【17話】人でなし
飛び起きすぐさま街へ向かおうとすると、ゼネに止められる。
「まだお休みになられた方が……」
顔には強く心配の色が浮かんでいたが、それを拒否する。
「必要ない、すぐにでも俺が助けに行かないと」
今の俺には使命がある、時間を無駄には出来ない。
ゼネは悲しそうな顔を一瞬浮かべたが、一礼をし
「……失礼しました、お気をつけて」
そう言ってゼネは部屋から出て行った。
街へと走って走って走り続ける、息が切れようが転けようがどうでもいい、自分の事などくだらなかった。
それよりも皆の方が大事だ、俺の事を皆が待っている早く行かないと一刻でも早く助けないと。
カフェの扉を乱暴に開けザルツを探す、ちょうど休憩時間だった為か客はいなかった。
ザルツを連れ出す為に厨房に無理やり入り、腕を強く引っ張る、痛がっていた。
怯えた顔を向けられる。
「い、痛いですクオ様、は、離してください」
胸が痛むがそんな事に構っていられなかった、そんな余裕なんか持っていなかった。
苛立った声色で
「ピスは? エーリヤは? お前はあの店にずっと居たんだろ? 二人ともどこに行ったんだ早く場所を言ってくれよ」
今の俺は焦燥しきっていた、嫌な出来事の立て続けで悪夢まで見せられて時間の無駄すら許されなかった。
ザルツは泣きそうな顔になりながら
「ピ、ピスさんは近くにいると思います……で、でもエーリヤ様は……」
言葉を濁される。
薄々分かってはいたんだエーリヤはとっくにもう……そう分かっていたはずなのに事実として突きつけられて余計に焦りに飲み込まれていく。
ザルツから離れフラフラと歩き出す。
「連れ戻さないと……皆を……俺が責任を」
ザルツは何か言いたげだったが、怖がらせてしまったからかその場で立ち尽くしていた。
俺が強く掴んだせいで赤く腫れてしまった腕が痛々しく映る、それなのに俺は謝罪も気遣う事もせずに、ザルツを無視してピス達を探しに行ってしまった。
一通りの少ない路地にて、独り言を呟きながら歩く見慣れた紫色がいた。
認識した瞬間に腕を掴み、無理やりこちらに顔を向けさせ胸ぐらに掴みかかる。
「お前言ったよな全部任せろってだから俺はお前を信じていたのに、お前は俺を裏切るのか?」
息を吸うようにピスに言葉をぶつける、分かっているこれはただの八つ当たりだ。
認めたくないがあの魔女の言う通りだったんだ、俺なんかじゃ結局何も出来なくて皆を失ってしまう、きっともうすぐしたら他のメイドさん達だって俺の前から居なくなるんだ。
突然の出来事にも関わらず、泣く事も怒る事も無く、ピスはまっすぐと俺の顔を見ながら
「分かっていますこの度の過失は全て私の責任ですから、ゼネもザルツもエーリヤも誰も悪くありません全て私が悪いのです、相応の罰は後できちんと受けますので今はエーリヤ探しを優先する事をお許しください」
初対面の時のような真面目な対応をされる、それが俺を苛立たせた。
胸ぐらを掴む力がより強まり、そのまま上に持ち上げ
「ふざけてんのか、つらつらと耳触りのいい言葉ばかり並べやがってお前もどうせ俺が悪いって俺のせいだって思っているんだろ、はっきり言えよお前が犠牲になればよかったんだって」
怒りのまま感情のままに言葉を吐き捨てる。
分かっていたのに、それでも当たらずにはいられなかった。
ピスは目を丸くさせ
「あーそう? クオちゃん様はあの喋り方より普段のあたしの話し方の方がいいんだ、昔にもね怒られている時にずぅっと同じ話し方を永遠と続けていたら何番目かの主様に怒られた事があったの」
怯える事も無くむしろ普段通りのままだった。
その態度に面を食らってしまい逆にこちらが動揺する。
「な、何だよ何でお前は普段通りで入れるんだよそんなの俺がおかしいみたいじゃないか」
ピスから手を離し自分自身の腕を強く掴む、このまま血の流れが止まって死ねと願いながら
「結局こうなるじゃねぇか、なんなんだよ本当に何でこんなに嫌なことばっかり連続で来るんだよ俺が何したって言うんだよ」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていく。
仮面を剥ぎ取り乱暴に地面に叩きつけ、人目も気にせずに泣き喚く、もうどうでもよかった。
きっとピスはこんな俺を見てドン引きして離れているだろう、そりゃそうだいきなり八つ当たりをされて今は泣き喚いているからだ。
これじゃあ森の中と全く同じだ、同じように地面を叩き
「何で……またこうなるんだどうしたらよかったんだ、ただでさえ皆に迷惑かけたのに、ザルツやピスにまで俺は……」
俺の犠牲で皆が帰ってきてくれるならいくらでもなるから、命なんていらないから。
格好悪く無様に泣いて許しを乞う
「ごめんなさい……ごめんなさい……俺の事なんかどうなってもいいから皆を返してください」
何が皆を助けるだ、俺が何とかするだよ、笑えるよな本当に、何から何まであの魔女の言う通りだ、誰かがやってくれるって頼りたかった、だって俺に出来る訳が無い。
しばらく嗚咽し続けていると
「で、言いたい事全部言えた?」
誰かの声が聞こえた、顔を上げると印象的な紫が視界に映る。
てっきりどこかに行ってしまったかと思っていたが、ピスはずっと俺の話を聞いていたみたいだ。
仮面を差し出し
「ごめんねあたし慰め方とか知らないの、だからこういう時は離れて一人にしてあげるべきか、ずっと話を聞いてあげるべきか分からない」
今の俺は顔を晒していてただでさえ醜いオークの顔な上、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったのにピスは嫌な顔を一つもせずにまっすぐと俺を見ていた。
それでも仮面を受け取れなかった、怖かった、俺には勇気も力も何も無い、ノアが俺を鍛えてくれても意味が無かったからだ。
普段とは違う優しい笑顔になり
「でも嬉しいよやっと我慢せずにクオちゃん様の本音が知れた気がする、やっぱりねぇ、あたし的には感情的になる方がその人の事よく知れると思うの」
ハンカチを取り出し俺の顔を優しく拭き、仮面を取り付けてくれた。
ピスは淡々と話を続ける。
「聞いててずっと思ったんだけどさ、どうしてそんなに自分が悪いって責めてるの? あたしは別にクオちゃん様が悪いなんて一度も思わなかったけどね」
それに反射的に反応する。
「違う、俺が全部悪いんだもっと力があれば皆助けられた、ヌンヌンもノアもエーリアもあの子だって……誰も見捨てずに助けれたんだ」
ピスの方を見れずに弱々しく下を向きながら答える。
首をかしげられ
「俺が悪いって言うけどさ、別に何もしなかった訳じゃないんでしょう? 弱いにしてもクオちゃん様なりに頑張ったんでしょう? それに力があればって言うけどだったらノアちゃん様はどうなのって話」
不思議な話で段々と気が楽になっていく。
しゃがみこみ俺と目線を合わせまっすぐと
「だってノアちゃん様はクオちゃん様より強いでしょう? だったらこんな事言うのもあれだけど、仕方なかったと思うの」
何が仕方がないんだと反論しようと思ったがふと今までを振り返る、エーリヤが処刑されるようにノアを刺したのも、ヌンヌンがあんな姿にされてしまったのも全部あの魔女のせいだ。
ハッとして視界が安定してくる、そのままピスは諭すように
「見方を変えてみて自分がっていうのはもう禁止、逃げたかったら逃げてもいいの、でも逃げる事にも責任がある事は忘れないでクオちゃん様が後悔しないのならあたしは止めないから」
再び考えてみる、全員との関わりを全て捨てて忘れたフリをして逃げ続ける日を永遠と繰り返す、少し考えただけでも気分が悪くなる、そんな選択を取ってしまうと一生後悔をするだろうなと。
突然ピスは笑い出し立ち上がってこちらに背を向ける、嫌な予感がしたがよく見ると肩を震わせながら
「こんな偉そうな事言ったくせにあたしには何も出来ないや、あたしだって凄く後悔してるエーリヤはあたしにとって世界で初めて出来た大好きな友達なのに」
そりゃそうだよな、ピスだって苦しくて仕方ないというのに、それなのに慰めてもらうなんて本当に自分が情けない。
立ち上がりピスに声をかける
「……ありがとう、やっと目が覚めたよ」
ようやく息がまともに吸えた気がする。
ピスは振り返り何事もなかったかのように笑顔を見せてくれた。
やっと落ち着いた所でピスに質問する。
「にしてもピスは理不尽に八つ当たりされてその上あんな情けない姿を見せたってのに、よく離れずにずっと話を聞き続けられたな」
さも当然かのような言い方で
「え、これくらいよくされてたから平気、もーそんな事どうでもいいの、あたしの話なんかよりさ今が大事でしょ?」
きっと過去に何かあったのだろうか、話したくなさそうに見えたので聞く事はしなかった。
残念そうな顔をしたピスは
「肉壁くらいにならなれそうだけどクオちゃん様そういうの嫌がりそうだもんね、ちゃんといい子にしてるからさ――絶対無事に皆を連れて帰って来て」
最後だけはとても真剣でふざけている様子は一つも無かった。
自身の胸を軽く叩いた後ピースサインを作る、それを見たピスは両手でピースを作り、俺の指へと絡ませ、照れくさそうに笑う。
ピスは手を振って別れを告げ城へと戻って行った、深呼吸をした後、仮面の上から両手で頬を叩き気合いを入れる。
結局また逃げてしまった今は平気でもまた同じようになるかもしれない、それでも今は今だけを考えていたい、無理だけはしないように絶対に皆を連れて帰る、これだけを胸に再び森へと足へ運ぶ。




