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統合政府軍第38教導艦隊 医務局心理評価記録

記録番号:MH-PREP/A.CN.0107.0727

被検者:アレス・カイン(訓練兵)

評価担当:セラ・ミクリン(心理士・中等階級)



【身体・神経バイタル】

•心拍:安定(63bpm)

•血圧:正常範囲内

•ストレスホルモンコルチゾール:軽度上昇(戦闘後としては低値)

•脳波:α波優位、局所的なγ波強調反応あり

•筋反射・瞳孔反応:標準範囲

•睡眠周期記録:未取得(直近48時間の入眠確認不能)


※生理・神経学的異常は認められず、臨床上のPTSD兆候も現時点では確認されない。



【心理官所見(個人観察メモより一部抜粋)】


カイン訓練兵は、肉体的・神経的には驚くほど安定している。

出撃から帰還後30分以内という条件下で、これほどに平静な被検者は稀である。

身体反応から見れば、軽微な疲労反応を除けば特筆すべき所見はない。

しかし、奇妙な“感覚的なノイズ”が拭えなかった。


診察中、彼は一度も天井から視線を外さなかった。

空調に流れる塵をじっと見つめるようでありながら、その視線は“どこか違う場所”を見ているようにも感じられた。

話しかければ、きちんと応じる。表情も声の調子も一定だ。だが、どれも――「現実からワンテンポ遅れている」ような応答だった。


彼の中に“葛藤”は見えない。

だが、それは解消されたわけではなく、まるで“最初から存在しなかった”かのような不在だ。

とても若い訓練兵とは思えない沈黙。そしてそれを“武装”している様子もない。


ただ一度。彼がふいに胸を押さえた。

外傷も異常もなく、それはほんの一瞬で終わった。

だがその所作は、まるで“誰かの死”が自分の中に沈んでいくのを感じたかのような――

言葉にするにはあまりにも微細で、しかし決して見逃せないものだった。



【補記】


彼は訓練兵としては模範的すぎる反応だ。

だが心理官としての私の直感は、彼に対して「何かが欠けている」というより――

「何かが余っている」ように感じてしまう。


彼の精神には、まるで“自分の存在を仮定している者”のような、輪郭の曖昧さがある。

体温も、言葉も、記録も、確かに“存在している”のに、手触りだけがすり抜ける。


もしこのまま、次の戦闘にも彼が投入され続けるのなら――

彼の“正常さ”こそが、最も注意を要する徴候であると考える。


以上。



担当心理士

セラ・ミクリン

(第38教導艦隊 医務局附属心理室)

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