薔薇は朽ちない
心臓が、脳が、身体が、嫌でも反応する。
「〝オルカ〟が海の覇者になったのは特殊精鋭部隊の存在が大きい。俺も噂程度にしか知らなかったが、本当にあったんだな。――存在しない、『チーム0』」
それは、最も思い出したくない忌まわしい記憶。
「なるほど、傭兵集団。だからあんな危険な使い方ができる。あれが国民なら間違いなく反対勢力が出て国政に影響しただろう。よくできた制度だな、さすが超大国」
(……バレてる)
それは、彼が『フェルナンド・アルバ』になる前の最後の経歴。
「愛する者を失う――それは世界を失うも同意。耐え難い苦しみだ。それを自らの意思に反し、自らの手でせねばならないなど……地獄だったろう。同情する」
「………」
「左腕は、その代償。お前の苦しみであり、確固たる心だ。――心からの敬意を」
それは騎士の振舞いで。フェルナンドの知る『白薔薇』とは全くの別人だった。
(いや、でも……間違うわけがない)
薔薇の騎士団で最も悪名高く、最も恐れられたのが『青薔薇』。しかし、フェルナンドは青よりも白の方が遥かに危険だと判断していた。今でも、それが間違いだとは思っていない。
(………生きていたのか)
死亡者リストには彼の名がきちんと記載されていた。
唯一の生き残りが、レイ。そのはずだった。
組織はウイルスを兵器として使用した最初の事例だと認識している。
「上にいるのはベルクートだな。あんな飛び方をするのは他にいない」
「………」
「あの命知らずの無謀さは誰かを彷彿とさせて、よく覚えてる」
見上げていた顔が、フェルナンドに向いた。
「鎮静剤を撃っただけだ。死にはしない」
そして、色違いの薔薇へ。
「本当に、相変わらず暴走する。……こんな姿は知らなかったけど」
それは、懐古。そして、新しい発見。
「俺は、お前たちと戦う為に来たんじゃない。もし戦わなければならないとしても、それは今じゃない」
「………」
「今のレイに、俺の声は届かない。だから、もしコレが目覚めるようなら伝えてほしい」
その口元が、綻んだ。
「――『薔薇は朽ちない』、とね」
「ひゅ~、かっこええですなぁ~!」
沸いて出た、その声。
いつの間にか、最後のジュリアは狐の腕の中。そして「はい」と軽くフェルナンドの腕の中に。最後のピースが揃った。
「!?」
天井がバラバラと崩れ落ちる。
上下に激しく揺れる衝撃、耳を潰す爆音。破片やら何やらが崩落する混乱の中、その場は視界を遮る濁煙に包まれた。




