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フシノカミ  作者: 雨川水海
特別展『断章』

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巣を継ぐ者4

【伝説の羽 クララの断章】

「そうですか。領都の神殿では、クララをノスキュラ村教会付き神官の後任にとお考えですか」


 大慌ててで教会に呼んだ養父は、クイドさんの話を聞いても、わたしほどうろたえなかった。

 顎を撫でて思案を巡らせた後、落ち着いて問い返す。


「わたしにとってクララは自慢の娘ですが、領都の神殿で名前が挙がるとは思っておりませんでした。その辺り、クイドさんは娘の名前が挙がるまでの経緯を、どこまでご存じでしょう」

「条件を絞って悩んでいるうちに、クララさんのお名前を見つけたと。これ以上ないほどぴったりの人材に思えたので是非に、とのことでした」

「ほう。その条件とは、一体どのような?」


 養父は、わたしが聞きたいこと、聞かなければいけないことを、上手にたずねてくれた。

 わたしはクイドさんの話を聞いて慌てるばかりだったが、その困惑の原因とはつまり、「なんでわたしが?」という疑問だったのだと、養父がまとめてくれたことで、はっきりわかった。


「自分が聞かされた範囲でのことになりますが……前提として、ノスキュラ村では教会で子供達に勉強を教えています。このことを神殿でも重視しているようですね」


 噂には聞いていた。

 飛行機の玩具を飛ばした、という話が領都から聞こえて来て、一体それはなんだ、どういうことかと、この村でも話題になった。

 すると、話題の提供者……その大半は行商人で、中でも詳しかったのがクイドさん情報なのだけれど、どうやらノスキュラ村から、農民の子が村長に推薦されて軍子会に行って、活躍している。

 その農民の子は、村の教会で勉強し、その意欲と才能を見込まれて、軍子会に推薦された子だという。


 農民の子でも読み書き計算ができるようになる。

 教会で教えれば、誰だって可能性はある。

 わたしが特別なわけじゃないと、力強く思ったものだ。


「そこで、ノスキュラ村の教会で、これからもつつがなく今の状態を維持できるよう、人材を選ぶ必要があったわけです。まずなにより、農民が相手だからと言って、教育をあきらめない、手を抜かない人」


 クイドさんの答えを聞いて、養父は大きく頷いた。わたしも、思わず頷く。

 その条件なら、確かにわたし・クララはぴったりだ。


「それから、新しいことに躊躇わない人。この場合、新しいことを取り入れるとか、色々なやり方を試すことを苦にしない、という意味だと思います」


 これにも、養父は大きく頷いて、ちらりとわたしを見て笑った。

 そうだね、アロエ軟膏の噂を聞いて、一度試してみたいと言い出したはわたしだった。

 作り方のメモが届いて、腕まくりして取り掛かったのもわたしだ。


「最後に……体力のある人」


 最後らしい条件を聞いて、養父とわたしは、首を傾げた。

 はて、体力? 神官業務に体力……不要とは言わないが、赴任する条件になるほど特別なものとは思えない。


「まあ、ちょっと変な条件だと思いますけど、ノスキュラ村の教会って、率直に言いますと、小さい子達の遊び場と化しておりまして……。フォルケ神官……前任の神官さんも、なんと言いますか、子供達の相手に手を焼いていましたね」

「あぁ、小さな子の集団の相手は、大変ですからね。子だくさんの家なんか、朝から晩まで大声が響き渡っています。そういうことでしょうか」


 養父はわかったらしく、それならば体力は必要だろうと苦笑いだ。

 確かに子供達がいつも走り回っているのは村でよく見る光景だ。

 世話役の年長者の子が、誰より一番走り回っていて、一番疲れた顔をしている。うん、大変なんだろうと察せられる。


 そこも、わたしなら大丈夫だろう。

 なんたって、薬草を探すために森を歩き回っている。体力はある方だ。


「うん、クララにぴったりの、よいお話ではないか」


 養父もわたしなら大丈夫だと思ったのか、柔和ないつもの笑みで見つめてくる。


「そうでしょうか。条件は、合っていると思います。思いますが……」


 わたしで大丈夫だろうか、という不安。

 わたしがいなくなって大丈夫だろうか、という不安。

 二つがあって、髪に手をやって指に巻き付ける。わたしの癖を見て、養父は小さく笑ったが、咎めはしなかった。


「前からお前は言っていたではないか。教会できちんと教育ができれば、もっと薬が作れる。もっと人が助けられる。ノスキュラ村で教育が上手く行っていると聞いた時は、どうやっているのか気にしていたろう」


 自分の目で確かめるいい機会だと、養父は笑う。

 それはそうだ。確かに気になっていた。今も気になっている。

 ノスキュラ村に行って、前任者がどんな風に教育をしていたのか、確かめたい。


 三人でも四人でも、読み書きができるようになれば……一人でも二人でも、薬師が増やせれば。


 誰か一人は、もっと多くの薬を作ることに力を尽くしてくれるかもしれない。

 誰か一人は、アロエ軟膏のように、新しい薬を発見するかもしれない。

 誰か一人は、家族を失うわたしのような人を、助けられるかもしれない。


 いつだって、その考えが頭から離れない。


「養父さん、わたし今日まで、精一杯養父さんのお仕事を手伝ってきたつもりだけど……」

「うん、とても助かっていたよ」


 これからは手伝えない。それが不安だった。

 身寄りのないわたしを引き取ってくれて、忙しい中でも教育を施してくれて、こうして領都の神殿から求められるほどの力をくれた。

 大恩がある。


 この恩に報いるには、ただ養父の元を離れるだけでいいのか。疑問が頭に絡みついて離れない。

 指に髪を巻き付けて、上目遣いに養父をうかがう。

 家族を亡くして、引き取られたばかりの頃、よくこうやって他人の顔色をうかがっていた。

 かつて見上げた時と同じように、養父は柔和な笑みで、優しく導いてくれる。


「これからも助けてもらえると嬉しいよ。ノスキュラ村でどんな形で教会を動かしているか。カンゾ村でもできるようならやるべきだろうし、薬師の手伝いができる人がいたらこちらに移住も考えて欲しい。いい人材は、どこでも貴重だからね」


 養父の元を離れても、手伝いはできるのだと、文字を教えてくれた時のように教えてくれる。

 懐かしさと嬉しさに、後から後から寂しさが混ざりこんできて、涙が溢れそうになる。


「はい、養父さん。これを機に、ノスキュラ村とカンゾ村、それぞれが発展していければと……発展していけるよう、力を尽くします」


 養父への恩返しは、これからだ。

 お世話になった一家から独立して、一人の神官として教会で働いて、二つの村の交流を取り持つ。


 ノスキュラ村では、教育のために力を振るおう。

 たくさんの人達に読み書き計算を教えて、薬師を増やして、薬師の手伝いができる人を増やして、養父のように優しくできる人を増やそう。


 これまでもぼんやりと思い浮かべていた夢が、今はっきりと追いかけるものとなった。


「クイドさん。ノスキュラ村の教会付き神官のお話、お受けしたいと思います」


 自分はこの夢を追う。その決意と共に、真っ直ぐに前を見る。

 もう、指は髪の毛をいじっていなかった。

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― 新着の感想 ―
寝ないで読みました。とっても面白かったです!まだまだこの世界に居たいので、販売されてる小説の方に行きます。ありがとうございました(^o^)/
切欠となったアッシュが大概過ぎんだよなあ それに続くもんが出て来ちゃったから流れが発生してるだけで 他の村にどう反映させりゃええんやそんな方法
ノスキュラ村で薬作りに励む文盲軍団を見たクララさんの驚愕ぶりが目に浮かぶわ。 アッシュも大概ですが伝説の美女も大概。 国一番の英雄様であるクライン村長と畑の脇の道端で農業改革してる半文盲アッシュ父を…
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