オネガイ
「――失礼致します」
部屋への扉が開いた瞬間、甘く涼やかな、頭が冴える香りが鼻腔に届いた。
視界では、ジャングルを確認する。部屋中、至るところがモノでガチャガチャと溢れ、小さい玩具のようなものもあればやたらデカイものまである。一見すればガラクタで、それが何なのかはさっぱりわからない。
その中で、一際大きな塊が動いた。
スキンヘッドのパジャマ姿。蹲るように床付近に丸まってゴソゴソと動いている。
男の名は――マナメリ・ナンセラ・シリカ・ピピン。
彼には特性があり、一日のほとんどを眠り続ける。起きて活動するのは決まった時間帯。深夜の三時間だけ。その時間ピッタリに起きて、ピッタリに眠る。
自堕落で生産性がないように思えるが、この起きている三時間が尋常ではない。
「………ノエル」
振り向いた顔にまず驚くのは、目が四つあること。……なぜかというと、ふざけた顔をしたアイマスクが額の上に乗っかっているから。
偽物の下にはちゃんと本物があり、これは獰猛で鋭い。
太陽に焦がれた黒肌。服の上からでも十分にわかる骨太で肉厚な頑丈な身体。身体の至る所から白いトライバル模様が顔を覗かせているが、際立つのが左顔面を縦断する鮫の歯を意匠したタトゥー。
大きな屈強とした黒に、白は映えてよく目立つ。
「お忙しいところ、申し訳ございません」
エメラルドグリーンの光が伏せ、畏まったブラックスーツが頭を下げた。天然だとわかる、プラチナブロンドのつむじが見える。
「………なに?」
大きな右手が、器用にチョコミントをポンポンと口に放り込んで行く。絶え間なく繰り返すその仕事で、口は休む間もなく大忙しだ。
これが彼の主食。起きてから寝るまで、ずっとひたすら食べている。
「わざわざ、来ル……どうした?」
のこぎりのようなギザギザと尖った歯が光る。
時間的にも目覚めたばかり。まだエンジンがかかっていない。
訛りでイントネーションにかなりのクセがある。正直聞き取りにくいそれで、ポツポツと呟くように喋る。声は掠れて小さいが、低くて野太い分だけ骨に直接響くようにして届く。
「お願いがあって参りました」
「………オネガイ?」




