表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DOG  作者: 井上たつき
PR
71/86

任せた

 短身細躯の着流し姿。挑発的で強気な黒の双眸に、ピンピンとやんちゃに跳ねる蘇芳の短髪。

 彼からは、晴天の太陽の匂いがする。

「なんっっっじゃこりゃあ!」

 開口一番、サクヤの放った一言はこれだった。

「ぅおぉい、清明!」

 ギュン、と猛スピードで顔が方向転換した。

「こりゃ一体、どーゆー事だよ!」

「済まぬの、わたくしでは手に負えぬ。異常事態の緊急事態、非常事態宣言じゃ」

「はぁ?」

 そのすぐ後、両手を上げるその真意に気付いた。

「……なるほどね。先祖返りがいるのか」

 空気を味わい、読む。

「しかも……なんじゃコレ。バケモノ揃いか」

 白連は「っくくく……」と肩を揺らしている。

「それにしても……これは荒れすぎだな」

 脚をズリズリと肩幅に広げ、着物の裾をまくしあげる。胸を張って大きく息を吸い込み、目一杯に溜め込むと、腹の底から大砲のように吐き出した。


「ふざけんじゃねぇぞ、バカ野郎共が!ナメてんのか、この、ボケェッッ!」


 嵐のような怒号。暴風には堪えるのがやっと。衝撃でビリビリと大気が痺れ、木霊となって伝播する。

染み渡って馴染む頃、ずっと続いていた不安定な揺れが、ビックリ驚かされたシャックリのようにピタッと止んだ。

「……っ、あっははははは!」

 白蓮は腹を抱え、苦しそうに身体を捩らせて笑い出した。

「うわっ、髪が白い!マジか、生まれつき?」

 清明が「そうじゃ」と答えた。本人は、そんな余裕がない。

「お前も苦労すんなぁ。……これも時代の定めか?」

 上を向いたまま、ニッと笑う悪戯な顔が覗く。――彼は、いつもこう笑う。

 そして、眼を落とした。『銀河』と言われる、光をたくさん集めた黒。

「……ひでぇな。どうなってんの?」

「バイオロイドだそうじゃ」

「……バ、バイ……んん?」

「要は、人造人間じゃ。姫は鳥人間での。キメラやミュータントとも申すらしい。諸々と手を加えられておる」

「鳥人間!?何それ、飛べんの!?」

「わたくしが初めて会った時、姫には翼が生えておった。歩くよりも先に飛んだぞ」

「翼!?でも、ねぇじゃん!どったの!?」

「……諸々あっての。……済まぬ」

「なんでお前が謝んの」

「いや……」

 犯人は身内にいる。思わず謝罪せずにはいられない。

 しかし、彼のことだ。全部その眼で見抜いてお見通しかもしれない。

「主の好きな、科学よ」

「……へぇ。しかし、人間ってのは欲深いねぇ~。だからこそ進化も発展もするんだろうけどさ。……でも、いくら俺でも死人は無理だぜ?」

 それは地雷だ。ケロッと禁止コードを口にしたが、発言者本人はまるで気にしていない。

 レオンは「ジルだ」と思った。

「……なるほど、魂か。……へぇ…これはまた……」

 眠り姫をまじまじと眺め、サクヤは興味深そうに笑った。

「やっぱ、うちの女は最高だねぇ」

 そう自慢げに笑うと、「じゃあ、よろしく」と清明の肩を叩き、彼女が持つ煙管をひょいと奪い取った。

 ツーと言えばカー。清明がおもむろに取り出したのは、二枚の紙の人型。それをジュリアの胸元に置くと、それを前に何やらブツブツと唱え始めた。

 型がふわふわと言の葉に乗って宙に舞う。そして、それが完全な人の形を成した。

 まるでサクヤのように。現れた、二人の美少女。

 誰もが言葉を失い、驚くその光景。特筆すべきは、二人の造形。

 パッと同時に開眼し、澄んだ空が揃って光る。

(……ジル……)

 まるでジュリアのクローンだ。

 それぞれに些細な違いはあるが、造形や色彩はまるで同じ。両人ともにかなり小柄で、ジュリアとの大きな違いはそれくらい。あとは、バッサリと肩上で切られた髪。

 パッと、その内の一人――おかっぱ頭とサクヤが向き合った。

「とと様――!」

「ヨ~シノ~~!!」

 ガバッと広げた胸に飛び込んだ。そして、グルグルと回り始める。

「とと様、お久しぶりです」

「お前……立派になったじゃねぇの~~」

 上から下まで何度も往復して。愛娘の姿にサクヤは心から笑った。とても誇らしく。

「おーおー、髪もバッサリいったのな」

「そりゃ、当主ですから。似合います?」

「はっは――!お前が当主!イイねイイね!似合う似合う!めっちゃ似合うぜ!」

「イメージは清明様なんですよ」

「ん?」

 いきなり話題に上がり、漆黒の睫毛が揺れた。

「理想の当主像、ハイブリッドでへいらっしゃい!って感じです」

「な~~るほどな。それでおかっぱ!」

 サクヤは豪快に「はっは――!」と笑う。

(………ジルだ)

 見た目だけではない。感じるそれがそうだ。そう思ったのは、レオンだけではない。

「お前、直毛だもんなー。色は俺だけど、こりゃ誰似だぁ?」

 ヨシノの髪はおかっぱ頭。確かにそれは、清明と同じ。

(……ほんに…性質が悪い……)

 それは、今も昔も同じ。いつまで経っても、敵う気がしない。

「俺の髪は――こっちだな」

 毛先が元気にピンピンと跳ねる。それは、どこか少年らしさを感じる。

 初対面のはずなのに、そう感じさせない。ずっと会いたかった昔の旧友に会ったような笑顔。

「お疲れ様です。サクヤ様」

「おー、お疲れさん。様はいらねーよ」

 愛娘と同じ顔。まさか、会えるとは。

「……お前」

 独特の斜の角度で、ニィと笑った。

「やっっるじゃ~~ん!オイオイ~~」

 ツンツンと悪戯に肘で突かれ、サラは「えっへへ」と後頭部を撫でた。それは、親に褒められて喜ぶ幼い子供のよう。

「ありがとうございます」

「そうよ、さすがよ!!私も鼻が高いわ」

 そこにヨシノが入り、しばらくなんとも不可思議な会話が繰り広げられた。

「んじゃ――とりあえず」

 サクヤは、 ポンと二人の肩を叩いた。

「後は、任せた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ