表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DOG  作者: 井上たつき
PR
25/86

「……ハクレン様?」

 談話室の扉を開けると、ジェイデンと白蓮がいた。かくれんぼはナシで、あの狐の面もナシ。狐の素顔での登場だ。

「あら、レオンくん。数日ぶりやなぁ」

「……ジルは?」

「姫さんなら、シェリー姫と一緒にスイミングのはずや」

「え?」

「最近、本格的に『泳ぎ』を始めたんよ。お相手があのシェリー姫なら上達間違いナシやな。タキくんも張り切って水着つくるって言ってたわ。っくくく……」

 白蓮とジェイデンの二人は、対角に座っている。

 そのソファーはかなり年季が入っているように見えるが、色褪せ具合がこれまたいい風合いを出している。暗めの色調なので、色素が薄く鮮やかなジェイデンや白蓮は浮いて見える。

「……大丈夫、ですか?」

 レオンは、ジェイデンの隣。少し間を開けて、白蓮と向かい合うように座った。

「きみはほんまに心配症やなぁ?」

「ハクレン様だって、ジルの性質の悪さはご認識されているでしょう?」

 危惧するのは、ジュリアとシェリー。

 あの二人は『混ぜるな危険』。とにもかくにも取り扱いには注意が必要だ。レオンは、そう認識している。

「そりゃあ、まぁねぇ。でも、アレは血筋やからどうしようもないわぁ。天賦の才やもん、抗うだけ無駄。人生、諦めが肝心って言うやろぉ?この世には諦めという名の開き直りが必要な時もある。きみ、なんでも全力入魂しすぎやぁ。そんなん疲れるでぇ?」

「相手は〝暴愛一族〟ですよ?」

 彼らは、この通り名ですこぶる有名だ。

「しかも近頃、姫への求婚が入れ食い状態で輪をかけてひどくなってるとか」

「………」

『もう、みんなメロメロなんだって。だから、シェリーの頼みならなんでも聞くってさ』

 あの時の、ジュリアの言葉が意味を持って蘇る。

「噂はかねがねよぉ聞いてたし、大層な別嬪さんやろうとは思ってたけど、予想以上やったわ。……色々と」

 シェリーは、知る人ぞ知る存在。知らぬ者はまずいない。

「しかし、アレはしゃーない。実際、過保護にもなるわ。きみだってわかるやろ?」

「はい?」

「きみんとこの若き姫君に、得体の知れへん虫が付いたらどうする?」

「当然、駆除します」

 豹変した迷いなき即答に、白蓮は肩を揺らした。

「っくくく……知らんかもしれんけど、きみらもその点じゃ相当有名やで?」

「な、何がですか!?」

「とにもかくにも『愛が過ぎる』ってな。きみらほど家族想いで仲のいいトコはそうないで」

「…………」

「まぁ、なんやかんやで自分のことが一番わからんからな。それもしゃーない。時代に流されて生きるってのも時代に生きる者の術やしねぇ。それに大体、ぼくら如きが世界相手に何が出来るって話やし?」

「ところで」と開いた口に、空気が変わった。

「これは、ぼくからのちょっとした警告や」

「……警告?」

 不穏な響きを聞き返す。ざわざわと心地が悪い。

 その目で、じっとレオンを見る。細すぎて焦点すらわからないのに、捉えられた気分になるのはなぜなのだろうか。

「既にお会いになってわかってるかもしれんけど……これから順次、前線が帰還する。出ずっぱりの主力が続々とお帰りや」

 レオンは視線を強め、それを聞き入れた。

 マリやカサノヴァは先日、仕事で別れを告げた。本人はわかっていないかもしれないが、その後のジュリアは少し様子が違っているように思えた。

 寂しげ――そう思えたのは、主観すぎるだろうか。

「これを一族に知らせるかどうかはきみの判断に任せるけど――」

 そう前置きする声は、愉しそうだ。

「その中に、姫さんが『キャップ』と慕う人がおる」

「……キャップ、ですか?」

「素晴らしいお方やで。姫さんに色々とご享受下さってるんやけど、初耳かな?」

「いえ、お名前だけ。ジルから凄い人だと話は聞いていますが……それが何か?」

「思うに、彼はシェリー姫の想い人やね」

「いきなり何の話ですか。シェリーの想い人がなんだ――………え?」

 突然の予期せぬ爆弾発言。あまりのことに、脳が理解するまでにかなりの時間がかかってしまった。

「過去に一度、大騒動があったやろ。その波がうちにも来て、ちょっとばかしえらい目に遭った」

「……!」

 強く残る暴愛の記憶。それは、この動揺と混乱を消し去るほどの嵐。

「まだ幼かった姫が、天に救いを求めて陸に上がってしまった。っくくく……人間はおもろい創作をするモンや。立派なおみ足をお持ちやのに。魚類か何かとでも思ってんやろなぁ?」

「………」

「責任感故の行動やったんやろうけどな。マイロさんが無事、無傷で保護したわけやけど、その間にロスがある。あ~~んな可愛らしい、世間知らずの箱入りお姫様が。たった一人で安全無事におれると思う~?」

「……その間、その『キャップ』という方が保護していたと?」

 推察に、笑みがつり上がる。

「勘やけどね、勘。でも、僕の勘は当たるねん」

「か、勘……!?」

「そう。だから、判断はきみに任せるって言ったやろ」

「……そんな……勘って……」

 しかし、彼の家系は「術師」。そして、ジュリアが言っていたあの言葉。

「で、でも!ちょっと待って下さい!」

「ん?」

「シェリーには許婚がいるんですよ!?」

「あぁ、セスくんね。だから?」

「はい!?」

「だからやろ」

「はいぃ!?」

 何が何だかさっぱりわからない。宇宙人と会話しているかのようだ。

 そんなレオンの心境を察してかどうかは定かではないが、補足を加えるように白蓮が語り出した。

「それも、きみたちと一緒。そう考えるとわかりやすいんちゃう?」

「……?」

「現在、王位継承第一位は若き姫君。それに次ぐはずのきみら兄弟は皆揃ってその権利を放棄し、齢六つにも関わらず早々に婿の心配をする叔父バカと化しているわけや。――それは、なんで?」

「!」

 レオンは、ハッとした。荒波が急に穏やかになり、ストンと何かが落ちた。

「だからこその『許婚』や」

「………」

 黙って、それを受け入れる。

 異論は――ない。

「お会いしたことはないけど、セスくんは一族の申し子みたいな人らしいなぁ。話聞いてると、うちの本家衆とキャラがモロ被り。姫のことが大好きでしゃーないんやろうけど、行きすぎてか~~なり重苦しいソクバッキーと化してる感じやな」

「ソ、ソクバッキー?」

「超束縛屋さんってことや。きみらも気ぃつけや~?束縛する男は嫌われんでぇ?」

 白蓮は笑いながら「うちはそれで我儘しすぎて、絶交のお仕置きくらったんや。あ~、おもろ。ええ気味や」と小刻みに身体を揺らす。

「あの生まれ育ちで、あの一族にあの許婚。それでも求婚されるあたりがすごいけど、姫自身、自らのご身分とお立場を理解してはる。あんな可愛らしいお姿でも、その重責を負うだけの器と力量がある。――だからこそ、言う訳がない」

 白蓮は、強く確信めいて断言した。

「そもそも、姫自身が自覚してるかどうかも謎やけどな」

「……は?」

「さっきもゆぅたたやろ?自分のことが一番よくわからんって。案外、外野の方がよくわかったりするもんや。まぁ、もし自覚してたとしても公言する気もそれを叶える気もないやろうけどな」

 目が一層細くなり、笑みが濃くなる。

「一族に知られれば、相手は間違いなく始末されるからな」

「っ!」

 その恐怖がまるで自分の目前に迫ったかのように、ゾクっと身体が慄いた。

「しかも、瞬殺。その日のうちに消されるやろ。あそこは一族至上主義で過激なまでに排外的。その上、大の人間嫌い。そんな彼らが心から寵愛し、傷一つ付かんように大切に大切に守り育ててきた玉の姫君が、まさか人間に……なんて、許されることでも許せることでもないわなぁ」

 その言葉を、レオンは真摯に受け止める。その重さくらい……わかる。

「――しかも」

「……しかも?」

 ゴクッと、喉が勝手に何かを呑み下した。

「あの方は、海軍の経歴をお持ちになる」

「っ!?」

 その反応は、理解した証拠。

「あの一族が特に忌み嫌うのが『ハンター』と『海軍』。そりゃもう、親の仇みたいに憎んでる。人選としたら最低最悪やわ」

「………」

「まぁ、ゆぅてもぼくの勘やしぃ?外れるかもしれんけどねぇ」

 そう言って、最後に「あっははは!」と口を開けて笑う。

「きみは心配性やけど聡いし勘もいい。そこらへんは友人でもあるきみの裁量に任せるわぁ」

 レオンの心中など気に留めることもなく、白蓮はただ笑い、話を進める。

「とにかく、この状況で暴れられると非常に困る。ぶっちゃけ迷惑や。ただでさえ面倒なことになってもう散々迷惑被ってるんやから、大人しゅうしてもらいたい」

「なぁ?」と笑みを向けた先は――


「そう思わへん?ジェイくん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ