、優しく平和に解決出来そうだと思ったのにやっぱり分かり合えない。
簡単にはいかしてくれないか、一瞬だけ口元に笑みを浮かべる、ああやっぱり、俺達はぶつかりあってじゃないと分かり合えないようだ。
そして拳を握りしめノアの右頬を思いっきり殴る。
「ふざけた真似しやがって、俺を騎士殺しの魔物の英雄にでもするつもりか? 悪く思うなよ、お前が先に手を出してきたんだからな、黙って聞いてりゃまたガキみてぇな事言いまくりやがって、お前は過去に囚われすぎだ、ここで妹さんに何もせずに見捨てる方がよっぽど酷な事だと分からないのか?」
はっきり言って同じ事の繰り返しだ、だからこそ俺達は分かりあってきた。
しばらくノアは頬を押さえ黙っていたが
「……痛いな、こんなに痛いのに君は今の一発以外はずっと耐えて俺の話を聞いてくれて、本当に俺は君に迷惑をかけてばかりだな」
冷静にでもなれたのかノアは俺から降り、落ち着きを見せる。
ひとまずこれでノアはもう大丈夫だろうと一安心していると、物音が聞こえたので目線を送ると、シフィが頑張って立とうとして、すぐ地面に崩れてしまっていた。
すぐに駆け寄り、怪我をしていないか確認する。
「兄、様......」
絞り出した声で兄を呼び、必死に駆け寄ろうとしていた。
そんなシフィを見てノアも動こうとしていたが、体がピタリと止まり、震え動けなくなってしまったようだ
「俺に触れる資格なんてない、俺はシフィを大切な妹を言葉でこの手で傷つけてしまった」
そう言ってノアは動けなかったようだ、対するシフィはというと地面を這ってでもノアの方に寄ろうとしていた、服や肌が汚てしまっても。
その中で俺に出来る事は、ノアの背中を軽く押してやるくらいだ。
ノアは俺の方を向き何か言いたげだった、俺の言葉を待っていた、それに対し何も言わずただ俺は黙っていた。
だってこの件はノアとシフィ二人の兄妹だけの話だ、俺は部外者だ、口を挟むなんてもってのほかだ見守るしかない。
ノアはシフィの方を向きゆっくりと歩み出す、ある程度歩いた後、しゃがみ目線を合わせしばらく見つめあっていた。
内心不安だったがしっかりと見届けるつもりだ、シフィは弱々しくノアに抱きつき
「兄、様……」
と震える声で兄の返答を待っていた。
きっと怖かったんだろうな、また嘘でも拒絶されてしまうのではないかと、それに対しノアは最初こそは何も出来ずにいたが力強く抱きしめ返し
「すまなかったずっと君を一人にさせてしまって、人として兄として許されない事をし続けてしまったというのに、こんな我儘な俺を許さないでいい、ただ今だけはこうさせてほしいんだ……シフィごめん、これからはこの力を君の為に使うと約束する」
これは単なる謝罪と後悔と誓いという言葉だけでは済まない程の重さがあった。
シフィは首を横に振り
「違う、の、私が、悪いの、兄、様、 を、騙す、よう、な、真似も、した、でしょう、兄様、は、何も、悪く、ないの、お願い、だか、ら、自分を、責め、ない、で、ごめん、なさ、い、兄、様……兄様も、寂し、かった、のに、一人に、させ、て、しまって……兄様……」
これ以上悲しませたくなかったのかシフィはぎこちない笑顔をノアに向けた、そのまま長い時間二人は謝罪を言い合い再会出来たことをずっとずっと噛み締めていた。
しばらくそれを眺め目頭が熱くなるのを感じた、このまま終わりたかったが、まだダメだ。
エーリヤが未だに見つからない、何とかここまで来れたんだからきっと大丈夫なはずなんだ、と気合を入れ二人に背を向けた瞬間、やたらと覚えのある痛みに襲われる。
な、何でまだ生きてるんだ、手足を縛られ身動きが取れなくなる。
「くだらない設定の茶番」
無機質な声が頭に響いた後、力強く森の奥へと引っ張られて行く。
魔女の姿こそは見えなかったが、クスクスと笑い声が響き
「見て、二人の上に糸を忍ばせているの、貴方が助けでも呼んだりしたらどうなるか分かるでしょう? あの二人の邪魔も迷惑もかけたくないでしょう? 全部壊されてしまったからせめて貴方だけでも導いてあげる、ふふふふ」
抵抗しても無意味だろうと思い知らされる程の強い力で引っ張られ、もう魔女に余裕なんてないのだろうと理解する。
確かにあの二人の邪魔はしたくない、あんなに嬉しそうであのままでいてほしいよ本当に、だったら俺の判断は。




