大罪の幕開け
猛烈な黒い狼煙が上がる。
それは、反撃の合図。神を殺す、大罪の幕開け――
全ての先陣を切る、特攻。
暴走は黒い突風と化し、群がる数多を薙ぎ払う。他の追随を許さず、跡には残骸が転り、消えるだけ。決して、後には振り返らない。
黒装束に身を包み、宙を猛然と駆け抜ける。
この最新型のエアバイクを最大出力で使いこなせるのはこの男くらいだ。彼の技量がなければ、この超高速を自由に操ることなど不可能。邪魔は全て撃ち落とし、一切の歯止めなしで暴走し続ける。
フルフェイスのシールドに示される施設内の図面。灯る赤い光が、目指す場所。
ただ、其処だけ。それ以外、何も見えない。
施設のセキュリティは、既に味方の手によって解除、停止状態。何もかもを壊し、潰し、先へと進む。
今のレイを妨げるものなど……何もない。
(やっぱり、暴走したか…!)
天空では、撃墜王が怒り狂っている。
指示を無視し、感情で動く彼はもはや『完璧な兵士』ではなくなった。サイボーグに、人間臭い弱さと強さが宿った。
(……くそっ)
彼が対峙しているのは、ずっと背負っていた可愛い妹。フェルナンドも、レイも、可愛がっていた幼い彼女を何度も何度も撃ち落とした。
だから、怒れない。自分だって、今にも何かが切れそうだ。
ジュリアに何かがあって、この二人が黙っているわけがない。指示など無視に暴走する。そんな現場で指揮をとれる人物は限られる。その役目にフェルナンドが選ばれた。
――ノエルの予想が最悪の形で実現した。
黒装束姿のフェルナンドが到着すると、レイが呆然と立ち尽くしていた。
明らかに、今までとは異なる特別な空間。穢れのない無機質な白は、脅かされることも侵されることもない。それ以外には何もなく、ただそれだけの為に在る。
空間に浮かぶ、巨大な装置。これがレイを止めた原因。施設とは独自に切り離された特別なセキュリティから鑑みても、これがいかに特別で重要なのかがわかる。
透明のカプセル。液体の中に、それは眠っていた。
「……!」
解析され、シールドに指示が映る。レイに代わり、ミッションを遂行する。
撃ち込んだ銃弾はオーダー通りに命中し、サーバーダウン。その隙を見逃さず、中身を傷つけないように器だけを破壊した。目的を確保すると、そのまま一目散に退却を始める。
やるべき最優先事項は『ジュリアの救出』。
腕の中に抱く本物。しかし……
見惚れるほど美しかった彼女の身体は、何かに溶けてなくなる過程。融合し、奇形な物体と化している。
「………っ」
それでも、その寝顔はいつもと変わらず美しく安らか。こんな絶望の中でも、いつか見た希望を見せてくれる。
「!」
腕の中で、強い鼓動が鳴った。




