エラー
「はぁ!?ジュリアがいない!?」
対応に目まぐるしく追われるテオは、予想外のピピンからの通信に珍しく声を荒げた。
「どういうことだ!説明しろ!」
『ユエ。セキュリティに穴開けられた』
「はぁあ!?」
『わざわざご丁寧に修復までしてくれて。復元してわかった。マジ、ムカつく』
言葉がだいぶ流暢で聞き取りやすい。これは、既に全開モードに入っている証拠。
ボリボリと何かを食べている気配がする。そんなことはいつものことなのに、妙に神経を逆撫でする。
「何やってんだ、このハゲ電波!」
『寝てた。今、新しいのを構築中。あと、ジルと一緒にあのプレミアがいない』
「はぁぁあ!?」
『だっていないんだもん』
「だもん言うな!この万年寝ボケオヤジが!寝腐ってんのか!」
『お前だってトシそう変わらんだろ。見た目は年齢不詳だけど、実際は四十路の若づくりオヤジ。しかも、性別不詳の男女。詐欺。変態。お前のがよっぽど。しかもうるさい』
「ふざけるな!僕の美しさは全てを凌駕するんだよ!」
『〝僕は美しい。そして、優れ秀でている〟だろ?知ってるよ、お前の口癖』
これはテオが高らかに謳う行動指針でもある。
彼は基本、罵詈雑言の辛辣な毒舌家。その言動は確立された絶対的な自己評価に裏付けされており、これはその最たる象徴だ。
『もう耳タコでうんざり。ゴミ箱ポーイ』
「あぁ?」
しかし、ピピンにとってはそんなことはどうでもいい。意味もないし興味もない。その為、さよならバイバイだ。
苛立つ耳に「あ、そうだ」と追加。
『マックスが落ちたって。状況的にユエが内通してたってのが強い』
「~~っ、あの能無しイカレジャンキー!!脳ミソ溶けてんのか、使えない…っ!」
『アホウー?あれなら今、マックスの緊急治療中』
「はぁ!?」
『急を要すから。あいつ、病人は区別しないからね。それに、あいつの『男嫌い』って『自分嫌い』だろ。こじれすぎてて面倒だけど、やる時はやる。それはお前もわかってるはず。じゃなきゃ、あんなうざいのとっくの昔に殺してお払い箱だろ』
テオからしてみれば、この「何でもわかってます」風な態度が心底気に入らない上に、癪に障って腹が立つ。
『穴はノエルがカバーしてるけど、アレこそ潰れたらエライことになる。なんかこの前、セッパ詰まった顔で俺のトコ来たし。一応フォローに回っとく』
「~~~~っ!お前が予定外の時間に起きると本当にロクなことがない!もう、一生寝てろ!連絡して来るな!つーか、寝すぎなんだよ!起きろボケ!動け!働け!」
『……お前こそ頭大丈夫?……いや、おかしいのは元からか』
「うるさい!」
『だからうるさいのはお前』
――テオ、ウー、ピピン。この三本柱は、組織を支える幹。
難ありの曲者揃いの組織において、彼らは一際アクとクセが強く、極めて扱い辛い。が、それに負けず劣らずの実力を兼ね備えている。
「とっとと居場所特定しろ!」
『エラー』
「はぁ?」
『うちに残ってる二人は起動してる。いないあいつだけが、エラー』
状況が状況なだけに、危険分子には全員、ここに来た瞬間から。本人も気付かぬうちに発信機が仕掛けられていた。
『あの制御装置はすごい。それに嘘はない。ホント、無能嫌いで実力主義のお前が見出しただけある』
ジュリアが腕に付けるあれには、もしもの時の為にと発信機が仕込まれている。彼女の身を案じる、友人たちの愛のカタチだ。
『でも、専用の液体かなんかで外れンでしょ。シュリは確かに天才だけど、あいつはそれと同じかそれ以上だから。作ったんじゃ?』
「……あの、クソボケカスが……絶対殺す」
おそらく、今のテオなら相手を呪い殺せる。沸々と何かが溢れだしている。
認めたくないが、やはり認めざるを得ない。状況はいつだって後手だ。それに腹が立って仕方がない。
『もうちょっとしたら忙しくなるから、前線サポートと搬送受け入れの準備』
「僕に指図するな!キチガイ電波野郎!」
普段の彼は廃人も同意。しかし、一度起きれば百人力どころの話ではない。
ピピンの頭脳は、時空を越える。
『……うるさ』
呟く声の奥から、ボリボリと噛み砕く音がした。




