ソウルメイト
「遊び……ねぇ」
目の前には、障害物盛り沢山のアスレチック。
ここに来てから、ジュリアと共に身体を鍛えるのがレオンの日課になっていた。一日に何度も手合わせし、トレーニングルームで互いに己の研鑽に励む。
「……なるほど。難易度によってステージが五段階に分かれてんのか」
ここは第一段階。難易度が一番低いファーストステージ。これをクリアした先に、次への扉を開けるボタンがある。
『ちょっと実家に帰る。その間、よかったら遊んでろ』
そう言われて、ここに来た。
「遊んでろっつーけどなぁ……」
レオンは大自然のアスレチックで育った。遊びながら鍛えられていた。その発想は同じかもしれないが、これは明らかに『試す為』に作られている。
「こ~んに~ちはぁ~」
「っ!」
突然の声。
バッと振り向くと、誰もいなかったはずのそこに――人影。
「……ハクレン、様?」
腰まで流れる白銀の長髪。狐の面を被った、蓮の花が咲く着流し姿。名は――白蓮。
その奇妙な姿に、過去一度。見えたことがあった。
「お久しぶりやなぁ、レオンくん。当代の即位式以来かなぁ?」
「……ご無沙汰しております」
畏まる姿に「そ~んな堅苦しいのはいらんてぇ~」と笑う。
「ジルなら、いませんよ?」
「知ってるでぇ?難儀なことに、御門家におってなぁ。おかげで僕はロンリネスなんよぉ」
「……ミカドケ?」
「うちの分家筋になるんやけど、他とは違って地位と発言力が本家に匹敵する。例えるなら、きみんトコの〝ガーディアン〟や。うちの大切な魂を守護してる。あんな重装歩兵みたいな戦闘バリバリの肉体派じゃなくて、マーリンさん寄りやけどな」
「マ、マーリン……ですか」
それは『王』と『守護者』に並ぶ、国を支え守るもう一つの柱。
「うちは術師家系やからねぇ。貴族の趣が強いから品格として武芸を修めてるけど、そこまでゴリゴリじゃない。やたらめったら美意識高いの多いし。大和さんなんかは、それに『武士』を掛け合わせた感じやな。あんな人、かなり珍しいんやで?」
「そうなんですか……」
レオンは『武士』を知らないが、『騎士のようなもの』と説明を受けている。
「御門家は大和さんのご実家でな。御婚礼の際に本家に入ってるから〝名代〟なわけやけど、ほんまはそこのご当主様なんよ」
「えっ」
一族の名代と務める大和とは、白蓮と時を同じくして見えた。
初めて見る、類を見ない装束姿。馬に乗って颯爽と現れた、騎士に似た英姿。
大切な、姫を連れて――
「……その、どこが〝難儀〟なんですか?」
「これはうち独特でな。ちょっとわかりにくいかもしれんけど、御門が相手にするのは『人間』。一族の『表の顔』や。そこらへんは、きみの場合王家の仕事かな」
「………」
「人間相手の大変さはきみもわかるやろ?おかげで性格がま~~~あ、ドギツイ」
「……なるほど」
一つ、納得。
「大和さんには二人の弟君がいらっしゃる。これが現当主と当主名代なんやけど、ま~~~あ、長兄を敬愛してる。俗に言う『ブラコン』って類のヤツで。色々と強烈すぎるんで『牛頭馬頭』って恐れられてるんよぉ」
そう言う割に、楽しそうなのは気のせいだろうか。
しかも、妙に突き刺さる。
「本家当主は昼行燈のボンクラ。誰がどう見ても大和さんの方が立派で当主にふさわしい。なのに〝名代〟なんて名で小間使いにしてる今の本家にいい感情を抱いてない。その上、ご自身のお子以上に甥っ子にご執心で。しょっちゅう口を挟んで、大和さんにご叱咤受けるほどなんよねぇ」
「……甥っ子?」
「大和さんのお子で本家嫡男――先代の忘れ形見や」
「忘れ………そう、ですか……」
全てが同じわけではないだろう。しかし、リンクする。
「大和さんが国を空けることも多い。だから余計、あの方々が堅牢に守り続けてた。そんな男が、ついに元服を迎えるってなってな」
「元服……」
「成人の儀式や。これで晴れて、アレも一人の男。大和さんもお戻りになって、みんなで祝宴やと思ってた、そんな時に――コレや」
大きな猫目が。じぃと見据える。
「おかげで延期。そんな場合じゃなくなったからなぁ。大和さんもあいつも、自分のことは二の次って性格やし。そんなこんなで、クソご機嫌が悪いわけ」
そして、もったいぶるようにこう言った。
「あいつは、姫さんのソウルメイトなんよ」
「ソ、ソウルメイト…!?」
「っくくく、おもろいやろぉ?そりゃもう、め~~っちゃ影響受けてるんよぉ」
「…………」
アレの影響を受けて、面白いことがあるのだろうか。恐ろしいことしかない気がする。
「たぶん、そのうち会えるわ」
「……え?」
「ほんま、すぐにな」




