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6

 次の日。

 また私は能力を使い、身体を透明に変えた。


「よし!」


 透明になって壁をすり抜け、地下室から出て上へ向かう。

 更衣室と書かれた紙が貼ってある扉の向こう、赤いドレスを着た南さんは鏡の前で身支度をしていた。


「今日こそ頑張らなきゃ」


 その小さな独り言を聞いた瞬間、私の胸が熱くなった。


(南さんの身体の中に入って、南さんをナンバーワンにしてあげるんだ。

 そうすればきっと…、南さんは喜んでくれる)


 私はゆっくりと南さんへ近づき、その身体に触れた。

 吸い込まれるような感覚。

 次の瞬間、私は南さんの身体の中にいた。


『えっ……? なに、これ……?』


 南さんの驚く声が頭の中に響く。


『身体が……動かない……』


 私は返事をしなかった。

 返事をしたら、きっと怖がらせてしまう。

 私は、南さんに教わった笑顔や仕草を思い出しながら、テーブルの席につき男性と会話する。


 金の腕時計をしたスーツ姿の男性に甘えると、男性は次々と高いお酒を注文し始めた。

 時間はあっという間に過ぎていき、気づけば店中が騒がしくなっていた。


「南、おめでとう!」


「今日の売り上げ、一位だ!」


 歓声が聞こえる。

 私は胸の奥が温かくなった。


 ――よかった。

 ――これで南さんの夢が叶う。


 その思いだけを胸に、私は静かに南さんの身体を離れた。


 視界が揺れ、私は再び透明な自分へ戻る。

 誰にも見つからないよう地下室へ戻り、いつもの場所に座り込んだ。

 体が元に戻り、私は急いで服を着る。


 しばらくして地下室の天井から、南さんの声が聞こえてくる。


「これは夢!?私がナンバーワンだなんて、信じられない!!」


 その声を聞いて、私は少しだけ笑った。

 南さんは知らない。

 今日、自分の身に何が起きていたのかを。



 ♢


 次の日、地下室の扉が勢いよく開いた。


「聞いて!」


 南さんは頬を赤く染め、息を弾ませながら駆け寄ってきた。


「昨日ね、私、ナンバーワンになったの!」


 私は思わず立ち上がる。


「ほんと!?」


「うん!」


 南さんは子どものように笑った。

 その笑顔を見て、私まで嬉しくなる。


「でもね……」


 南さんの表情が少しだけ曇る。


「信じてもらえないかもしれないけど、不思議なことがあったの」


「不思議なこと?」


「うん。更衣室にいた時、身体が勝手に動き始めたの。自分で動かしてる感覚がなくて、それなのに、ちゃんと動いてるの」


 私は思わず黙り込む。


「…怖かった?」


 私が尋ねると、南さんは少し目を伏せ話し始める。


「うん。知らない誰かが私をあやつってるみたいで怖かった…。だけど、こんなこと…誰にも言えなくて…」


 私はもう隠しきれなくなった。


「それ、私がやったんだよ!」


「えっ?」


「私、透明になれるの!」


 南さんは冗談だと思ったのか、小さく笑う。


「またまた」


「本当だよ!」


 私は夢中で話した。


「透明になって、壁もすり抜けられるの。それでね、人の身体の中にも入れるんだ。南さんの夢を叶えたくて…、南さんの身体の中に入ったの」


 地下室に静かな沈黙が落ちる。

 南さんは笑わなかった。

 驚いたまま、じっと私の顔を見つめている。


「……本当に?」


「うん。本当」


 私はうなずいた。

 嘘なんて、一つもついていない。

 南さんは何かを考え込むように目を伏せる。


「もし、それが本当なら……」




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