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DOG  作者: 井上たつき
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ジェイデン

 ジェイデンの持っていたものは少ない。

 それが本当に少ないのかどうかはわからない。ただ、本人はずっとそう思っていた。

 それしかなく、それが全て。それに全ての価値を見出してきた。今まで生きてきたのは、生きてこられたのは、間違いなくそれがあったからだ。

 それが、ジェイデン。ジェイデンという存在。存在する意味で価値。ジェイデンを形作る全て。

 しかし、それも今は失った。

 掌に掴むものは、何もない。確かめるものは、何もない。感じることの出来ないそれが、自分を曖昧にさせる。

 そして、ついに見えなくなった。

 ジェイデンは、届かない。いつもいつも、届かない。

 わかっていた。わかっていたはずなのに、本当は何もわかってはいなかった。

 そもそも、「わかる」とは何なのか。それさえももう、「わからない」。

『捨てたのはお前だろ』

 時折、脳裏に響く声。その度に、鈍痛で何かが揺れる。

 捨てたつもりはない。でも、そうなのかもしれない。虚ろな中で、そう思う。

 ずっと自分を捨てたかった。自分を、どうしても許すことが出来なかった。それだけの価値を、自分に見出すことが出来なかった。

 ――本当は、何もいらない。

 ――でも、どうしても失いたくない。

 ――それだけは、どうしても譲れない。

 奥の奥の奥……自身も気付くことのない、深い深い深淵の奥底。そこで息を潜める確かなもの。それが、意識の外でジェイデンを衝き動かす。

 そのことに一番気付いていないのが――ジェイデンだ。

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