幸せ
いつのも場所で、飲めや歌えやのお祭り騒ぎ。
各地から親交のある者たちが集い、とっておきの美酒を味わう。それはもう、極楽の刻。
「そうだ。今日はお前らに話したいことがある」
「お。なんだよ改まって~」
なんだなんだと酔った声が騒ぎだす。その中で、一つだけ神妙な美しい白粉の貌。
赤黒い蘇芳の髪が。ざわっと風に揺れた。
「俺たちは、国を出る」
「久遠」
いつ動くかと思って見ていれば、明るかったのがドップリ暗くなってしまった。
室の中。胡坐を組んでじっと一点を見つめる丸まった背に声をかけた。
「お前なぁ、どんだけおんねん。なんかあるとすぐここに来んのやめぇ。御所はお前が入り浸る場所とちゃうぞ。勝手に入った挙句長居して……御門連中に怒られてもしらんで」
反応はない。聞こえているのか、いないのか。
薄暗いそこには伝国の宝。国の財産が大切に眠っている。
「しかし、まさかこんなモンが残ってたなんてなぁ。……サクヤが見たら喜ぶやろな」
灰色の髪が、揺れた。
「最近はお嬢も顔を出すようになったらしいな。まぁ、興味をそそられるのは当然やな。っくく、『のんちゃん』やって。かわいらしい呼び方やこと」
「………」
「春重のトコにも足繁く通って、御上にも『どうして』『なんで』『教えて』の質問攻めで、あの牛頭馬頭まで手を焼いてるってんやから……ほんま、かなわん」
彼らが描いた歴代の肖像画がずらりと並ぶ。しかし、見つめているのはそのどれでもない。
「綺麗やなぁ……」
桜を愛し、生涯桜を描き続けた男。そんな彼の、唯一の例外。
――国宝『少女と狼』
美しい春の幻が鮮明に。どれほど時が経とうと、色褪せず。
込み上げる感情。それは、隠すことも無視することもできない。
失ったものの大きさに、胸が痛む。
「でもな、過去ばっか見てるわけにはいかんねやで。俺らは――今を生きてるんやから」
抱きしめる晴れ着姿の少女。その両腕の中には、甘えるように顔を寄せる絶滅の種。
空の瞳と蘇芳の髪。喜と楽の混ざった明るい色が、太陽のような満面の笑みで輝いている。
「清明もええ加減にせぇって怒ってる。未練タラタラの情けない面、お嬢に見せるわけにもいかんやろ。何より、そんな顔してたら本人に怒られる」
「………」
「しっかり引き締めて、とっとと出て来い。ええな」
そう言って、岳は姿を消した。
「………」
目の前にいる。なのに、隣にいない。
その名は――『幸せ』。
「ヨシノ……」




