ティティ
「……………」
驚異的な動体視力を持つジェイデンは、その一部始終をしっかりと目にした。
本来なら、目にも止まらない。だから、玉は気付かなかった。
一瞬の早撃ちで、銃口は急所を数か所仕留めた。
「……っはははは!バカじゃない?こんなので俺が死ぬわ、け――」
驚いたように固まった身体は抵抗を許されず、倒れ込むようにそのまま地に伏した。
「知ってるよ。普通じゃ死なないことくらい。自分に改造しまくって、とっくの昔にバケモノになってたってね」
高見の玉座から、勝手に崩れ落ちてきた。
「――ごめん、さっきの訂正するよ。君はもう、『ただの人間』なんかじゃない」
それは、とても落ち着いた静寂の音。
「自分を過信して自惚れすぎたね。君はただ、悪魔に利用されただけ。もし君が本当に『神』だというのなら……いや、そんな仮定もする気にならないな」
身体が、足から次第に硬化の波に呑まれていく。
「一応、自分のケツは自分で拭かなきゃね」
それを見下ろす。立場は完全に逆転した。
「呪うなら、自分の愚かさを呪いなよ」
冷たい一瞥。
完全に硬化したそれは、粉々に崩れ果てた。あっという間に風化し、さらわれてどこかへ消えて行く。
「――出ておいで」
さっと振り返り、隠れていた姿が現れた。
それは、王子か貴公子か。ヘルシーな褐色肌に美しい黒髪。アーモンド型の双眸に埋め込まれた黒曜石。見目麗しい、なんともゴージャスな美貌。
「私はティティ。敵意はない」
銃を下に置き、足で遠くへ。両手を上げ、その意思を示す。
形のよい両耳で、赤い宝石が光っている。
「話をしよう」
柱の影から、ジェイデンは姿を見せた。
瞠ったように、黒曜石は姿を変えた。しかし、すぐに元に戻る。
「もしよければ、君の名前を聞いてもいいかな?」
「………ジェイデン」
何かに導かれるように口を開いた。それは、自分の理解が遠く及ばないどこかの何か。その姿は見えず、何かもわからない。
「そう、ジェイデン。とても似合ってる。良い名だね」
『そっかそっか。ジェイデンか。いい名前だ。でもお前、バカだから自分の名前の意味も分かってないんじゃないか?』
ふと、蘇った。今まで一度も思い出したことがなく、意識したこともなかった。それがなぜか、今。脳に届いた。
「……よい、名?」
「うん。とても素敵だと思うよ」
ティティは、チャーミングな微笑を向けた。
「ジェイデンには『翡翠』の意味がある。君の髪の色だね。そして、翡翠は『玉』。つまり、君は宝なんだよ。ご両親にとって、ご家族にとって、君はそんな存在なんだろうね。お似合いの、素敵な名前じゃないか」
『でも、名前負けだな』
再び、声が届く。
『めっちゃ残念。恥ずかしい生き様だ。死に急ぐバカは醜いぞ』
それはまるで、鐘の音。何かを知らせ、目覚めさせる音。
「ところでジェイデン。君、なんでこんな所にいるの?」
問われても、答えを持っていない。一番わかっていないのが彼自身だ。
「急に来たよね。ちょっとビックリしたよ」
「……知って、た?」
「あ、この言い方だと語弊があるね。アレは気付いていない。あ、でも!それは君がとてもすごいからだよ。本当に!」
あせあせと動いていたそれが、ジェイデンを真正面にピタッと止まった。
「ここまで上手に気配を消せる人は、本当にそういないんだ。だから、君を見て少々驚いてしまった。――失礼したね、謝罪する」
そう言って、誠意をもって頭を下げた。
「本当に素晴らしいよ。どこで学んだのか……君から指導を賜りたいくらいだよ」
見つめ、覗きこむ。黄金に、黒点が浮かぶ。
するといきなり、「そうだ」と目の前が眩しくなった。
「私と一緒に来ない?」
「………一緒?」
「大丈夫、私が守るから。ねぇ、どうかな?」
『お前は死なせない。絶対に幸せにしてやる。それが、お前を拾った私の責任だ。だから、任せろ。大船に乗ったつもりでな。ドーンとだ』
ティティに、ジュリアが重なる。何度も何度も、蘇る。
しかし、二人は全く異なる。健康的な肌や身体、感情が生きる瞳や言葉。「生」を感じる彼とは、まるで違う。
ジュリアは、実際のところ明らかにジェイデン側だ。そうは見えずとも、本質は同じ。
ジェイデンとティティの対面は、まさに対極の対面だった。死と生、陰と陽、マイナスとプラス。それがなぜ自らと同属のジュリアを想起させたのかは、ジェイデン自身わかるはずもない。そもそも、ジェイデンは未だに何もわかっていない。
「!」
瞬間、黄金が揺らめいた。同時に、ティティも今までにない大きな反応を見せた。
いつの間にか、囲われた。そして、目に映るそれに――
捉われた。




