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改稿になっていますが、後書きを変更しただけです。
帰りの馬車の中。
「ベス、早く帰って来てくれないか?」
我が家に近づいてきた頃、シオンが言った。
「そうですねえ。それは、メイドとしてですか?」
私は、冗談のつもりで言った。
「今までと同じように、一緒に過ごせたら嬉しい」
「? えーっと、今までと同じように?」
「ああ、ベスとずっと一緒に居たい」
「今までと同じようにずっと……その『ずっと』とはいつまでのことでしょうか?」
「それは、ずっとだから、ずっとだ」
「一生ということなんですね」
「ああ」
なぜかシオンは恥ずかしそうにしている。私は冷めた目でその様子を眺める。
「今までと同じでいいんですか。じゃあ今までと同じなら、通いでも構わないと」
「ベスがそれがいいなら」
「ずーっとそれでいいと」
「ああ、ベスがその方がいいなら」
「へえ。で、日曜日は来なくていいと」
「ベスがそれがいいのなら」
「ふーん。分かりました」
「そうか、じゃあ一緒に帰ろう」
「メイドのベスは要るけど、婚約者のエリザベスは要らないということが、よーくわかりました」
「ええっ!!!! いや、そういうつもりじゃ」
「それ以外には全く聞こえませんでした。ということで、もうお会いすることはないと思います。さようなら。あら、どうしてこうタイミングがいいのかしら我が家だわ」
そう言うと私は馬車を降りるためドアの取っ手に手を伸ばした。
「ベス!!! 俺はそんなつもりで言ったんじゃ」
シオンが私の手を掴んだ。
「どう聞いたらそれ以外に聞こえるのか教えてもらいたいわ! 100人に聞いたら100人が同意してくれるわよ。婚約者に言うセリフじゃないでしょ。私は婚約者なのよ! 意味分かってる? 結婚相手よ。私は結婚したいの。結婚は永久就職っていうけど、本当に就職する馬鹿がどこにいるの!! まさか結婚するってことがどういうことか分からないの?!」
「俺は、ベスが一緒に居てくれるならどんな形でもと」
「だから、それがそもそも頓珍漢なのよ!」
「頓珍漢だって?!」
「結婚反対されてるわけでも、貧乏で結婚資金がないわけでも、結婚したくないと言われてるわけでもないのに、どうしてそういう発想になるのよ。私のことが女性として、結婚相手として見られないなら見られないと、ハッキリ言えばいいじゃない!!」
「ベスと一緒に居たいというだけでは駄目なのか?」
「ええ。お友達になるならそれでも構いませんし、婚約した時点なら、充分でしたが、今の私にはそれだけでは無理です。これ以上は一緒に居られません」
「そんなのは嫌だ!」
「はいはい、お坊ちゃまはわがままですね」
「ベス!」
「いい加減にしてよ!」
シオンに掴んだままの手を離してもらおうとすると、シオンは私の手を引き寄せて、私を抱き締めた。
「な、何?」
「うるさい! 一緒にいると言うまで離さない」
「ちょっと、意味が分からないんですけど」
シオンから離れようとするけれど、離してくれない。
「もう会えないなんて絶対嫌だ」
「だから何でなのよ」
「知らない。嫌だから嫌なんだ」
「はあ? 子供なの?」
「子供じゃない!」
「子供じゃないの。自分のやってることの意味が分からないなんて」
「ベスはうるさいぞ、いい加減黙れ」
「シオン様、離し」
離してもらおうと、上を向いてシオンを見ると、唇を塞がれた。
「!!!」
シオン様にキスされてる! 初めは乱暴に唇を塞がれたが、一度離すと、その後は優しくキスをされた。
「……何で?」
「ベスが黙らないから」
「そんなことで?」
「ベスが、綺麗だから悪い」
シオンは、そっぽを向いた。耳が赤い。あいかわらず、抱きしめられたままである。
「あのー、もしかして私のこと好き?」
「好き? 俺がベスを? そうなのか?」
「なんで私に聞くのよ。普通は好きじゃないと、こんなことしないと思うけど」
「そうなのか? 確かに主人がいちいちメイドにキスしたくなると大変だし、父親は口にキスしないか。なるほど、俺はベスが好きなんだ。ふーん、そういう事なのか。そうか、そうか。それでキスしたくなったんだな」
「ええっ?! 何それ? 使用人として見てるならまだ分かるけど、父親? ……ちょっとシオン様の恋愛に関する思考力が酷すぎて意味が分からない」
「自分が女性を好きになるわけがないと思ってた。だからベスのことが気になるのはどうしてなのか分からなかったんだ。それに俺の中では、結婚は諸悪の根元だった。結婚をしたくないと思っていたから、ベスと一緒に居たいのにどうしたらいいのか分からなくて」
「シオン様」
「やっぱり通いは駄目。朝も、昼も、晩も一緒にいられるときはずっと一緒にいたい。ベスがうちに来てくれないなら、押しかけることにする。ベスのようには出来ないけど、俺だってベスの髪の毛拭くぐらいは出来るし、体だって拭け……あっ! いや、違うんだ、そういう変なつもりじゃなくて、頑張れば色々出来ると言いたかっただけで……」
「フフッ」
シオンが真っ赤になって、オロオロするので、笑ってしまった。
「シオン様って極端ね」
「ベスがもう会わないって言うから。俺はずっと一緒にいたいんだ」
「それはどういう意味?」
「ベス、結婚しよう。奥さんになって」
「……はい!」
シオン様が、輝くような美しい笑顔で微笑んだ。
私達が、馬車から出ると、御者以外誰も居なかった。私は我が家の玄関前で何をやっていたのかと、今さらながら恥ずかしくなった。
私達は、2ヶ月後に結婚することになった。私は、それまで侯爵邸で今までと同様、シオン様のお世話をすることになった。その合間の時間は、結婚の準備と、これまで同様、侯爵家について学ぶのだ。
忙しいけれど、幸せな日々である。
(終)
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