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シオンは職場に行く馬車の中で、ため息をつく。
ここ数日、毎日花にメッセージを添えて送っていた。
今日はなんと書けばいいんだよ。思いつく言葉がない。ああベスに戻ってきてもらうにはどうすればいいんだ。
主人としてなら戻って来いの一言で済むのに、婚約者としてどう書けばいいんだ? 恥ずかしくて誰にも相談も出来ないし、聞いたからと言ってそれを書けるかどうか……
そうこうしているうちに王城に到着した。気持ちを切り替えて、仕事に励む。
昼時間いつものように同僚と食堂で食事をする。いつも食堂は話し声で賑やかである。
シオン達の隣には既婚者の男性達が食事をしていた。話し声が大きいのでよく聞こえる。
「昨日娘に、大きくなったらお父様と結婚するわと言われたんだ」
「そうか、可愛いなあ」
「大きくなったら他の男のものになるなんて嫌だ、結婚させたくない!」
「分かるよ。触らせたくない。寄ってくる男がいなければそれはそれで困るんだけどな」
父親と言うものは、娘にそういう気持ちを抱くのか、なるほど……
…………まさか! 俺はベスを娘のように思っているのか? なるほど、自慢の娘だ。気がつかなかったが、美人だし、なんと言ってもあの行き届いた世話は素晴らしい。どこのメイドにもひけは取らない。
家に帰ってから、メリルと話す。
「父親というものは、他の男に娘をやりたくないと思うもんなんだな」
「そうですね。可愛いくて、誰にも渡したくないと思う人もいるようですね」
「俺もベスに対してそんな気持ちを持ってるんじゃないかと」
「シオン様!! まだそんな訳のわからないこと言ってるんですか!!
使用人として守ろうとしてるんだと言うのなら、まだ理解が出来ましたが、5歳しか違わないし、成長を見守ったわけでもないんだから娘として見てるわけ無いでしょう!」
「そんなに怒らなくても」
「怒りますよ。もうエリザベス様が気の毒過ぎて泣きそうです。エリザベス様に告げ口しようかしら。二度と返事が来ないかもしれませんね!」
「……」
「そんなに使用人に愛があるなら、私はどうですか? 気になりますか?」
「いや……それはいくら何でも、無理がある」
「そういうことは分かるんですね!」
「そんなに怒らなくても」
「エリザベス様の代わりに怒ってるんです!」
「ああ、一体どうしたらいいんだ?!」
メリルは騒いでいるシオンを見ながら、ため息をついた。
「5歳しか違わない」と言ったとき、一瞬『兄』という言葉が思い浮かんだ。もしそこで、「兄だと言うなら分かりますが」などと自分が口を滑らせたら、シオンはそれに飛びついていただろう。まさかシオン様が自分で思いつかないわよね。
念を押すべきかどうか悩んで、やぶ蛇になったら困るのでやめておいた。
数日花とカードを贈り続けて、再び手紙を書こうと便箋を取り出し手紙を書いた。
『先日は、本当に申し訳なかったと思っている。
君と会って話がしたい』
すると、ようやく返事が帰ってきた。
『何で会いたいのでしょうか?』
再び返事を出す。
『話がしたい。時間を作ってもらえないだろうか』
『何で話がしたいのでしょうか?』
『帰ってきて欲しいから。日曜日に会いに行きたいが、予定は大丈夫だろうか?』
『なんで帰ってきて欲しいのですか?』
『エリザベスがいないとつまらないから。時間はこの前と同じ時間。ベスの行きたいところへ行こう』
俺はドキドキして届いた手紙を開いた。
『却下』
便箋の真ん中に大きく『却下』と書かれてあった。
ああ、すごく怒ってる。散々やり取りして、『却下』の一言で終わってしまった。
俺はガックリ来て、机に突っ伏した。
執事はそっと部屋から出て行った。
初めは手紙を渡すたび部屋から出ていた執事も、俺が手紙を書くまで待つようになっていた。手紙を運ぶものはさぞかしウンザリしたことだろう。
しかしそんなことを気にかけていたら、ベスにいつ会えるか分からない。
次の日もまた挑戦する。
『エリザベスに側にいて欲しいので、会って話がしたい。頼むから会ってくれないか?』
『何で?』
『エリザベといると楽しいから。どこに食事に行きたいか希望があれば教えて欲しい』
『却下』
今日は、却下されるまでが早くなっただけだった。




