任せた
短身細躯の着流し姿。挑発的で強気な黒の双眸に、ピンピンとやんちゃに跳ねる蘇芳の短髪。
彼からは、晴天の太陽の匂いがする。
「なんっっっじゃこりゃあ!」
開口一番、サクヤの放った一言はこれだった。
「ぅおぉい、清明!」
ギュン、と猛スピードで顔が方向転換した。
「こりゃ一体、どーゆー事だよ!」
「済まぬの、わたくしでは手に負えぬ。異常事態の緊急事態、非常事態宣言じゃ」
「はぁ?」
そのすぐ後、両手を上げるその真意に気付いた。
「……なるほどね。先祖返りがいるのか」
空気を味わい、読む。
「しかも……なんじゃコレ。バケモノ揃いか」
白連は「っくくく……」と肩を揺らしている。
「それにしても……これは荒れすぎだな」
脚をズリズリと肩幅に広げ、着物の裾をまくしあげる。胸を張って大きく息を吸い込み、目一杯に溜め込むと、腹の底から大砲のように吐き出した。
「ふざけんじゃねぇぞ、バカ野郎共が!ナメてんのか、この、ボケェッッ!」
嵐のような怒号。暴風には堪えるのがやっと。衝撃でビリビリと大気が痺れ、木霊となって伝播する。
染み渡って馴染む頃、ずっと続いていた不安定な揺れが、ビックリ驚かされたシャックリのようにピタッと止んだ。
「……っ、あっははははは!」
白蓮は腹を抱え、苦しそうに身体を捩らせて笑い出した。
「うわっ、髪が白い!マジか、生まれつき?」
清明が「そうじゃ」と答えた。本人は、そんな余裕がない。
「お前も苦労すんなぁ。……これも時代の定めか?」
上を向いたまま、ニッと笑う悪戯な顔が覗く。――彼は、いつもこう笑う。
そして、眼を落とした。『銀河』と言われる、光をたくさん集めた黒。
「……ひでぇな。どうなってんの?」
「バイオロイドだそうじゃ」
「……バ、バイ……んん?」
「要は、人造人間じゃ。姫は鳥人間での。キメラやミュータントとも申すらしい。諸々と手を加えられておる」
「鳥人間!?何それ、飛べんの!?」
「わたくしが初めて会った時、姫には翼が生えておった。歩くよりも先に飛んだぞ」
「翼!?でも、ねぇじゃん!どったの!?」
「……諸々あっての。……済まぬ」
「なんでお前が謝んの」
「いや……」
犯人は身内にいる。思わず謝罪せずにはいられない。
しかし、彼のことだ。全部その眼で見抜いてお見通しかもしれない。
「主の好きな、科学よ」
「……へぇ。しかし、人間ってのは欲深いねぇ~。だからこそ進化も発展もするんだろうけどさ。……でも、いくら俺でも死人は無理だぜ?」
それは地雷だ。ケロッと禁止コードを口にしたが、発言者本人はまるで気にしていない。
レオンは「ジルだ」と思った。
「……なるほど、魂か。……へぇ…これはまた……」
眠り姫をまじまじと眺め、サクヤは興味深そうに笑った。
「やっぱ、うちの女は最高だねぇ」
そう自慢げに笑うと、「じゃあ、よろしく」と清明の肩を叩き、彼女が持つ煙管をひょいと奪い取った。
ツーと言えばカー。清明がおもむろに取り出したのは、二枚の紙の人型。それをジュリアの胸元に置くと、それを前に何やらブツブツと唱え始めた。
型がふわふわと言の葉に乗って宙に舞う。そして、それが完全な人の形を成した。
まるでサクヤのように。現れた、二人の美少女。
誰もが言葉を失い、驚くその光景。特筆すべきは、二人の造形。
パッと同時に開眼し、澄んだ空が揃って光る。
(……ジル……)
まるでジュリアのクローンだ。
それぞれに些細な違いはあるが、造形や色彩はまるで同じ。両人ともにかなり小柄で、ジュリアとの大きな違いはそれくらい。あとは、バッサリと肩上で切られた髪。
パッと、その内の一人――おかっぱ頭とサクヤが向き合った。
「とと様――!」
「ヨ~シノ~~!!」
ガバッと広げた胸に飛び込んだ。そして、グルグルと回り始める。
「とと様、お久しぶりです」
「お前……立派になったじゃねぇの~~」
上から下まで何度も往復して。愛娘の姿にサクヤは心から笑った。とても誇らしく。
「おーおー、髪もバッサリいったのな」
「そりゃ、当主ですから。似合います?」
「はっは――!お前が当主!イイねイイね!似合う似合う!めっちゃ似合うぜ!」
「イメージは清明様なんですよ」
「ん?」
いきなり話題に上がり、漆黒の睫毛が揺れた。
「理想の当主像、ハイブリッドでへいらっしゃい!って感じです」
「な~~るほどな。それでおかっぱ!」
サクヤは豪快に「はっは――!」と笑う。
(………ジルだ)
見た目だけではない。感じるそれがそうだ。そう思ったのは、レオンだけではない。
「お前、直毛だもんなー。色は俺だけど、こりゃ誰似だぁ?」
ヨシノの髪はおかっぱ頭。確かにそれは、清明と同じ。
(……ほんに…性質が悪い……)
それは、今も昔も同じ。いつまで経っても、敵う気がしない。
「俺の髪は――こっちだな」
毛先が元気にピンピンと跳ねる。それは、どこか少年らしさを感じる。
初対面のはずなのに、そう感じさせない。ずっと会いたかった昔の旧友に会ったような笑顔。
「お疲れ様です。サクヤ様」
「おー、お疲れさん。様はいらねーよ」
愛娘と同じ顔。まさか、会えるとは。
「……お前」
独特の斜の角度で、ニィと笑った。
「やっっるじゃ~~ん!オイオイ~~」
ツンツンと悪戯に肘で突かれ、サラは「えっへへ」と後頭部を撫でた。それは、親に褒められて喜ぶ幼い子供のよう。
「ありがとうございます」
「そうよ、さすがよ!!私も鼻が高いわ」
そこにヨシノが入り、しばらくなんとも不可思議な会話が繰り広げられた。
「んじゃ――とりあえず」
サクヤは、 ポンと二人の肩を叩いた。
「後は、任せた」




