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☆シオンの視点
エリザベスは俺の想像と違い、しっかりしていて、よく気がきいて、それでいてハッとさせるようなことを言う不思議な女性だった。
俺は、彼女が時々ベスのように見えてハッとしながら、ああ俺はベスのことを心配してるからベスに見えるのかと思い、エリザベスの常に予想外の言動に終始振り回されて、それ以上深く考えられなかった。
婚約を断ることしか考えてなかった俺に、彼女とのことについて少し考えてみようと思わせたその女性は、なんとベスだった。
彼女がベスであると分かった瞬間、すごく納得したと同時に、深く安堵した。しかし、その安堵感に浸る間もなく、ベスは婚約解消と、メイドを辞めると宣言した。
俺は、ベスのあまりの怒りに呆然としたまま馬車に乗り帰宅した。
頭の中は、怒涛の展開についていけず、こんがらがって訳が分からなくなっていた。
彼女を軽んじるイヤな男は結局のところ俺だったわけだし、彼女が食事に行こうと誘われていたというのも、どうやらお芝居だったと聞いて、安心したのも束の間、ベスに拒否されてしまった。俺が主人として彼女の幸せを願ったというのに。
ベスは『私が誰と結婚しようといいんですね』と言ったことに俺が頷くと怒った。何でベスは怒るんだろう?………俺が婚約者だからか?! それはそうか。俺はバカか?! ついついベスとしての彼女と話しているつもりになっていた。同じ人間だが、エリザベスをメイド扱いしてはマズイ。
彼女の好きな人は結局教えてもらえなかった。それどころか聞いたことで余計怒らせてしまった。何なんだ?
結局誰だったんだよ。好きな男の話をしているとき第一印象が最悪だったとかなんとか……。ちょっと待てよ。ベスは婚約者のことが好きだと言っていたのでは?!
あっ? えっ? も、もしかして俺のことなのか??? えっ? ベスは俺が好きなのか? いや、ただ婚約者だから好きになろうとしたのか?? いや、好きな人がいると今日も言っていた。
そういえば『好きだけどしつこいから嫌いです』と何回も同じこと聞いていた時に言われた……あれはそういう意味だったのか!
あ、どうしよう? 好きと言われてたのか! うっ。
俺は一人部屋で挙動不審になっていた。
でも、そう言えば嫌われたんだった。好きな人なんていないと言ってたな。大嫌いと言われたし。
俺はうなだれた。
俺は彼女の婚約者でもあり、好きな相手だったのに、ベスが誰と結婚してもいいんですねと言ったら、そうだと言ったのか。あーしまった!! それはマズイ。
俺はどうしたらいいんだ? ベスにはずっと側に居て欲しいのに!!
ごちゃごちゃ考えているうちに眠ってしまったようだ。
「夕食の時間ですよ。シオン様」
「ベス?」
「残念ながら、ベスはいませんよ」
「うっ、ああ……」
食事を終え、風呂からあがるとメリルが待ち構えていて、ベスと会った時のことについて根掘り葉掘り聞かれ、呆れられた。
次の日、仕事を終えて急いで家に帰る。
「ベスは?」
「いらっしゃいませんよ。手紙も来てません」
「そうか」
部屋に戻ると、便箋を取り出し手紙を書いた。
『昨日は本当に申し訳なかった。ベスが居なくて落ち着かない。早く帰って来て欲しい』
「シオン様?」
「メ、メリル」
メリルはいつの間にか俺のすぐそばに立って手紙を覗き込んでいた。
「こんな手紙出したら駄目ですよ」
「見るなよ」
「失礼は承知で、心配になったものですから。酷すぎます。捨てて下さい。どうせ送っても破って捨てられます。困ってるから帰ってきてくれという自分本位な手紙に見えますから」
「うーん。どうすればいいんだ?」
「私の言ったとおり書いても、今のままじゃ、会えばバレますからね。しばらくエリザベス様の居ない辛さを味わって下さい」
「はあ」
「でも花くらいは送ってくださいね。一言、メッセージを添えて」
「メッセージはなんと書けばいいんだ?」
「それぐらい自分で考えてください。ただし、書いたら見せてくださいね」
「うう……」
『ベスが帰ってくるのを待っている』
「うーんどうなんでしょう?」
「メリル?」
「ベスでいいのか、エリザベスの方がいいのか」
「ん?」
「ベスだとメイドとしてのエリザベス様を望んでる感じがしますねえ。深読みすればですけど」
「そ、そうか」
「ええ、そういうところまで気にされる必要があるかもしれません。エリザベス様は今とても言葉に敏感でしょうから。内容も全く心に響きませんが、自覚のない今のシオン様にはこれが精一杯なんでしょうね」
「厳しい……」
「正念場なんだから頑張ってくださいね」
結局ベスをエリザベスに変えて、花を贈った。




