お嬢
「兄者」
山の中。高くそびえる上を見つめ、呼びかけた。
山伏の如き格好をした大柄な男。その名は――岳。
彫りの深い異人顔、赤銅色の肌に筋の通った高い鼻。窪んだ目元には鋭い猛禽の眼光。
「おぉ、どうした」
その先――見晴らしの良い枝の上に、同じ格好が座っていた。
岳と同じく、造形は国の者ではない。漆喰の如き肌に、瞳は緑。長身痩躯で、目鼻立ちもはっきりとしている。
白く浮かび上がるその姿は、『白鷺』の名にふさわしい。
「!」
こっちへ来いと手招く。
地上からそこまで。移動するのは瞬間だった。
「兄者……」
「なんじゃ?」
「話は……つかないか?」
跪き、懇願するように伺う。
「その様子じゃ、苦労しておるようじゃの」
古風な口調に対し、見た目は若い。しかし、貫禄は正直だ。
「正直なところ、儂は反対じゃ」
「………」
「儂もお前と同じ。お嬢の望みは叶えてやりたい。なんだってな。しかし、儂はあいつらが好かん。どうしても許せん」
兄と弟である前に、この二人には明確な上下関係がある。
白鷺は兄弟であることを重んじるが、岳はそうではない。
「なんてことをお嬢に言うたら『そんなわけがない』と言われてしもうた」
「へ?」
猛禽の双眸が、パチパチと瞬いた。
「『私のおししょーがそんなケチで小さいワケがない。山神様は立派で、大きくて深いんだ』とな。まぁ~~ったく、敵わんわい。それで一体、儂にどうしろと言うのじゃ」
空を仰ぎ、苦笑する。そこには、懐古の色。
「愛弟子の前で情けない姿を見せるわけにもいかんしのう。一応、話をつけてやってもよいが……」
「!兄者……!」
パアと灯った希望に「勘違いするでないぞ」と釘をさす。
「儂はあくまで『反対』の立場。そもそも『賛成』の者などまずおらん。本来なら国に入れること自体――」
「兄者」
瞳と瞳が、ぶつかる。
「わ~~かっておる。『国が受け入れているのだから』とでも言いたいのであろう。わかっておる、わかっておるがの!一体、儂らがどれほどの苦痛を今まで耐え忍んできたか……」
「それに、何より……」と、歯がギリときしんだ。
「あんなことにさえならなければ、お嬢はあんな目に遭わずにすんだ」




