ブルーシス家
暗闇が支配する世界を、蝋の灯が照らす。
歴史と文化が刻まれた石積みの壁。アーサーは執務室でただ一人、過去に遡っていた。
「……ブルーシス家」
その冠の名を知る者は、今どれほどいるのだろうか。
(途絶えたはずの血が、まさかこんな形で現れるなんて……)
なぜ、どこで、どうして。その経緯、その可能性。今を説明できる何かが、どこかに隠れてはいないだろうか。
「な~んか、『抱えてます』って顔してんなァ~?」
「……ハリー」
本能が怯える、炎の髪と眼。
誇る赤を、血で継ぐ者。
「これ以上悩ましい事案ってのはなんだよ」
運命を共にする兄弟のような幼馴染は、立場が変わっても変わらない。
太く鍛えられた脚が無遠慮にズカズカと中に入り込み、大きな影がかかる。
「そうだな……場合によっちゃ、世界の火薬庫が大爆発だね」
「ハァ?」
不敵を描く太眉が跳ね上がった。
「……月桂樹の一族を知ってる?」
「月桂樹の一族ぅ?なんだソレ」
「……〝ゼロ大戦〟以前。長年あそこを統治していた王侯貴族の総称だよ」
「っつーことは、人間なワケな?それがどうした」
「その一族の祖が、かの最高神だと言われている」
「ハイィ!?」
赤い炎が、大きく揺らいだ。
「あり得ないことではないだろう」
「……あのイロモノが……っ」
そうは言うものの、この男もかなりの手練れだ。人のことは言えないだろうと思いながらも、やはり彼らとはモノが違う。
「彼らは、生まれながらに神の証を身体に宿すと言われている」
「神の証ぃ?」
「それが『月桂樹』の所以だよ」
「ふ~ん。でも、今はそんな奴らいないだろ」
「途絶えたんだよ。でも、どうやらそうじゃなかったみたいだね」
「ハァ?」
「レオンが『冠』を見つけたって」
「冠ぃ?」
「月桂樹の最高位、王の証だよ」
そこで、少しの間。
「……って、ちょっと待て!レオンが見たって……!」
「ね?火薬庫が大爆発でしょ?」
「………………」
頑丈な顎はガクンと下に落ち、立派な歯並びの大きな口があんぐりと開いている。
「さすがジュリア様。先程、かの暴愛の姫君があちらにおいでになったようでね」
「ハァっ!?」
弾けたように、一際大きく目を剥いた。
「ハクレン様の使いが飛びまわっているようだしね。なんと立派にお育ちになられたことか」
「………っ」
髭を蓄えた肉厚の唇が、ぎゅっと強く縫いついた。そして、ゆっくりと。言葉を放つ。
「三年前のあの日を、俺は今まで一瞬たりとも忘れたことはない」
「………」
豊かな大自然を共に走った日々は。片方を戦士に、片方を王にした。
「いくらあのお姫様の頼みだからって、あいつじゃなくてもよかったんじゃねぇか?」
野獣のような毛むくじゃらの大男。対するは、紳士でスマートな優男。
「相手が誰だか、わかってんだろ」
炎が、ゆらりと燃えた。
「アーサーを殺した、絶やすべき仇だぞ」




