拾い癖
「おかえりなさいませ」
扉の開く音と共に、千が出迎えた。
「お疲れ様でございました。――幸様」
男はその状況が全く理解できず、地面に縫い付けられたようにその場で突っ立っていた。
「おぉ、コウ。戻ったか」
そして、カウンターから店主が振り返る。
この『招き屋』は、又吉と住み込みで働く幸と千によって営まれている。
「………せ、清明殿!?」
この色彩、このオーラ。見間違うわけがない。
この存在は世界にただ一つだ。
「待ってたぜ――い!」
「………え?」
特徴は「電球」と言われるスキンヘッド。非常に頭の形が綺麗で『美頭』とも呼ばれる。決して「ハゲ」ではない。
ついたあだ名が「海坊主」。
両耳にはそれぞれサンゴの耳飾りが一つずつ。見た目は「ファンキー兄ちゃん」だが、実は真面目な苦労性。
「おめェさんに用があンだとよ」
「わ、私ですか!?」
鮮やかな背が、くるりと回転した。
「――姫が会いに来たであろ?」
「っ!」
黒が心臓に突き刺さる。
ただの問いかけが追及に聞こえる。それは幸だけでなく、他二名も同じく感じたことだった。
「私……と申しますか、その、ですね……」
いつもは、誰かと一緒に来る。それが一人でやって来た。
清明の見つけた、その痕跡。謎の物体は彼女なりの『招き猫』。
不格好ながらもなんとか形をを成す鶴は彼女の『得意』。そして、見た者が「なんじゃこりゃ!?」とたまげる墨絵はめでたい『多幸』。
彼女がつくった縁起物。それは、彼女が来る度に増えてゆく。
『あのさ、乙ちゃんに会いたいんだけど』
清明が座る同じ席で。開口一番そう言って、慎重な幸が杯を割ったのはつい先日のこと。
「萬殿に頼まれたそうなのですが。まぁ、当然と言いますか……断られたようで……。それで、私の所に」
後半の方は、もうしどろもどろ。変な汗をかいている。
「萬と言やぁ、乙姫の使いだ。見つけた時も一緒にいたんだってな。さすがお嬢ってトコだな」
「あやつは契約の一人ぞ」
「ふぁっ!?」
酒を片手に固まる又吉。話を知らない幸は、意味がわからず頭上に「?」が浮かぶ。
そして、苦悩する。
「……姫様だけなら、可能だったでしょうが……」
「ナニィ!?」
続けざまに変な声を発し、凝固が解けた。
「お嬢、アレを連れてこうとしたのかよ!?それはダメだろ!」
「それに加え、あと二名」
「二名?」
「どうも影響を受けたようじゃ。親善を計ったのであろ。『手を組めば最強!仲良しイエーイ!』と叫んで、天高く拳を突き上げていたという目撃談があっての」
「うわァ……」
非常に「らしい」。容易に想像がつく。
「で、その二名ってのは誰なんだィ?」
「赤い竜と海神。その王子と姫じゃ」
又吉は異彩を瞠り、顔を覆った。
「まァ~~た、なんてェ人選だィ……それを呼べるお嬢も流石としか言いようがねェが……」
それは鬼門だ。
「我が姫は非常に誇り高いお方でして……」
「神連中は大体そうじゃ。自身の存在、守護する責を誉と思うておる。乙姫は我が国の重要な海神。主ら多くの眷族を従え、その前では頭を下げる」
萬の耳は、その証。
そして、幸も。
「今でも国が残っているのは姫の多大な貢献があってこそ。誰もが一目も二目も置く。――じゃが、それは『我が国』の話。『世界』の話ではない」
それは痛い話。
本人の前では口が裂けてもいえないが、世界的に見て知名度はほぼ皆無。無名の神だ。
「はっきり申し上げて、謁見は不可能かと。……むしろ、全力で回避して頂きたい!」
渋っていた顔が、最後には鬼気迫っていた。
「乙姫なァ……なかなかキツイ性格してるとは聞いてたが、やっぱそうなンだ?」
「――――」
無知とは恐ろしいものだ。又吉の寝ぼけたような惚け具合を見て、幸はそう思った。
「まァ、なんたって?『地上でイイ男探して来い』って城からほっぽり出されたんだだろ?マジ剛腕。超ウケるんですけど」
「いや、笑えませんから。本気で……」
路頭に迷っていたところ、偶然又吉と出会い、「ナニソレ。チョーウケル」と面白がられて拾われた。
そして、見つからないまま今に至る。
(……人のこと言えるのか)
千も幸も、又吉が拾った。そして、自分の元に置いて面倒をみている。――しかし、彼にそんな性質はなかった。
彼らの拾い癖は、非常に有名な話だ。




