再会
バタンと倒れたジェイデンの頭上には星が回っていた。
「ジェ、ジェイ――!?」
レオンとシェリーがすぐさま駆けつけ、覗き込む。
「……ほんと、おっかねぇ……」
半ば呆れるリルの脇で、白蓮は腹を抑えながらプルプル震えている。笑いすぎて声も出ない。
そして、目を向けた。
「……やっぱり、お嬢か」
そこには、眠り姫。
「……そりゃ、こうなるか……」
天気も悪ければ、気の流れも悪い。空気も大気も、何もかもが悪く荒んでいる。リルが来たというのに、その気配はどこにもない。
世界の一部を崩壊させるに至った〝いざなぎ〟や国の怒りは、既に世界各地に広まっている。
そこに、息を切らした万象が現れた。
「あ――――ら、しょーちゃん」
「………サラ」
はぁはぁと息が荒い。
「そーちゃんとしーちゃん、元気にしてる?」
「………あぁ」
現実を見ても「信じられない」。
双樹を当主に推したのは、〝いざなぎ〟の先代当主・撫子。そして、〝いざなみ〟の当主だったサラ。
だから、今でも双樹は彼らに瓜二つの子供たちに敵わない。
「双樹が……〝当主〟が、皆様に礼を。と――」
膝をつき、深々と頭を下げる。この感謝は、言い表せない。
「本来なら当主自ら馳せ参じる所。無礼をお許し願いたい」
堅苦しい文言を「あ~~、そんなのいいって」とサクヤは笑って払う。
「それどころじゃねーだろうしな」
現在、当主を筆頭に「結界師」鈴蘭、一族の有能な術師総動員で対応に追われている。
「それに、お前より無礼なのがわんさかと来やがった」
突如、顔布の一団が現れた。全員が神職のような装いで、顔を隠している。御簾のように隔てたそこにはうっすらと輪郭がぼやけている。
「へぇ、お前ら全員神使になったんか」
サクヤは珍しそうに目を輝かせた。
神の使いである彼らは、「神」に属す。顔布は俗世との境界であり、修行を経た〝高位〟の証。
「触るな!!ヨシノ!!」
声を荒げたのは、立派な白い尾が特徴のカサギ。稲荷の眷属だ。
そっと忍び寄っていた魔の手に気付き、咄嗟に抱えて守った。
「えぇ~~、いいじゃん。ケチケチしないでさぁ~~」
「阿呆!!」
大きく太い艶やかな尾を持つことが力の証。そこには神通力が蓄えられている。
「忘れたとは言わさぬぞ……貴様への恨み」
「え?恨み?……へ?」
本当に心当たりがない。「何のこと」と首を傾げる。
それがカチンと触れた。
「よいか、これは貴様らの枕ではない!よだれなんぞで汚してくれよって……っ!!」
ヨシノには過去、苦い思いをさせられた。おちょくられ、遊ばれ、いじられ、それはもう散々だった。
「今ならまだわかるけど、当時は修行中の身じゃん。そんなの洗えばいいだけでしょ、ちっさいなぁ」
「ちっさいぃ!?」
聞き捨てならない。人の誇りをよだれまみれにしてどこが「ちっさい」のか。
「ねぇ、久遠」
その相棒――久遠。彼らはいつも一緒にやって来て、しっちゃかめっちゃかにした挙句「まだまだ修行が足りないんじゃない?」と親譲りの悪戯な笑顔で去って行った。
「フン、たかだか狐の分際で何を偉そうに」
「あ?」
この見下す態度。これまた立派な雄々しい角を持つナガラは、春日の眷属。
「狐如きが何を――いたっ!」
頭を引っ張られ、首が変な方へ曲がる。
「ったたた、おい、サクヤ!」
「お前は相変わらず調子に乗ってんなぁ、えっらそーに。成長したのは見た目だけか?」
原因はサクヤ。角を掴み、ふぅ~と紫煙を吐く。
「この〝お鹿様〟がコノヤロー。人間に良くしてもらってるからって驕るなよ」
彼らは人間からとても大事にされており、「自分たちは特別だ」と傲慢な態度が目立つ。故に『お鹿様』と揶揄されている。
「我らは春日の神に仕える神使ぞ。敬うのは当然であろ」
平然とのたまうその頭をバシ――ン!と叩いた。
「~~~~っっ、何をするか、貴様ぁ!!」
「だからその態度を改めろって言ってんだろーが」
顔布を持つに至るには、千年の修行を要する。つまり、彼らは必然的にそれ以上を生きていることになる。




