15
次の日も帰ってから部屋に食事を運んでもらい便箋と向き合う。ウンウン唸りながら何枚か書くが、却下されそうだと、破り捨てる。風呂に入ってからまた机に向かう。ちっとも筆は進まない。
『エリザベスと話したい。前みたいに一緒に飲んで話したい。エリザベスがそばにいてくれると』
そこから、手が動かない。
「ああ、何て書けばいいんだよ。もう、飲んでないとやってられない。素面で書けるかよ」
俺は酒を注ぐと一気に飲み干した。また新しい便箋を取り出す。
『エリザベスとずっと一緒にいたいから、戻ってきてくれないか。エリベスがいないと寂しい。毎日家に帰ると君がいなくてガッカリするし、朝起こしてくれるのが君じゃなくて、ガッカリする』
何杯か飲んでようやく、恥ずかしさを堪えて手紙を書き上げた。読んだら焼却して欲しい。まさかそう書くわけにもいかず、もうやけくそだと手紙に封をした。
次の朝出仕する前に、手紙を届けてもらうよう頼んで家を出た。
仕事から戻ると返事が来ていた。
『何で私がいないと寂しいのでしょうか? 私がいないと寂しいのに、他の人と結婚するのはいいのは、何でなのでしょうか?』
「うっ、何で寂しいか? そんなこと書いたのか。何で寂しいかなんて知らないよ。何で? 何でなんだ?」
俺が手紙を見ながらブツブツ言っていると、執事はそっと部屋から出ていった。
「ああ 何で寂しいなんて書いたんだろう。ついついなんとなくそんな気がしたような…………恥ずかしい。恥ずかしすぎる。寂しいって子供かよ。だってベスがいないんだから、しょうがないじゃないか」
「俺にこういうのは向いてないんだよ。ラブレターなんか書けるかよ」
「ん? ラブレター? ………これってラブレターなのか? 何で? 何でベスにラブレターなんか書くんだよ。そんなわけないだろ。ああもう意味がわからない!!」
俺は、返事を書くのを諦めた。風呂から上がるとメリルにお酒を頼んだ。
「シオン様、手紙の返事はどうされたのですか? 執事が心配してましたよ」
「もうなんて書いたらいいか分からないんだ。何でベスがいないと寂しいのかなんて分からないよ。ベスが他の人と結婚しても、ずっとうちに来てくれるなら俺はいいよ」
「は? まだそんなことを言ってるんですか? 結婚の意味分かってますか? ベスが他の人と結婚していいなら、他の男性とベスがキスしても平気なんですね」
「はあ?! そんなの絶対ダメだ!! ベスに触れるなんて何の権利があってそんなことを」
「シオン様? 子供じゃないんだから分かりますよね。ベスが結婚したら他の男の人と、朝起きた時から寝る時もずっと一緒に居るんですよ」
「あー嫌だ。それは嫌だ。想像したくない」
「ただの使用人にそこまで入れ込みますかね普通? うちには他に何人も若い女の子がいますよ」
「他のヤツはいいんだ。ベスは駄目だ」
「ああ、エリザベス様に見せてあげたいわ」
「ううう。ベスが他の男とずっと一緒だなんて嫌だ」
「…………このみっともないのは見せられないわ」
メリルはボソリと呟いた。
「ああ、返事が書けない」
「さっき御自分がおっしやったことをそのまま書けばいいんですよ」
「そんな恥ずかしいこと書けるかよ」
「そうですよねえ。分かりますよ。恥ずかしいですよね。本当に今まで良く頑張りましたよねえ」
メリルはそんなことを言いながら、シオンにしっかりお酒を飲ませてから、手紙を書かせた。
『ベスが他の男と結婚するなんて嫌だ。想像もしたくない。絶対に嫌だ。耐えられない。ベスに会いたい。会いたくて会いたくてたまらない。俺の側にずっといてほしい。俺だけのベスでいて欲しい。日曜日に会いにいくから待っていてくれないか』
メリルは、シオンがボーッとしているうちに、書き上げた手紙を取り上げて読むと、ニッコリ笑って素早く封をし、エプロンのポケットにしまった。
それからシオンがベッドに入るのを確認してから、執事に手紙をことづけた。
「シオン様、朝ですよ?」
「ん? ああ、もう朝か…………そう言えば手紙の返事を書いたような、どこにやったんだろう?」
「手紙は預かりましたよ。もう手配しましたのでそのうち届くと思います」
「えっ、ちょっと待て。なんか酔ってたからよく覚えてない。変なことを書いてなかったか確認したかったのに。何書いたんだろう……」
「好きな男性からもらったら泣いてしまうような、最高傑作でしたから、大丈夫ですよ」
「はあ?! メリル読んだのか?」
「変なことを書いてたら困りますし、何を書いたか忘れてたらいけませんし、せっかくの傑作が紛失してはいけませんので責任を持って取り扱いさせていただきました」
「嘘だろ? 何書いたんだろう? 想像したら怖い」
「いえいえ、本当によくやったとご褒美を差し上げたいですが、それはエリザベス様からもらってくださいね。それよりも日曜日に会いに行くと書いたのですから絶対に行ってくださいね」
「恥ずかしい手紙を出して、ノコノコと会いにいくなんて」
「はい。男らしくないですよ。切り替えて仕事に行きましょう」
「他人事だと思って」
「他人事じゃないですよ。大好きなシオン様のことですから」
メリルがニッコリ笑うと、シオンは呆気に取られていたが、すぐに慌てて衝立の陰に隠れ着替え始めた。その頬はうっすらと赤くなっていた。
「本当に可愛いんだから」
メリルはシオンの顔を思い出して、また、微笑んだ。
「うちの息子もシオン様みたいに可愛らしいといいのに、ホント」
メリルはブツブツ言いながら楽しそうに仕事を始めた。




