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DOG  作者: 井上たつき
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本領発揮

 ヨシノは、北斗と久遠と向き合った。近寄る彼女に、二人は釘付け。

 その隙に、サクヤは清明と岳の手を引いてそそくさと安全な場所へ避難した。

「……ヨシ――」

「そこへなおれ―――っ!」

 北斗を遮り、轟いた声。ザァと風が吹き、山が揺れた。

「座れ!ほら!久遠も、お座り!」

 ビシビシと指を指し、命令する。反射的に、彼らはそれに従った。

「何なのよ、その顔は!ふざけてんの!?ナメてんの!?なっっさけない!」

 腰に手を当て、仁王立ちで上から怒鳴る。さっきまでの御機嫌はどこへやら。相当お怒りのご様子だ。

「いや、俺は――」

「言い訳しない!見苦しい!」

 微かな弁明も、全てシャットアウト。

 すると、急にグルッと顔が動いた。向かった先は、あらかじめ避難させられた清明と岳。

「……よう帰った」

 迎え入れる声に、綻ぶ笑顔。

 懐かしく、焦がれたその姿。それは別れた時よりも大人び、とても美しくなった。

「おかえり」

 岳の声。ヨシノは安堵したように笑った。

「ただいま。会いたかったわ」

「俺もやで」

 すると、ほんわか温かなその余韻もバッサリと切り捨てて「コレだよ、コレ!」と、急転直下の怒りを再び二人に向けた。

「笑顔で『おかえり』くらい言えないわけ?辛気臭い、この世の終わりみたいな顔して!何なのそれ、ありえないっての!それが人を出迎える態度かってのよ!」

 二人共、散々に言われっぱなしだ。

「私は、約束を守って帰って来たのよ。それが、何コレ?もしかして、ずっとそんな顔して過ごして来たわけ?ほんっと、裏切りだわ!」

 岳の懸念通り、やはり怒られた。そして、失望も免れない。

「約束、守ってくれなかったんだ?」

 ヨシノは責める。しかし、仕方のないことだった。彼らを失った世界で、笑って楽しく過ごせるわけがない。それを、恨まずにはいられなかった。

「つまり、私は無駄死の犬死ってわけね?」

「違う!」

 北斗が声を張り上げた。長年の付き合いの岳が思わず目を瞠るほど、こんな感情的な彼は長らく消えていた。

「それは、違う。………絶対に」

「なら、なんでそんな顔してるわけ?そんな顔されたんじゃ、私が命を懸けた意味がないじゃない。ほんっと、ヒドイ。ガッカリだわ」

「だから、違う!」

「そうは見えない。アンタたちの中に、私は見えない」

 二人共が、同様に怯えた。

「私を殺したのは他の誰でもない――アンタたちよ」



 サラは振り返るなり駆け、それを助走に飛んだ。

「っっっざけんなぁっ!!」

 見事な飛び蹴り。頭を左から右へ振り抜き、レイの身体はそのまま遠くへ飛んだ。

 ドォン!と衝突した幹が震え、大量の木の葉が舞い落ちた。

「――――――っ!!!」

 突然のことに、周囲は言葉を失う。

「ったく……なめてくれやがってコノヤロー。私はペロペロキャンディーかってのよ」

 胸の前で指をポキポキと鳴らしながら、うずくまるその姿に近寄って行く。BGMは白蓮の大爆笑だ。

 そして、眼下に見下ろし仁王立ち。

「相変わらず、気味の悪い死んだ瞳してるね。死んだ魚もビックリだよ」

 それは、誰にでもわかるレイの変化。暗く濁るその青は、死んでいる。

「いや~さ~、実はずっと見てたわけ。でも、やっぱり娘の大事な身体だし?オカンがでしゃばるのはいかがなものかなと思ってね。何分、長い間眠らしちゃったからね。起きるまでに時間がかかる。あの子の身体はあの子のもの。私は見守るだけにしようと思ったの」

「………」

「そーしたら?まぁ~~~~散々ふざけてくれやがって。もう、イライライライラして、もし会った時にゃあ、どうしてくれようかと……っ」

 顔やら手やらがわなわなと悶えている。

「ほんっとにさぁ……もう」

 墓場から這い上がったそれのように、身体がゆらりと前へ。

「こんの……野郎が!!」

 胸ぐらを掴み、そのまま両手で天高くに放り投げた。

 観客がその放物線を追う。「わ~~~~お」と眺める声も。

 再び助走をつけ、その小さな身体は軽く地を離れた。まるで翼でも生えているかのように、レイの上へ到達する。

「めり、込めぇっ!!!」

 身体を捻り、そのまま足を振り落とす。直撃したレイの身体は、隕石の如く急降下した。

「――――――っ!?」

 土煙と、地盤を何層も貫く荒い音。

「ったく……娘の前で何さらしてくれてんだっつーの」

 ふんっと鼻息荒く。パンパンと手を叩いた。

「………っぷ。あ~~~っはっはっはっは!!」

「レ、レレレレ、レイさ――――ん!?」

 レオンとシェリーは急いで穴に駆け寄り、ジェイデンは二つ、パチパチと瞬いた。

「……………」

 穴を覗けば、深い地の底に。大きな体が米粒の大きさになっていた。

(……とんっっでもねぇ……)

 レオンは冷や汗をかいた。

 比じゃない。ジュリアなんか、本当に可愛いモンだ。

(でも……これはモロ好み。ドンピシャだな)

 昔、父親が「最高の女」だと言っていたのを思い出す。

「――皆様、失礼を致しました」

 すとんと軽やかに降り立った、それは爽やかな笑顔。

「死臭を放つ大気汚染の元凶は除去しましたので。どうぞご安心を」

 首を傾げ、ニコっと歯を見せて笑った。

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