類は友を呼ぶ
彼女が動けば、主役は彼女。彼女を中心に、世界の舞台が回り出す――
「っくくく……さぁすが、姫さん」
白蓮は、思い出して笑った。
「なぁ?しーちゃん」
スルリと入って行ったのは、本家の社。既に陽も落ち、更なる闇に満ちる。
「気色の悪い呼び方をするな」
不機嫌な声を返したのは、当主の場に坐す森羅。灯る蝋の明が、その姿を照らし出す。
「えぇ~?だって、姫さんはそう呼ぶやん?」
「お前が呼ぶな。虫唾が走る」
「え~、ひっどぉ~。せっかく可愛らしいのにぃ~」
「五月蠅い、黙れ」
ピシャッと遮る刃に「はいはい、わかりましたよ~」と彼の前に座った。
「何故座る」
「ええや~ん、別にぃ。姫さんに『器のちっさい男だな』って言われるでぇ?」
森羅は言い返す代わりに、不快さを露わに強く睨みつけた。
「そーちゃんは、またお山に帰ってんの?」
わかっているのに聞いてくる。それが腹立たしい。
いつも、ここには森羅がいる。本来ここにいるべき『当主』は、全てを押しつけて山にトンズラこいている。
「でな、そう思わへん?」
「……何がだ」
不機嫌は今尚、継続中。彼の前ではある程度のことは諦めて捨てなければならないが、これは譲らない。
「きみはさぁ、今回のことをどう見とる?」
「は?」
「あの子がうちへ流れついて、姫さんが拾って……あの二人を呼び寄せた件や」
いきなりの話題転換。付き合うのも楽じゃない。むしろ苦行だ。
「わざわざ雄玄まで出した。……全部わかってのことやと思う?」
「そんな訳ないだろう」
「やぁ~んねぇ~」
愉快そうに呟き、少し仰いだ。
「……類は友を呼ぶ、ねぇ。因果か運命か、それとも縁か。それもこうなると難儀な話やなぁ。……でも、さっすが姫さんや。っくくく……」
「用はそれだけか。なら、とっとと出て行け」
「うわっ、ひどっ!冷たない?せっかく来たのに!」
「せっかくも何も呼んでないだろう。それに、お前がわざわざうちに顔を出すなんてロクなことがない。どうせ姫様のいない隙を付いてちょっかいかける気だろう」
「え~~?何それぇ~?そんなことしませんよぉ~」
明らかに含みのあるニヤニヤのエセ笑いに、冷たい漆黒が向けられた。
「……姫様も厄介な者ばかりに好かれるな。……いや、だからか?」
ため息混じりのその感情は、同情に近いものがある。
「引っ掻き回すなよ」
それは、忠告混じりの命令だ。決して懇願ではない。
「え~~?っくくく……」
この白蓮という人物を語るには、「変人」「奇人」という言葉が合うかもしれない。得体が知れず、掴めず。だから嫌悪し、気味悪がる。
しかし、その裏側で誰もが認めている。正直でも、皮肉でも、嫌味でも、認めている。認めざるを得ない。
「なぁ~んかさぁ~、最近独り立ちブームらしくてなぁ~?悲しいかな、同衾してくれんくなったんよねぇ~。一人寝は寂しいわぁ~」
「――戯言もほどほどにしろよ」
言葉が刃に。それは非常に鋭く、相手を刺した。
しかし、白蓮には効かない。
「ほぉ~ら、出た出たぁ~~!かたっ苦しいわぁ、ほんま~~」
「……………っ」
森羅は堪え、揺れている。膝の上で、両の拳を強く握り締める。
――こうやって、一族が殺し合う。形は違えど、本質は同じ。
「なぁなぁ、これ見てや。新しいぼくのコレクション」
袂を探って取り出したのは、写真。
「新しいお着物着はってなぁ。そりゃもう、綺麗やったんや。それで、写真に残してもうたんよぉ。他にもいっぱいあるでぇ、ほらほら」
そう言って、両手にズラリと扇を広げた。
それは、タキの自慢の作品たち。丹精込めた美しい芸術がそこに収められている。
「姫さん、綺麗やろ~?さっすが、『神をも一目で惚れさす』だけあるわぁ~。ほんっまに綺麗や。これでもすごいけど、本物はも~っとすごいんやで?姫さんがおると、世界が鮮やかにピカピカってなるねんなぁ」
ジュリアはタキのミューズ。出会ってから今まで、新作は毎日更新され続けており、彼女の成長記録のようなもの。白蓮はそれらを『契約』の名の元に手に入れている。
見返りは、国の代物。物々交換で得たそれらが集うタキの部屋は、まるで金庫か美術館。中にはゴッソリ宝の山。
「姫様は我らが花。美しいことなど重々承知だ。今更わざわざ言うことではない」
そう言いながら、「しかし――」と眉をひそめる。
「肌を見せすぎだろう」
タキのセンスは、露出過多。美しいモノは『見せて』『出す』のが基本だ。
「えぇ?かったいなぁ。こんくらいかまへんやんかぁ。それに、こんなんまだマシやで。普段、姫さん明らかに布少ないもん。ほぼ裸みたいな時もあんで」
「………何だって?」
見上げた森羅の顔は、先程と明らかに変わっていた。
「美的感覚がちゃうんよ。あちらさんは見せてナンボ。こっちは秘めてナンボ。さすがの姫さんはどっちでも美しい。ええやんか、自慢できて。それに、しーちゃんだって隠されたあの白肌を見たことあるやろ?」
「あるわけないだろう。あと、その名を呼ぶな」
「へぇ?うっそぉ!?ほんまにぃ!?」
「そんなことがあろうものならこの目を潰す」
「…………」
白蓮は、笑った。
「っくくく……」
森羅は、心底嫌な予感がした。
「これ見せたら、あいつらどんな顔すると思う~?」
やはり、予想通り。ロクなことをしないつもりだ。
白蓮は、面白いものを好む。そして、何よりも退屈を嫌う。周知されたその独特の感性は、彼にしかわからない。
決して、誰にも。理解されることはない。
「……ただでさえ虫の居所が悪いんだぞ」
「ええや~ん。あの化物連中に、知らん姫さんの顔を見せたったらぁ~」
「……お前がそれを言うか」
一族特有の、漆黒の髪と瞳。しかし、一族に生まれた彼はそれを持たない。
他と一線を隔すその姿。生まれながらに、違うのだ。
「自分のモンやと思ってる姫さんが他所の色に染められるなんて……くくっ、いい気味や。あ~、おもろ。っくくく……」
「……本当に、お前はいい性格をしているな」
「お褒めに預かり光栄ですぅ。ほな、そろそろお暇しますわぁ~」
全ては気分の赴くまま。飄々と身体を翻した途端、「あ、そうや」と思い出したように振り返った。
「気付いてた?」
その顔は、既に狐の面で覆われている。
「……何がだ」
塞いでも、やはり在るのは薄っぺらくも厚い偽り。
「……月が、歪に笑っとるで……」
白蓮はその声と顔だけ残し、幻のように風に乗って消えた。




