ペンドラゴン
「初めまして。母です~」
サラはにこやかに微笑んだ。
「いつも仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね」
初対面にも関わらず、ずっと見知っていたかのような態度。本人は初めての「らしい」行為に、「うわ、ちょっとテンション上がる~」と興奮気味。
美しい顔が微笑んでいる。どう思うとかそんな『意識』の問題ではなく、勝手に鼓動が跳ね、勝手に身体が熱くなる。
もしかしたら、ジュリアもこうだったのかもしれない。
「……お、お強いのでございますね」
「そ~お?」
憧れる彼女の母親。それは当然、尊敬に値するだろう。
娘の為に流してくれた涙をそっと拭う。すると、腫れあがっていた真っ赤なそれが元の美しい瑠璃に戻った。
「こ~んなの、朝飯前のへっちゃらよ?タフじゃないと流浪人なんてやってられないからね!」
最後に、パチンとウインク一つ。涙に濡れていた頬はポッと赤く染まり、ホ――と惚ける。
「――どうだ、うちの女は。すげぇだろ」
いきなり、鼻高々に割り込んできたサクヤ。
「うちの女は花のように別嬪なんだが、気性が激しくてな。『花嵐』って呼ばれてて、天真爛漫、自由奔放が売りなのよ」
「なぁ、岳?」と問いかけた先では、何とも返し難い複雑な笑みが待っていた。誰の目から見ても一目瞭然だが、そんな可愛いものではない。
「一度起これば、自然に止むまで待つしかねぇ。変に首突っ込もうもんなら、スパーン!とそのまま持ってかれるぞ。気ぃ付けな」
そう言って、手刀で首を横に裂くジェスチャー。
「うちの女は、おっかねぇんだ」
悪戯に笑う。その姿が、太陽に見えた。
「――で、お前。ココに何かつっかかってんな」
サクヤは、レオンの胸にツンと指を突き指した。
「……13」
呟かれたそれに、ドクンと鼓動が揺れた。
「……って、13!?お前、13人目なの!?」
あっと驚き、仰天した。
「お前の親父、すっっげぇな!さすがドラゴン従えるだけあるよ!マジですげぇよ、すげぇすげぇ!13人!艶福家かよ!?へぇ~~、すっっげぇ~~!」
サクヤはバカの一つ覚えのように「すげぇ」を何度も繰り返す。それは感心と興奮なのだが、レオンの顔色は暗く沈んて行く。
そんな彼の頭に、ポンと手を置いた。
「イイ宿命もらったじゃねぇの」
「……え?」
沈みかけていたそれが、ふわっと軽く持ち上げられた。
「13ってのは忌避の数。縁起のいいモンじゃねぇが……イイじゃねぇの」
「………」
「『越えて行け』ってことだ。しかも、お前の名は百獣の王、勇猛果敢な『獅子』だ。これ以上の期待はねぇだろ?」
片方の銀河が、バチンと瞬いた。
「……うん、やっぱりねぇ~。やっぱり似てるよ」
サラはレオンを眺め、ウンウンと頷いている。
「………?」
「君、リックの息子でしょ?」
「!」
それは、レオンの父――リチャードの愛称だ。
「なんか増えてるね。私が会った時はちょうど双子が生まれたとか言って、チョ――盛り上がってね~。それでもすごいと思ったけど、本当にすごいね。13人か、へぇ~~~」
サクヤは「へぇ、どんなやつなの?」と興味深々。肩がワクワクと動いている。
「獅子と熊の掛け合わせみたいな男ですよ。獣もビビって逃げるくらいなんですけど、中身がめっちゃ男前なんです。いや~~イイ男でしたよ」
「………似てますか?」
「ん?」
その問いかけは、テンションの高い会話の中で異質だった。
「………似てますか?」
自信なく、なんとも不安げ。
シェリーも、じっと見つめる。彼のこんな姿を見たのは初めてだった。
「似てるよ。わかんない?」
それを吹き飛ばす、サラの断定。
「まぁ、あんなにおっそろしくないけどね。母上に似たのかな?よかったね~~、母上に感謝しなよ?アレはもう『人間ですか、獣ですか』ってなったら絶対に獣寄りだったからね。しかも、笑うと一番怖いってゆーね。っははは!ウケる~~!!」
世界に『ビースト』として名を馳せた父。生まれながらの野獣は、笑うと『魔王』になる。
「…………」
彼女の中で、父はしっかり存在している。
「――あれ?ペンドラゴン?」
グイッと、割って入ってきたヨシノ。どうやら、お説教はひと段落したらしい。
「わ――お。ほんとにペンドラゴンだぁ。なっつかし――!」
レオンの姓は――〝ペンドラゴン〟
名は、レオン・ペンドラゴン。彼もまた、禁族。
「お前、会ったことあんの?」
父親からの問いに「ありますよ」と娘。
「当主に謁見したんですけど、これがまたイイ男でぇ。有名なだけあると思いましたね」
「……へぇ、さすが〝アーサー王〟」
サクヤは、ニヤリと悪戯に笑った。




