不滅の太陽
「……なるほどな」
アンドロジナスと称される類稀な美貌。才色兼備な逸材は静かに燃え盛る感情に支配されいた。
その空気は、荒れ狂うよりも遥かに恐怖を煽る。
「下衆の考えることは決まってゲスだな。なにが『俺は死なない。俺は不滅。だって、神だから』だ。ふざけんな、とっとと死に晒せ」
『結局は科学。所詮、人間だから。あんなのが神ならとっくの昔に死ぬ。二度と生まれてきたくない』
響く声は、ピピン。やはり、ボリボリと音がする。
外で動く彼らの視界は、全て映像として共有されていた。ここに集う三名だけでなく、作戦に関わる主要メンバーは全員。
『アイツの確立した『不死』って、自分の脳をデータ化して保存してストックのクローンベースに移植するって方法なの。確かにバカディはアイツを殺したけど、本当に殺すにはデータとストックをやらなきゃダメだった。じゃなきゃ、いくらやってもモグラ叩き』
それが、手品のからくり。
「…………はぁ」
ため息をついたのは、誰も近寄れない恐怖の地雷原にわざわざ足を踏み入れたウー。
ドMではないが、死にたがりで途方もないアホではある。
「そこまでして生きたいか?理解できねぇ。いや、したくもないけど」
『でも、死んだ人間は動きやすい。だって、〝存在しない〟から。その影で相当好き勝手してたみたい』
「そこに目を付けたのか」
美しいブラックオパールが光った。
「あーゆータイプは大事なモノほど自分の傍に置きたがる。だから、ジュリアを使ったんだろ。未練タラタラだったみたいだし。なんせ『フェニックス』なんて無茶が成功したのはジュリアだけ。あいつがいなくなった後もクローン作って何かしらしようとしたみたいだけど……ダメだったと」
『トロイの木馬だな。ジルが向こうに入った瞬間、あっちの情報が全部ユエに流れてる。それを、フランツがハッキングに成功して入手した』
「結果とすりゃ、ジュリアはアイツに上手いコト利用されたってことだな」
その情報を元に、ノエルの指揮で要所を一斉に急襲した。その内の一つが、ジュリアたちが送られた研究施設だ。
現在、状況はこちらの勝利で収束しようとしている。
「〝創造主〟で、神ってことか?ヤツの研究データ見たけど、マジで気味が悪かった」
「…………は?」
そうのたまうウーに、なまじ綺麗に整っているだけに異形となった恐ろしい顔が向く。
「お前の言いたいことはわかるけど、これは普通に厄介な話だ。実際ヤツは不死の研究をして、『ウイルス』って形で結果も残してる。あのバカ見てみろ、一切歳食わねぇじゃん」
若々しさを保つレイ。彼はウイルスに感染して特異体質になってから、一切加齢しない。その当時をずっと保っている。
そしてここにはもう一人。レイと同じ感染者――ユエがいる。
「それに、今回の目的は『死者の蘇生』だろ?ジュリアに絶命して使いモノにならなくなった被検体をくっつけてたからな」
ウーの顔色も最悪だが、テオは違う意味で最悪。
『それで今、実際に『神』。お前の嫌いなただの無能じゃここまでデカくはならない。俺たちが劣勢で、凶悪な犯罪テロ集団ってのが現実』
「……クソ共が……っ」
チッと舌打ちの音。
『でも、まさかのハッキング。相手がユエだし、ちょっと驚いた。あのギラギラのハングリーな野心家なら意地でもやってのけそうだけど』
「……いつの間にこんなしたたかになったんだ?綺麗な花のプリンスだったのに……」
ここで、ウーがわずらうこじれた悪癖が始まった。
『俺的には高山植物って感じ。時々、そよ風吹いてない?』
「きっと……いや、絶対。絶対、毒されたんだよ。……あぁ、ヤダヤダ。だから男ってのはこう……」
「うざい、黙れ」
ブツブツと悶々する様にテオが一喝し、そのモヤモヤを破壊した。
「――現状は?」
強い視線が、直にウーを追求する。
「バカが戦線離脱だ。昔に逆戻り。ありゃ屍だな」
そう言って宙を仰ぎ、溜まったストレスを吐いた。
「あいつは主体がない。度を越えた依存体質だ。それに寄っからねぇと生きれねぇ」
「チッ、情けない……っ!」
『でも、ジルは爆発してバラバラ。留めに、首。あんなの見たら誰でも狂う』
「……さすがに同情するわ」
ガクンと大きく肩を落とす。
『薔薇の騎士団は、結果的にあいつらにやられたようなモン。ウイルスで全滅したからな。死人になったレイを生き返らせたのは、他でもないジル』
「……ジュリアがいなきゃ生きていけねぇ。ジュリアは、あいつの命だ。それが目の前で壊されたんだ。そりゃ正気も失うよ」
レイの左腕。刻まれた二つのそれは、彼の命。
「――でだ」
重度の男嫌いであるウーが、わざわざここに来た理由。それは、恐怖の鬼から呼び出しをくらったから。
「白薔薇ってのはなんだ。あのバカはあの力で国一つ潰したんだぞ」
『炎を鎮静化させた技術力も気になるけど、あの状態のレイを撃つ腕も相当』
二人が、ウーからの答えを待つ。
「戦場に出てない。だから、『薔薇』にいなかった」
「あの姿からしてアルビノだな。アレは太陽に弱い。身体も強くないだろうし、戦場じゃまず真っ先に死ぬだろうな。……あの薔薇将軍がそれを許すとは思えない」
「……間違いなく名将だ、アレは」
それが、なぜあんな最期を遂げなければいけなかったのか……
「薔薇の騎士団は将軍・ユリウスへの忠誠心の塊と言える。『薔薇』を持つ連中は特にだ。フェルナンドの話じゃ、最も心酔していたのが白だとか。要は……あいつ以上」
「影みたいな男だ。闇に潜む影は……気付けない」
「――で?」
ウーは、その意味を正しく汲み取った。
「再生と接合は終わった。バラバラな上、同化融合のせいで溶けて無くなった部位があったからな。……これで、記録更新。オペ回数、ぶっちぎりの一位だよ」
今日のウーは、白衣でなく手術着。直後、ここに直行した。
「全部総入れ替えだ。核も他も全停止。内部からイったから損傷も激しかった」
「核を止めなきゃジュリア自身が再生するからな。今回のあの腐敗臭だだ漏れの下衆野郎の目的がそれなら、そうせざるを得ないだろうな」
『不死に固執しすぎたな。結局、その弱点をユエに使われた。最後は操られたマリオネットで人生終了。まぁ、本人はそんな事実、何一つも知りはしないだろうけど』
「しかし、核が停止してるってことは『死んだ』ってこと――」
「どぉも~、失礼します~」
突如現れた、狐の面。
「すいませんねぇ、幹部様のご歓談中に~。あ、ピピさん。ご無沙汰ですぅ」
『……ハクレン?あと、ピピじゃなくて――』
「ウーさんも。いつもうちの姫さんがお世話になってぇ」
「……あ、いや……」
ウーの後ろで「ちょっと!まだ途中!聞けコラ!」と不平不満が重なっている。
ジュリアが特異なのは、幼い頃の環境が影響している。
生まれてから、突入したレイに発見されるまでの数年間、彼女は『モノ』だった。その後遺症が、今も色濃く残る。
ウーは、そんな彼女の担当主治医。
「テオさんも。相変わらず、色々と凄まじいですなぁ」
「それはお前らだろ。全部諸共、沈めてくれて」
ジュリアのいたラボは、跡形もない。絶海の孤島を改造し、最新技術の鎧で鉄壁の要塞と化してそれは、今や海の藻屑。
「え~?何のことでしょ?」
「とぼけるな。あいつをキレさせたのもお前だろ」
テオの問いに、白蓮は笑うだけ。
「あと、あのプレミア。こっちがどれだけやっても探知出来なかった。――どういう意味だ?」
ここでも、ただ笑うだけ。何も答えない。
「そーやそーや。うちの大切な姫さん、そろそろ返してもらってええですか?頃合いかと思って来たんですけど」
「……どうする気だ?」
主治医としては、それは聞いておく必要がある。
「どうするって、治すんですよ。こんな空気の悪い、息の詰まるトコにおっても回復するわけないでしょ。実際、前に姫さんが意識取り戻したんもうちでしたやん」
「でも、死んでるんだぞ」
「死ぬ?んなワケないやないですか」
テオの言葉を、ピシャッと断裁する。
「うちの姫さん、甘く見てもらっちゃ困りますよ。大体、そちらさんの倫理なんて知ったこっちゃありません。勝手に殺さんとってくれますか」
テオを相手に堂々と物申す白蓮。軽いが、一切物怖じするすることがない。それどころか、圧している。
「それに、姫さんが死んだら皆さんも全員死ぬんですよ?わかってます?」
これも軽いが、間違いなく本気。脅しなんてもんじゃない。
手を組んでいるのは、ボランティアじゃない。利害が一致したからだ。それにあたっては契約を結んでおり、それが破綻すれば当然この関係も崩れる。
だから、ジュリアには絶対死んでもらっては困るのだ。
「ぼくが心底惚れ込んだ姫さんが、こんなもんやと思います?皆さんは姫さんが『人間』であることにこだわるけど、そんなモンどうでもいい。大事なのは『姫さん』や」
そして、はっきりと言ってのけた。
「我らが太陽は、不滅なんですよ」




