心の友よ
「よぉ、心の友よ」
突き出した拳。片手で煙管をふかし、ニィと悪戯に笑うその顔で。
様になるのは当然のこと。元々は彼が愛用していた代物だ。
隔てた時間などお構いなしに。共に過ごした、そのままに。
「おう、心の友よ」
山と言えば川。合言葉のように、互いに心をコツンと重ねた。
「しかしまぁ、年月は流れるモンだねぇ。ヨシノは転生してるし、まさか久遠があんなナリになってるとは思わねぇじゃん?北斗は……死人かよありゃ」
娘を前になす術もない二人を見て「ありゃ怒るわ」と一言。岳は苦笑するしかない。
「でさ、さっきめり込んだ太陽の髪は誰?」
「お嬢の父君」
宇宙が広がる。彼らは、口もそうだが顔もよく喋る。
そして、景気良く吹き出した。
「はっは――――――!そりゃ傑作!サイっっコ――!」
大口を開けて、ゲラゲラと大笑い。中腰で膝をバンバンと叩き、岳も思わず「いったぁっ!」と声を上げる力で背中を叩かれた。
「―――で」
ピタリと止まり、銀河が強く閃光した。
「さっきからなんだぁ?その態度は」
前屈みを胸を張ってそり返し、その独特の斜をつくる。
「ジンジャー」
呼びかける、不敵。
槐の眼に、もう何も映ってはいない。あれほど明確な殺意を抱いていたジェイデンさえ、もう無用。
槐にとって、目下の宿敵はヤツだ。
「お前、ほんっとちっちぇな。成長しねぇガキだな、ほんと」
槐は感情を露わにしている。根っから隠すつもりもないのだろう。
「相変わらず、清明のケツばっか追いかけてんのか。お前がしょぼいまんまだから、隣に立つことも支えることもできねぇんだよ。チンケな嫉妬する前に、てめぇがデカくなることを考えやがれ」
「!」
それが地雷とわかっていながら、控えることなくズカズカと踏んで行く。爆発しないのは、それを制する清明の厳しい眼があるからだ。
槐はサクヤを心底嫌っている。その原因が、清明。
美しい極彩色に宿る眼差しは、この世で一番好きで、この世で一番嫌い。
プイと拗ねたようにソッポを向くと、槐は逃げるようにその場を去った。
「――済まぬの」
清明は、ジェイデンに謝罪した。
「お主が悪いわけではない、気にするな」
それはまるで、保護者か飼い主。
「……アイツ、マジでガキだな……」
成長どころか後退している幼稚な態度に呆然とするサクヤ。そして、白蓮は声を失う程に笑っている。
「――あいつらも同罪だな」
それは、娘のご叱咤を受けている二人組。
「グダグダウジウジ情けねぇから清明がこんな面構えになっちまうんだよ。ったくよ~」
「……お前、何言ってんの?」
心の友からの胡乱な眼に「ん?」と変な顔をした。
「だってよ、こいつ『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花』って言われた高嶺の美人だぜ?そんで、うちの女が霞むくらいの絶世の『舞姫』。こいつが舞う日は、出雲顔負けの『神無』よ。惚れてた男はアイツだけじゃねぇよ」
からかうような悪戯な眼差しに、漆黒の双眸が揺らぐ。
「結果、俺の相棒にしちまったけどな!」
ポンと後ろから頭を叩き、トコロテン方式で舌をベッと出した。非常にふざけた顔だ。――もし、これを槐が見ていたら……
そして、渋い顔で腕を組み「う~~ん」と唸る。
「今も今で美人だけど、どこぞの太夫かと思ったぜ。昔とはえらい変わり――」
「お前やろ!!」
「………え、何が?」
カッと声を発した岳。きょとんとするサクヤ。
「どう見てもこれはお前の目やろ!そっくりやろーが!お前やお前!だからあいつがあんなに機嫌悪いんや!」
最も好きな女に、最も嫌いな男の面影が出て来る。それは心底気に喰わないだろう。だから、色々と苦労しているのだ。
「えぇ~?こんなキッツイかぁ~?俺はもっとソフトでマイルドな優しいお兄さんだろ。ついでに心は男前ってゆーな。はっは――!」
「はぁ~~~?」
岳はあんぐり口を開いた。
――昔から、この男に勝てたことは一度たりともない。




