巣を継ぐ者2
【伝説の羽 クイドの断章】
ヤエ様から妙なご下問を受けた。
カンゾ村の教会に伝手はあるか、という問い合わせだった。
あるかないかで言えば、めっちゃある。
俺が扱っている商品のうち、薬関係はノスキュラ村か、カンゾ村のものだ。そして、カンゾ村の薬師は神官である。
薬を仕入れるためには教会を訪ねることになるし、薬の効果や注意点をしっかり確認するために、それなりに腰を据えて話もする。
結構あの教会の神官さんとは仲良しになったと思う。
そう答えたらめっちゃにっこりされた。
これ仕事のお話をする時の笑い方だ。俺、知ってる。
ユイカ様もこうやって笑うから、よく知ってる。
やっぱりご一族なんだなぁ……。
「では、神官見習いのクララさんのことも、ご存じでしょうか」
神官の方ではなく、見習いの方の名前を出されて、思わず首を傾げる。
なんだろうかと思うものの、相手は領主一族だ。別に隠すようなことでもないので、知っていると頷く。
「ええ、はい。見習いとはいえ、クララさんもよくお薬を作っていますからね。クララさんと商談をすることもありますよ」
「クララさんもお薬を。読み書き計算だけではないのですね」
「神官さんのお話だと、薬の調合術も覚えていれば、どこに行ってもやっていけるだろう、と。それで技術を教えたそうです」
カンゾ村の神官見習いのクララさんは、孤児として教会に引き取られた人だ。
ご家族が流行り病にやられて、クララさんだけが生き残った。ご家族の治療に当たった神官さんが、その責任を感じて引き取った、と聞いている。
「それは、どちらもお辛かったでしょうね」
「そうだと思います。ですが、どちらもご立派な方ですよ。色々あったのでしょうが、どちらも村の人達に慕われていますし、なによりお薬に間違いがない」
力強く頷くと、ヤエ様が食いついた。
「カンゾ村と言えば、薬で有名ですが、やはり違いますか?」
「ええ、質の高さと安定感が違います。と言いますのも、薬を購入した時の注意が細かい! 保管の仕方はこうするようにとか、どれくらい日持ちするとか、こういった症状がある場合には使うなとか。下手な薬師は、その辺が大雑把ですからね」
アッシュ君がノスキュラ村でアロエ軟膏を作り始めてから、薬師の良し悪しの見分け方もわかるようになった。
いい薬師ほど、自分の作った薬が万能薬じゃないってわかっている。
これには効くけど、あれには効かないって注意をしっかりしてくれる。それに、売れたかどうか気にする時も、売り上げではなく問題が起きていないかどうかを気にする。
つまり、自分の作った薬に責任をちゃんと持っているんだな。
俺も商品として扱う以上、責任を持てる薬を売りたい。
この点、カンゾ村教会の薬師さん達はとてもしっかりしているため、安心して取引できる。
「一度、熱冷ましの薬が効かないと別な村で相談されたんですけど、それをカンゾ村で伝えたらあの人達は熱心に調べてくださいまして。どうも熱を出している原因が寄生虫なんじゃないかってことで、虫下しを処方したら一発でしたね」
あれは感心した。
別な村での話だ。病人本人を見ることもなく、間に俺を挟んであれこれ聞き取りをするだけで、スパッと解決した。
本物ってすごいものだと、しみじみと感じ入ったものだ。
快復した病人とご家族には俺がえらく感謝されたけど、もちろん、感謝する相手はカンゾ村の神官さん達だよ、って言っておいた。
俺は薬の代金と輸送分の感謝だけもらえればそれで充分だからね。生まれ変わった商人クイドは決して欲張らない。
感謝一つだってぼったくらない適正価格営業を心がけております!
だから赤髪の子は物陰からこっちを覗かなくても大丈夫だよ!
「なるほど。なるほど。クララさんは、ご家族にご不幸があったようですが、それを憐れんだ猿神様が、よいお導きをしてくださったようですね」
「ええ、それはクララさんご本人もよくおっしゃっていますね」
健気なんだ、あの子。
ご家族を病で失って当然本人も悲しいけど、それで責任を感じて引き取った神官さんのことも気遣っている。
誰のせいでもないのに、親代わりの神官さんにお世話になってばかりではつらいと。
その分、クララさんは勉強に励んだらしい。
読み書き計算を覚えて、教会のお仕事を手伝えるようになりたい。
薬の調合を覚えて、もっと手伝えるようになりたい。
それができるようになった今は、自分みたいに病気が原因で悲しむ人達が減るように、もっともっと手伝いたいと言っている。
「本当にご立派な方だと思いますよ。薬の調合だって、材料集めから大変な作業でしょうに、取引量が増えると喜んで引き受けてくれますからね」
「それは村人にも慕われるでしょうね。ええ、わたしも立派なことだと思います」
ヤエ様の相槌に、俺も深々と頷く。
クララさんは俺よりずっと年下だけど、尊敬できる人なんだ。
「それだけ慕われているようですと、やはりカンゾ村で大事にされていますよね?」
「ええ、それはもちろん、そうですけど?」
当然のことなので肯定すると、ヤエ様が眉を寄せた。
「では、クララさんに別な村に赴任するように要請するのは、反発を受けるでしょうか?」
ヤエ様からの慎重な問いかけに、俺はここまでの会話がなんのためのものだったのか、ようやく悟った。
「あぁ……。ヤエ様、ひょっとして、ノスキュラ村の教会の……」
念のため、小声かつ言い切らない形で探ると、そっと頷かれた。
そうか、そうか。フォルケ神官の後任として、クララさんが候補に挙がったというわけだ。
神官見習いだけどいいんだろうか?
ちょっとわからないけど、候補に挙げる分にはいいんだろう。ヤエ様が無理なことをするはずはないか。
アッシュ君じゃないんだから。
「ええと、クララさんなら、ノスキュラ村に赴任するお話は喜ぶんじゃないですかね」
「本当ですか? 大丈夫でしょうか」
「ええ。先程も言いましたけど、引き取られたことを引け目に感じているところがありますから、独立する、しかもきちんと職を任された状態での独立なら、喜ぶと思います」
独立こそが恩返し、という気持ちさえあるだろう。
おまけに赴任先はノスキュラ村である。近頃あの村が上り調子であることは、領都の飛行機騒ぎと共に近隣に知れ渡っている。
流石はユイカ様のお膝元、我等がサキュラを支える立派な村を作られたと評判をよく聞く。
きっと、クララさんを引き取っている神官さんも安心して送り出せるはずだ。
自分の考えをそう述べると、ヤエ様は嬉しそうに笑いながら頷く。
うん、仕事を頼む時のアマノベ家の女性の笑い方だ。
「では、クイドさんにお願いしたいことがあるのですが……」
美人さんはお得だね。
大概の無茶ぶりもその笑顔一つで支払い完了だ。




