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DOG  作者: 井上たつき
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サラ

「ほぉ、あの姫君を。……さすがだな」

「えぇ」

 マーリンも、アーサーと共に感嘆した。

「あそこは上二つが両極端すぎるんだ。あの一族を抑え込めるのは、なんだかんだで姫だけだろうからな」

「おかげで、こちらの被害は最小限に留められている。……やはり、あちらの方は――」

「地獄だな」

 即答に「そうですか」と俯く。

「東で四神の影響力は絶大だ。各々が懸命に堪えてはいるがな」

「やはり、あの方々の存在は大きいですね」

「西にとっちゃ、天然のデカイ防御壁みたいなもんだからな。でもまぁ、逆に言えばアレの影響をモロに受けるわけだが」

 アーサーの脳裏に、過去の鮮烈な嵐の記憶が蘇る。

「世界の気脈を『龍脈』と呼ぶくらいだ。四神の中でも龍は特別視される。アレがどう出るかで世界は全く変わる」

「でも、うちと東じゃまるで違いますね」

「うちじゃ『ドラゴンスレイヤー』なんて職業があるくらい。ヴァンパイアと同じ『悪魔』の立場だ。でも、同じことを向こうでしようもんなら『神殺し』になる」

「それを、してしまったということですね……」

 マーリンは、闇で染まる外を眺めていた。

「アーサー」

「はい」

 応え、黒いローブ姿を見た。

「あの国は、うちと似てる。巨大な大陸に隣した小さな島国だ。でも、歴史はまるで違う」

「………」

「隣にいる強大な『四神』の影に隠れ、大人しく平穏。今も、自ら国を閉じ世界に埋もれてしまった」

 その国は、ずっと『滅びた』と思われていた。今も、世界地図にはその姿も名もない。

「普段大人しい奴ほど、キレると怖い。小さいからと言って、弱いわけじゃない」

 それは、忠告にも似た言葉。

「あそこは、地震と火山の大国だ」

「……地震と、火山」

「その揺れは津波となって世界を呑み込み、吹き出したマグマは世界を滅びへと導く。ジュリアは、その引き金となる」

 そう遠くない過去。世界は、その片鱗を味わった。

「お前も、会って奇妙に思っただろう。あの存在感にも関わらず、まるで気配がない」

「……はい」

「アレはな、天然だ。あの一族特有のオーラだ」

「オーラ……あれがですか」

「溶け込み、世界の一部と化す。世界に、自然に愛され、共に寄り添って生きる〝ヤツら〟の能力だ」

「………」

「要は、透明マントで透明人間になるってこと。だから、探そうにも探せない。いくらあいつらが血眼になったところでな」

「………」

「今や世界に欠かせないバランサーであり、癒し手だ。……おかげで、国は不安定に揺らいでいるようだがな」

 その大きな穴を埋めるように。今はたった一つのそれにしがみついている。

「先代は、お会いしたことがあると」

「あぁ、騎士時代な。あいつ――」

 マーリンは、何かに気付いたように言葉を止めた。

「どうしました?」

「………あいつ、息子がいたんだよ。一族が、今も必死に探してる」

「息子?……あいつ?」

「………サラ」



 ジュリアの、母親だ。


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