49:新メンバー
「おまたせ」
と声をかけられて、コーヒーのカップを置く。
「確かに遅かったな、ヒバ」
「いやあ、チュートリアルがなかなか終わらんくてな」
そう言ってヒバも椅子に腰かけてコーヒーを注文した。
オレたちが待ち合わせしたのはゲーム内、始まりの街アポロニアにある小さな喫茶店だった。
「そうなのか。オレはチュートリアルを飛ばしちゃったんだよな」
「マジかよ。勇者だねえ」
「1秒でも早く遊びたかったんだよ」
「気持ちはわからんでもないけどさ――うわ、コーヒーうま」
ちなみに待ち合わせに現れたヒバのアバターは、いつも通りのヒバの好みを反映していた。金髪に革装備、腰には日本刀。顔は隠していない。
「んじゃ、とりあえずフレンド登録とクラン勧誘するぞ」
「あいよ。――よし、どっちも承認した」
クラン人数の表示が五人になり、アバターの上にプレイヤーネームが『ヒバリ』と表示された。
「本当はみんなに紹介もしたいんだけどな」
「ハッスが惚れ込んだ相手にゃ興味あるけど、まずはゲームに慣れたいからな。いったんは幽霊部員ってことで」
「……わかったよ」
ため息をつき、テーブルの上にアイテムを出す。
『銀鉱石』『金鉱石』『アダマント』
『ツノウサギの角』『白蛇の鱗』『白蛇の牙』『大猪の牙』
『巨蠍の尾殻』『エントの樹皮』『グリュプスの爪』
『グリーンノアの羽根』『ヒュドラの毒血』
今まで狩ってきたモンスターの素材の数々をそこに並べた。
ヒュドラの毒血は五つドロップしたうちの二つだけ。武器エンチャントにも使えるので残り三つは自分で持っておく。
「おお、壮観だな」
「『グリーンノアの羽根』『ヒュドラの毒血』はたぶん二度と手に入らないから大事に使ってくれ」
「了解。仕様がわかるまではとっておくよ」
「金はどうする?」
「自分で稼ぐさ。それよりも――」
アイテムをストレージにしまいながらヒバが続ける。
「今使ってる武器を見せてくれ。目安にしたい」
「おう。これだ」
『銘なき刀』を机の上に置く。
ヒバはそれを手に取り、鞘から引き抜いた。
刃の角度を変えてしばらく眺め、それから鞘に戻す。
「思ったよりいい出来だな」
「だろ? とても最初の街の店売り装備とは思えない」
「ま、ファンタジー要素皆無だしな。ただの刀としてはよくできてても、ゲーム的には追加効果がないから弱い扱いなんだろ、きっと」
「それはあるかもな」
実際、ウィスタリアさんの杖は地属性魔法にボーナスの効果がついてるし、山風の刀は火属性が付与されていた。
オレ的には折れず曲がらずよく斬れればそれでいいのだが、本来はもっとさまざまな追加効果を求めるものなのだろう。
「さんきゅーハッス。参考になったぜ。さっそく制作に入るわ」
「レベル上げはいいのか? 効率のいいところに連れていくこともできるけど」
このゲームではスキルを取るにはSAポイントが必要で、SAポイントはレベルを上げることでしか入手できない。レベルは高ければ高いほどいいはずだが――
「もしも逆の立場だったら、ハッスは俺にパワーレベリングを頼むか?」
「……頼まないな」
「だろ? ゲームは序盤が一番楽しいんだぜ」
序盤の不自由さ。手探り感。装備も金もスキルもすべてが足りなくて試行錯誤している時間。
――確かにそれはゲームで一番楽しい時期かもしれない。
「わかった。じゃあお互い何かあったら連絡しよう」
「おう。クランのみなさんによろしく言っておいてくれ」
ぐいっとコーヒーをあおり、ヒバが席を立つ。
その背中を見送ってからオレもコーヒーを飲み干してアライバルを使用した。
――視界が暗転し、一瞬の無重力の後で足に伝わる地面の感触。
到着したのはジュピトリスの街中だ。
そのまま通りをずんずん進んで、ナイフとフォークが描かれた吊り下げ看板の店に入る。
「――やあやあハスキーくん、こっちこっち」
入るなり声をかけられ、そちらのテーブルに向かった。
すでに三人が卓についている。
ウィスタリアさん。
山風。
それから知らない女の人。
たぶんウィスタリアさんの友人だろう。紹介してくれるという話だったし。
「どーも。おまたせしました」
「勧誘お疲れ様。これであと一人入れば念願のクランホームだね」
「ただ、当分は幽霊部員をやるそうです。すみません」
「仕方ないさ。プレイスタイルは人それぞれだ。――さて」
ウィスタリアさんが視線を隣にずらす。
そこに座っていたマスクの女の人に全員の視線が集まる。
……ウィスタリアさんの友人なんだよな?
でもなんというか、だいぶ趣味センスがウィスタリアさんと違いそうだ。
黒髪に赤のメッシュ、口元は黒いマスク。
マスクには赤色で模様が描かれ、服はシルクのドレスのようなツヤのある黒ローブに、やはり赤色で炎の刺繍が入っている。
統一感ある装備でバチバチに決めてるあたり、けっこうこのゲームをやりこんでそうだな。
「この鶏ガラみたいな体格の女がトキシックリリー。私のリアル友人だ」
「だーれが鶏ガラだ。スレンダー美人さんだろーがよ」
トキシックリリーさんが反論する。
その声が耳に入ってきた瞬間、妙な感覚を覚えた。すごく聞き馴染みがある。誰かの声に似ている。でもそれが誰なのかが出てこない。
「トキシックリリーだ。呼ぶときはリリでいい。ジョブは黒魔の火、レベルは21。よろしく頼む」
「リリ――さん?」
「あん?」
「もしかして、どこかで会ったことあります?」
「ナンパはやめろ。アタシは男には興味ねー」
「いや、そうじゃなくて――」
いや。そうだ。
間違いなく聞き覚えがある声だし、トキシックリリーという言葉もどこかで聞いたし、姿もどこかで見たことがある。マスクをつけているからよくわからないが、その鋭い目は確かにどこかで――
「まあまあハスキーくん、その辺で。女の子には秘密があるものだよ」
「はあ……いや、すみません」
ウィスタリアさんが割って入ったので、追及はそこで諦める。
「で、彼がハスキーくん。今話題の最強剣士だ」
「へえ、コイツが例の……」
今度はリリさんの方から興味を含んだ視線を向けられる。
「山風くんはさっき紹介したね。じゃあこれで紹介し終わったかな。私、リリ、ハスキーくん、山風くん――しばらくはこの四人で戦うことになると思う」
「拙者、戦闘は本職ではないでござるが、やれるだけはやるつもりでござるゆえ、どうかよしなに」
「ええと、オレもがんばります」
「くふふ。そんなに緊張しないで。リリはトキシックだけに毒は吐くけど、性格が悪いわけじゃないからね」
「うるせー。余計なお世話だろーがよ」
トキシックリリー。
毒の百合。
そうだ。思い出した。それはずっと前に出たマイナーなインディーズゲームのタイトルで、オレがそのゲームを知ったのはとあるマイチューバーの実況で、そのチャンネルの名前は――
――『毒舌ナナセのゲームウォッチ』。
気づいてしまえばもう疑いようがない。
顔も声も体格も、マイチューブで見た通りのものだ。
配信や動画ごしでしか知らない、超有名マイチューバーが目の前にいた。
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ポイントが見たことないほどもりもり増えてモチベ爆増中です!




