龍の血
カクン、と落ちた衝撃で。アーサーは目が覚めた。
(……寝てたか)
そして、片隅に飾られた彩りに気付いた。
花瓶に挿された、二輪の花。
「可愛い小人だな」
闇に潜む、若い男の声。
瞬きで現れた、全身ローブの黒い影。目深に覆い被るフードと影が顔を隠す。
「……マーリン」
尖った長い爪。骨ばった細い指がそれを取った。
「お前が継いでからだな。起きたら、いつの間にかひょっこりと花」
楽しそうに、それをクルクルと玩ぶ。
「特に、お前ら兄弟の落ち込みようは凄まじかったからな。大事なモノを一気に二つ失ったわけだ。それも仕方ないが」
「………」
「おかげで〝ビーストJr.〟 は世界に名を馳せる叔父バカだ。キャンディも一気にワールドワイド。あの暴愛と盲愛の姫君に匹敵するぞ」
アーサーは苦笑した。娘と弟の関係には、いささか頭を抱えている。
「でも、キャンディはじぃじっ子。張り合うあいつもどうかと思うが、男ばっかり13人も生まれて、初の孫娘。そりゃまぁ、大層可愛かったんだろう。実際可愛いしな」
そこは親として一言、「ありがとうございます」と礼を述べた。
「それに、そっくりだからな。生まれ変わりだ転生だーって騒ぎまくって。こういう時、お前らが親子なんだと心底実感する」
アーサーは懐かしく微笑みながら。残る一つを硬くなった指先で取った。
「先代は、花が好きでした」
「あんなおっかない顔してな。中身はロマンチストだし、おまけに艶福家。お前が似なくて本当によかった」
「私は母上似ですからね」
「……で。レオンを出したんだって?」
話を、過去から現在に戻す。
「えぇ、ジュリア様から文を頂きまして。是非、レオンにと」
「そりゃ……揉めただろ」
返す顔が、全てを物語っている。
「一番ヤラれたのがレオンだからな。心折られて……あのまま戻ってこないんじゃないかと思った」
「…………」
末っ子らしく、天真爛漫で自由奔放に育った弟。よく泣いて、よく笑って。甘えたで、寂しがりやで、でも背伸びして大人ぶって。
そんな面影は、今の末弟にはない。
「ジュリア様に出会えたことは、本当に幸運でした。感謝しても……しきれません」
それは、絶望の中で見つけた。救いの光。
『陛下。私に行かせてください』
自らそう言い切った、あの瞳。
「それに、あの子は我が一族が誇る立派な騎士です。私も先代も、そう信じている。心配も問題もありません」
それは、強く気高い王の顔。跪き、忠誠を捧げるに値する冠の姿。
「――で、答えは出たか?」
「………」
「えらいことになったもんだ」
ローブごと身体を放り投げ、ソファーに沈めた。
彩を玩具に、遊ぶ。
「別にブルーシスは問題じゃない。あの血はよく混ざる。でも――」
マーリンは遊んでいた指をピタリと止めた。
「龍の血は、そうはいかないだろうな」




