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DOG  作者: 井上たつき
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混血の異端児

 白蓮の口から、長年に渡る因縁を聞かされた。

「う~ん、難しいことはわかんねぇわ」

 その反応は、正直予想外だった。

「いや~、大物ですねぇ~」

「ん?何が?」

 白蓮は覚えている。レイに初めて会った、あの時を――

「でもさ、確実に言えるのは、それがなけりゃ俺は可愛い娘を授かることもなかったわけだ」

 昔のレイと今のレイ。『父親』になる前の彼は、今とは完全な別人だ。

 今の彼が在るのは、娘在ってこそ。逆に言えば、娘がいなければ今のレイは存在しない。

「それに、憎いのはアイツじゃねぇだろ?確かにその血は引いてんだろうけど、それ言われたらジュリアは世界中から憎まれることになっちまう。それはさすがに勘弁してほしいしな」

「………」

「親の罪は子の罪じゃねぇ。持ち込んでやるな、関係ねぇよ」

 彼だった理由が、今となればよくわかる。……そっくりだ。

「まぁ、お前らが何抱え込んでようがジュリアには関係ねぇと思うけどな」

 ハクレンは、唸った。

「……何?」

「いや~、さすがですねぇ~。彼らの本領を知ってるだけありますわぁ~。御見それしましたぁ~」

「いや、サラとジュリアは全然違うぞ?確かに似てるとこもあるけど、全然違う。サラはあんなに可愛くない。チビで凶暴で、すぐに殴るし蹴る。しかも、飛んでくるんだよ、アイツ」

「……………」

 これも、予想外。

「口も悪いし、うるさいし、すげぇ強烈。声がずっと響く」

 白蓮の様子に気付いたのか、「あ、いや」と弁明を始めた。

「確かに、サラには感謝してる。忘れたことも一度もねぇよ。でも、ジュリアとサラじゃ次元が違ぇよ。つーか、一緒にしたくねぇ」

「……………ぶっ」

 白蓮は思い切り吹き出した。そして涙をポロポロと流し、捩れる腹を抑えて大声で笑い出した。

「……ナニ?」

 レイは状況がまるでわからない。しかし、白蓮はヒーヒーと苦しそうに笑い続ける。爆笑だ。

「――レイさん」

 ようやく、なんとか落ち着くと。目から零れる涙を拭い、顔を向けた。

「その、あちらさんなんですがね……あの子を消しに来る可能性があるんですよ」

「!?」

 青が、大きく見開いた。

「あの子は、混血の異端児。純血を重んじるあちらさんにとって、混血は『穢れ』の象徴。しかも、『王』が穢されたとなれば……許されることじゃない」

「………」

「今まで消されずに生きてたってことは、一族がその存在を認知していないってことです。おそらく、あらかじめ王がどこかに隠していたんでしょう」

 笑う狐目が、青に刻まれる。

「ぼくもうちも、別にあの子が殺されようが死のうがどうでもいい。むしろ、殺したいし死んでほしいくらいです。――でも、姫さんは黙ってないでしょう」

 それは、確信の言葉。レイもそう思う。

「あの姫さんのことです。相手が誰だろうと真正面から啖呵切って、彼を守る為に全力で向かって行くでしょうね」

 推測は容易。それが『彼女』だから。

 もしそんな状況になれば、間違いなくそうなるだろう。

「姫さんに手ぇ出すとなれば、話は別。うちは黙ってないし、ぼくも許しません。戦争は確実です。……まぁ、元々こっちにはあちらさんとドンパチやりたくてしゃ~ない輩で溢れてるんですけどね?」

「………」

「なので――その時はあの子を殺します。そうすれば、万事解決です」

 それは、迷いのない断言。変更不可能の決定事項だ。

「そもそも、最初の段階でその動きはありました。ただ、姫さんがずっと傍におったんで手が出せず、『手を出すな』とも言われたんで出せなかったんですよ。挙句の果てに『私の屍を越えて行け』ですからね。そんなん言われたら、手ぇ出せるわけがない」

 当時を思い出し、笑う。


『こいつを殺すなら、私の屍を越えて行け』。


 強情で我儘、誰の言うことも聞かない横暴で自分勝手な連中が、彼女を前におろおろとたじろぐ。その光景は、いつ見ても面白い。

「姫さんに嫌われるのは、何よりも恐ろしい。でも――」

 白蓮が、変わる。

「失うよりは遥かにマシや」

 そこに、いつもの飄々とした軽さは消えていた。

「どうしました?」

 レイが、おもむろに立ち上がった。

「――悪い。ジュリア、見て来る」

 ハクレンが見送る、後にする背中。

 そこには、大きな天使の翼が生えていた。


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