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DOG  作者: 井上たつき
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 上空でバサッと翼の羽ばたく音がした。

 現れたのは、青い鳥。


「ぅおーい!リルじゃねぇか!」

「……サクヤ……!?」

 言葉を理解し、操るリル。

 彼は、春を司る世界を巡る神。彼が来ると、春がやって来る。

 本来ならいるはずのない面々に次々と驚愕する。サラ、ヨシノ、レオン、そして――

「………ジェイ?」

 まさかの姿に、声は心底驚いている。

「お前……無事だったのか」

 そして、ジェイデンの前へパタパタと羽ばたいた。

「オークは……どうした?」

 現在の彼の姿と無の反応。それに、刀。答えは、それで十分だった。

「……そうか……」

 彼が訪ねて来る際、ジェイデンとも面識を持つようになった。父の、古くからの友人。

「ねぇ、リルちゃん。この子と知り合い?」

 サラが友達のように親しげに話し掛ける。

「てか、なんでお前がいるんだよ」

「まぁ、諸事情?でさ、この子の母親知ってる?マニ族じゃない?」

「!」

 それは、正解の証拠。

「だったら、この子の安全確保が第一だよ。危ないよ」

「俺もそれには同意だ。こんなのがあの一族にバレりゃ、とんでもねーぜ」

 サラとサクヤ。それぞれがそれぞれの理由で、同じ結論を提唱する。

 結果は、ジュリアと同じ。『ジェイデンを守る』ということ。

「――清明」

「わかっておる。国が、受け入れたのじゃらかの」

 その言葉に、「言うじゃねぇの」と満足そうに笑った。しかし、その対応に周囲の空気が重くなる。それは、明々白々な不満と異議。

 そこに「なんで?」と疑問を投げかけたヨシノ。

「龍王はわかるんだけど、マニ族ってそんなに危険なの?」

「希少種なんですよぉ」

 答えた白蓮に、「希少種ぅ?」とサクヤが顔を歪にした。

「サラさんもさっき仰られてましたけど、マニ族ってのは山岳に住む少数民族。〝天空〟の名にふさわしく、雲の上の標高1万メートルに暮らしてるんです」

「1万メートルぅ!?」

 サクヤは目を剥いた。ヨシノも「信じられない」と顔が言っている。

 レオンも言葉を失った。彼の故郷は国土の大部分が山地。それらを遊び場に駆けずり回って成長してきたが、そんな桁外れな数字は見たことも聞いたこともない。

「そんなトコでヒトが暮らせんのかよ!?」

「人類の神秘ですねぇ。できるみたいで。おかげで、とんでもなくバケモノじみてたようですが」

「そりゃ、普通の人間じゃ死ぬだろうよ」

 国の最高峰はその半分以下。それでもそんな所に人は住んでいない。いて

「マニ族と言えば、歴戦の猛者も震え上がる名。とんでもなく攻撃的で強い戦闘民族で知られます」

「戦闘民族ねぇ……まぁ、そりゃ別に珍しくないけど」

 それはサクヤの言う通り。レオンの一族も立派な『戦闘民族』の部類に入る。

「高値で売れるんで、希少種のプレミア付きです」

「売れるぅ?」

「ムーンドロップは、現在『世界で最も美しい宝石』と言われる代物。その希少性もあって目玉飛び出るほどの高値がついてます。そりゃそうですよねぇ、マニ族の女が子供を産む時にしか出来ないんですから」

 サラの顔が、静かな怒りの色に染まってゆく。

「彼らは、死ぬと一緒に石も埋葬します。現在流通している多くが、殺し、掘り起こし奪ったモノ。今も『マニ族狩り』は続いています」

「………」

「ジェイくんは男なんで、命の危険はあるものの『商品』としての価値はそれほどです。おそらく、ぶっ殺されて石を奪われるか、石を奪われてどこかに売り飛ばされるかでしょうね」

 軽く「さほど問題ない」みたいな風に言うが、「十分問題アリ」だ。

「――ヤバいのは、女です。精製法がわかると、ハンターたちは血眼になって『マニ族の女』を獲物にした」

 シェリーは一気に恐怖に支配された。『ハンター』は、彼らの目下の敵だ。

 それに気づいたレオンは「大丈夫か?」と声をかけ、そっと支えた。

「捕まると、そりゃもう死んだ方が遥かにマシなくらいえっっらいヒドイ目に遭います」

 サクヤは「はぁ~~~」と地面にめり込むほど落胆した。

「その悪癖、まだ治んねぇのか……」

 狐目が、黄金を見た。

「きみが持ってるってことは、母君がマニ族やろ。あそこの男は身を挺し、命懸けで女子供を逃がしたと聞く。散り散りバラバラに世界各地に逃げ延びる最中、母君はきみの父君と出会ったわけや」

「…………」

「しかし、いくらバケモノじみているとは言っても人間は人間。龍の、それも王の血には耐えれん。種族が違うんやからな。出産が壮絶を極めたであろうことは想像に難くない」

「これは推測やけど――」と白連は続けるが、わかる者にはわかる。

 彼は既に、知っている。

「これは、御両親の形見。きみは自分自身にはま~~~ったく執着がないのに、コレには大層固執しとったからなぁ。それが無意識なら、本能か。それとも――」


『――は?』


 声が三つ、重なった。

 同じ髪色を持つ顔が、揃ってジェイデンに向いた。

「……君。そう言えば大概死んだ瞳してるよねぇ?それ、ふざけてるってレベルじゃないよ」

 黄金に、空が射し込む。

「……まさか、自分のせいで親が死んだ。とか思って悔いてたりするわけ?『生まれてさえこなければ~』みたいな」

 呆れと小馬鹿で事実を突いたサラの発言に「嘘でしょ!?」とヨシノ。

「あのねぇ、子供がそんなこと思うんじゃないっての!なんじゃそれって感じよ!クソほどにも役に立たないわ、そんなモノ!思うくらいなら生きろっての!!」

「その通り!親が子供に命懸けるのは当然!それを悔やまれちゃ、死ぬに死ねないっての!てか、親の存在意義を全否定でしょ!それってアリ!?ナシでしょ!!」

 サラとヨシノのダブルコンボは、全てにおいてジルを遥かに凌駕する。

「君にはさ、この声が聞こえないわけ?」

「…………こえ?」

 三人の顎が激しく落下した。崩れ落ちた表情に、白蓮は勢いよく吹き出した。

「あぁ~~~、ダメだこりゃ!ヒドイよ!」

「嘘でしょ?こんなに強いのに……えぇ!?」

「……そりゃ、コッチも聞こえないわな」

 そう言って、サクヤは手に持つ短刀を見た。

「お前なぁ、親ナメるのも大概にしとけ?」

「そうよ!いい?よ~~く覚えときなさい!母ってのは、この世で一番強いのよ!!」

 サラの名言にヨシノも「そうそう!その通り!」と強く賛同し、サクヤも「本当にそうだよなぁ」と感慨深く頷いている。

「というわけで……」

 ジェイデンの前に、スッと拳がそそり立った。

「今までの経験上、こんな瞳には何言っても効かないんだよね」

 ポキポキと不穏な音を鳴らし、わざとらしく笑う顔がじわじわと近寄って来る。

「それに、やっぱそれは母親としてムカついたし聞き捨てならないから……大人しく一発殴られて」

「私も私も。やっぱ、母親として黙ってられないわよね」

「俺も、父親としてその態度は如何なモンかと思うねぇ」

「………………、え」

 ジリジリと詰め寄る矛盾する笑顔と拳。

 そして、脳天に響く衝撃に襲われた。


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