兄貴
「兄者!」
驚く岳。それに続々と続く。
「おぉ、サギの兄貴じゃねぇか!」
「ぎーさん!!」
風のように突如現れた白鷺。清明は「ほぉ」と声を漏らし、「げぇ」と又吉が嫌な顔をした。
「おい、化け猫。なんじゃその反応は」
「だ~~か~~ら!おいらは猫又だっつってんだろーが!この鳥野郎!」
「儂は由緒正しき大天狗ぞ?妖風情が何を申すか、弁えよ」
「~~~~っ!!そ~~ゆ~~トコが嫌なんだよ、おめェらの!!」
ふんと澄ました様子の白鷺に、シャーと毛を逆立てて怒る又吉。その二人を「ちょっと兄者、失礼ですよ」と宥め、「申し訳ありません」と謝罪し、仲介する岳。
「は~~はっはっは!仲いいなぁ、いいこっちゃ!やれやれ!は~っはっは」
こんなトンチンカンなことを言う男は一人しかいない。あまりにも的が外れすぎていて、皆が気を抜かれてしまった。
「――しかし、まさかとは思ったが……」
響き渡った怒号。それは、どれだけの月日が経とうとも忘れることはない。間違うこともない。
急いで駆けつけてみれば……現実は予想以上だった。
「久しぶりだなぁ、兄貴!なんだ、老けたんじゃねぇか?」
本当に「久しぶり」に会う弟分は、親し気にポンポンと肩を叩く。
「当たり前じゃ。何百年経ってると思っとる」
「「え、そんなに!?」」
目の前の男に、娘の声が重なった。
「ヨシノが転生してっから、せいぜい数十年くらいかと」
「んなわけあるか!!」
「ほ――……へぇ~~、お前、随分とこっち来なかったのな」
「……みたいですね」
娘も、「それは予想外」と意外そう。
面影はそのままだが、随分と美しく成長した。
「何百年なんてモンじゃないか?」
「……さて。いちいち数えておらぬのでのぅ」
尋ねられた清明はかわす様に答えた。
「まぁ、あの大人げない連中が一応顔布をするくらいは経っておるということじゃ」
「ん?」
その目が、喧騒に向いた。
「………何じゃあれは」
いがみ合う顔布集団。それが各々どんな者かは当然、白鷺は知っている。――むしろ、知らぬ方がおかしい。
しかし、疑いたくなるのも事実。名折れとはまさにこのこと。格も威厳もあったもんじゃない。
(……まだまだ健在か……)
ちらりと視線を動かした。
(……儂も山を置いてきたほどじゃしのぅ。わかるが、まぁ……)
「なぁ、兄貴!」
「!」
このタイミングで声をかけられ、バチッと視線が合った。
「な、何じゃ」
「おやっさんは元気か?」
跳ねていた鼓動が、凪いだ。
それは彼だけではなく、周りも同じ。
「親父殿なら、既に山に還られた」
「え?」
その隣で、父親そっくりの顔をした娘。
「今は儂が務めておる」
「……へぇ。じゃあ、兄貴が大天狗か。へぇ……」
そう言って、時間の隔たりを滲ませる。
「ったぁっっ!」
しんみりしていたかと思えば、いきなりバン!と叩かれ、思わず声を上げた。
「やるじゃん、兄貴!」
「やるねぇ、ぎーさん!」
これまた揃って、親子同じ顔。
「……そりゃどうも」




