↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/17

12

 しばらくして、シオンが顔をあげた。


「私は、後しか見てないですね。全ては昔の出来事で、俺がそれにこだわり続けているだけなのでしょう。今はそんなことも滅多にないし、対処出来るのだから、それに振り回されるのを止めることも出来るのに………話をすると言いながら、ここに来るまでは断ることしか考えていませんでした。でも女が嫌いなんて言ってないで、一歩でもそこから先に進もうと思います。あなたと話していると何だか不思議な感じです」


「不思議な感じとはどういうことでしょうか?」


「失礼でしたね。良い意味で意外性に溢れています。思いもつかないことを言われるし、されるし。気がつけば終始あなたのペースですね」


「それは褒めてくださってるのかもしれないけど、女性として見て貰えてな

いような」


「いえ、細いことに気配りが行き届いて、女性的な素晴らしい方だと思います」


「そうですか。嬉しいです。ありがとうございます。でもなんだか、持って回ったような、よそ行きなやり取りに疲れてきました」


「えっ?」


「普通に話します」


「はっ?」


「貴族的な話し方は自分じゃないみたいなので、シオン様も楽にしてください。変に気を使わなくていいです。で、どうされるのですか? 婚約を続けますか? それともさっさと解消したいですか? しばらく考えるというなら、私はまだゆっくり考えて頂いても構いません」


「? あ、ああ。何がなんでも解消したいという気持ちはなくなったので、もう少し考える時間をいただけると嬉しい」


「じゃあもう何回か会って、ゆっくり考えるということで良いでしょうか?」


「そうさせてもらえると」


「良かったわ。……でもちょっと複雑だわ」


 私は最後はボソッと呟いた。


 エリザベスとしては、嬉しいけどベスとしては複雑である。少し親しくなれたと思ったけど、ベスのことはやっぱり興味なかったのかしら?


「え?」


「この後、早速食事に行きませんか?」


「えっ? ああ、それは、構わないけど」


「嬉しい! どこへ行こうかしら? シオン様はどこがいいですか?」


 私はシオン様とあと何回かは会えると嬉しくなった。


「へ??」


 シオンは呆気にとられて、私の顔をボーッと見ている。


「…………なんだか君は、俺の知ってる女性に本当に良く似てる気がするけど、いや、そんなわけ」


「えっ? あっ、分かりました? やっと気がついたんですか?」


「へっ?! えっ、えー!!!!! べ、ベス?!!!!」


 シオンは、立ち上がった。


「そうですよ。ベスです」


「なっ、なんで?! どうしてここにいるんだ?!」


「私がエリザベス・ユルンハルクだからです」


「ベスがエリザベス? えっ? ベスは庶民では? なんで貴族令嬢が俺のメイドをやってたんだ」


「私は自分が庶民だと、一言も言ってませんよ。メイドをしていたのは、シオン様がエリザベスを無視するからです。だから私のことを見てもらうために、仲良くなるために、メイドをやらせていただいたんです」


「? じゃあベスの相手って? 俺のことか!!」


「そうですよ」


「はあ?! ……俺は自分で自分をディスってたというわけか。駄目出しまでして。俺はただのバカじゃないか! そりゃあ全てに心当たりがあるわけだ。それなのに、何の疑問も抱かないなんて。ああ、俺は本当のバカだ」 


 シオンはソファーに座り込んで頭を抱えた。シオンはしばらく、唸っていたが、急に顔を上げて私を見た。


「ん?……何だ? じゃあベスの好きな人もいないんだな」


「えっ? いますよ。私は嘘は言ってないですよ。ただエリザベスだと名乗らなかっただけです」


「えっ、いるのか? 誰なんだ?」


「知りません」


「まさか、この前の男か?」


「誰のこと?」


「そうだ! アイツと食事に行くんじゃないのか?!」


「何言ってるんですか、あれは奥様が考えた、ただの芝居ですよ。食事になんか行きませんよ」


「何だよ、俺はてっきり……俺の睡眠時間を返してくれ」


 シオンが何やらボソボソ呟いた。


「え?」


「いや、なんでもない。えー、その、口出しするなと言われたが、主人として使用人のことを守らなければと思って」


「私が彼と食事に行くかどうかですか?」


「ああそうだ。ベスが悪い男にたぶらかされるといけないから、心配してたんだ」


「いい人であれば問題ないんですか?」


「そうだな、ベスには幸せになって欲しいからな」


「へえ? 使用人に優しいんですね。結婚についてはどうなんですか?」


 私の声はどんどん低くなる。


「それもベスが幸せになれば、それでいい」


「………そうですか。こんなこと聞きたくないですが、私が誰と結婚しようが、相手が良い人で幸せになるならば、それでいいと?」


 私は扇子を両手でギュっと握りしめた。扇子がミシミシと音をたてる。


「そういうことだな」


「…………そうですか。分かりました……そういうことなら、婚約は解消しましょう」


「な、何だよ急に」


「何で分からないんですか?! こんな人とは結婚しません! メイドも、もちろん辞めますから」


「メイドまで辞めるのか?」


「当たり前です。何で婚約解消したのにずっと一緒にいるんですか! 意味がわかりません!!」


「俺がいて欲しいと言ったら、いてくれると言ったじゃないか」


「ええ、そう言いましたけど、それは私がメイドを続けたいことが前提の話です」


「俺のメイドはやりたくなくなったのか?」


「ええ、ちっともやりたくありません。なんでやらないといけないんですか?!」


「だって、ベスがいないと困る」


「困らないですよ。メリルさんがいます」


「そうだが、ベスがいないと楽しくないじゃないか」


「知りません。勝手に困って下さい!」


「ベスがいいんだよ!」


「ああそうですか!!」


「そうだ。好きな人って誰だ?」


「はあ?! もう誰でもいいでしょ! どうでもいいくせにそんなこと聞かないでよ! シオン様のバカ!! 好きな人なんてもういないわよ! 嫌い! 大嫌い!! ずーっと一人で、女なんか嫌いって言いながら過ごせばいいのよ!!」


 私は立ち上がってシオンの上着を取ると、シオンの腕に押し付けて、使用人を呼んだ。


「お客様はお帰りだから、お送りして」


「ベス! 話しは終わってないよ」


「話したくないです! 帰って下さい! 私が扇子を投げつける前に!」


 私はそう言うとソファーに座り込んだ。


「ベス……」


 しばらくして、ドアがパタンと閉まる音がした。


 あれだけ私に無関心でも、シオンの側にいたいと思っていたのに。シオンに私が誰と結婚してもいいと言われて、頭に血が上ってしまった。シオンも私のことを結婚相手として考えてくれると聞いたせいで、欲が出たみたいだ。エリザベスにも興味を持ってくれたと嬉しくなって、期待した私がバカだった。そして、ベスにほんのわずかの好意もなかったことにショックを受けた。本当にただの主人としての情だったのね。


 何なのよ! 誰と結婚してもいいなんてひどすぎる!! 私が何度も好きだと言ったのに気がつかないなんて、鈍すぎる。遠回しに言ったから気がつかないんだろうけど、何もかもに腹が立つ。婚約者に向かってあんなこと言うなんて!



 私は色々聞こうとする家族に、今は話したくないと言って部屋に引きこもった。部屋に帰ると涙が後から後から溢れてきた。「シオン様のバカ」と何回も言っては泣いた。


 私の相手のことに口を出してくるし、親しげな態度をしてくれるから、もしかして関心を持ってくれてるかと淡い期待を抱いたのに、本当に本当にメイドとしてしか興味がなかったのね。もう立ち直れないわ。無理よ、無理!


 それにしても、今日もまた一段と格好良かったわ…………それに私がエリザベスであることを黙っていたことは一言も非難しなかった。ショックでそれどころじゃなかったのかもしれないけど、そういうところがまたいいのよね。……ああ、私ったら……


 婚約者に向って、誰と結婚してもいいはないでしょう。シオン様はバカなの? 頭は悪くないはずなのに。なんであんなに鈍いの?

 でも、ハッキリしたから良かったのかしら? 結婚したあとにメイドとして望まれていたと分かったら、最悪だもの。

 あんなに毎日一緒に居たのに、これからずっと会えないなんて耐えられるかしら…………



 侯爵夫妻に、しばらく伯爵邸で過ごすという手紙を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。