炎
レイが発火した。
猛烈な熱風が放たれ、ただでさえ沈没寸前の船が本格的に壊れ始める。
「……っ、…レイさんっ!」
もう、声など聞こえない。こうなった彼は、誰も止められない。
戦場で誰もがその存在に震えあがったと言う、史上最強の切り込み特攻隊長。それが今は、正真正銘のバケモノになった。
それは青い太陽。全身から烈火の如き炎が燃え上がり、辺りは灼熱地獄。炎はあっという間に蔓延し、その場は凄惨な火の海と化した。
「まさか、生きてるとは思わなかった。あの時のウイルスはまだ試験段階だったからね。てっきり皆殺しにしたと思ってたよ」
炎は全てを排し、寄せ付けない。自らが最大の武器となり、そのままマッドリーと激突した。
兵士として優れた実力を持つレイ。それが感染の影響で人間のレベルを超えた。スピード、パワー、全てが桁違いだ。
「この前も思ったけど、お前はかなり珍しい個体だね。発火体質とは。なにか特別な抗体でもあったのかな、是非調べたいね」
キレたレイの攻撃を受けながら。ペラペラと語るこの余裕。
レイもだが、当然マッドリーもその域にいる。普通の人間のように簡単にくたばるわけがない。だからこそ、レイが殺したはずのこの男は今も生きている。
彼らが衝突すればするほど、長引けば長引くほど、事態は悪化の一途を辿る。今のレイは、心が砕けた殺人マシーン。本来の彼に戻っている。
ジュリアはマッドリーの手によって造られた『フェニックス』。最たる特徴はその名にふさわしい再生能力であり、彼女は『死なない』。
それは人間が永く求めた『不死』であり、転用すれば最強の力となる。フェルナンドたちがここに来るまでに出会った彼女たちは間違いなく『兵器』としての産物であり、オリジナルであるジュリアにも当然その能力が備わっている。
だが、バラバラになった彼女は再生しない。
この状態では、レイ自身ががかろうじて残るそれを葬りかねない。それは何としても避けたかった。
フェルナンドは彼女を回収し、抱きかかえる。人間である彼がこの炎の中、無事に動けるのはこのスーツがあるから。
このスーツの耐熱基準はレイの炎。これがあれば守ることができる。
残るは、ジュリアの首ただ一つ。フェルナンドが手を掛けようとした、その時――
風が一閃した。
時間が止まった。
再び動いた世界では――火の海が消えていた。
「!?」
マッドリーが貫かれ、壁に磔になっている。
一度殺されているからか、あまり動揺は見えない。ただ、それが予想外ではあったよう。
「あ~あ。俺の美貌が」
残念そうに自ら脳幹に刺さった刀を抜こうとするが、ビクともしない。
普通、脳幹を貫かれれば死ぬ。……本当にバケモノだ。
血の一滴も出ていない。中身もだいぶいじったのだろう。
(……う、そ……)
鎮火したレイ。立ったまま動かない。なぜなら――仕留められたのだ。銃口を向ける、その男に。
全身が異様なほどに白く、髪も肌も全てが大理石で出来たような乳白色。美しい白の中で、目元だけが黒のアイウェアで覆われている。
フェルナンドは、その名を知っている。『アルベルト』で探っていたのが彼らだった。
(……白、薔薇……)
薔薇の騎士団――〝白薔薇〟ロラン・ガルディ。まさかの登場人物だ。
「まずい!」と思って確認すれば、最後のジュリアは他者の腕の中で眠っていた。
(なっ……!)
最後の最後で、奪われた。
まるで山のよう。屈強な体をローブに包み、顔の半分をマフラーでグルグル巻きに隠している。
だからか、どうも気になる。
(……なんだ、この目……)
「お前も辛いな」
「!」
白が、自分に向いている。
「――〝キャプテン〟」
「!!」




