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自分の能力に気づいたのは、ある日のことだった。
地下室の壁にもたれかかって眠っていた私は、目を覚ました瞬間、身体が妙に軽いことに気づく。
「あれ……?」
着ていた白いワンピースが床に落ちている。
自分の手を見る。
手は透き通っていて、向こう側が見えた。
「えっ……?」
慌てて両手を見つめる。
腕も、足も、身体も、ガラスみたいに透き通っていた。
「すごい……」
怖いよりも先に、胸が躍った。
前に南さんが読んでくれた絵本に登場する幽霊みたいだった。
私は恐る恐る壁に手を伸ばした。
腕が壁の中へ吸い込まれていく。
「えっ……?」
もう一歩踏み出す。
身体は壁をすり抜け、そのまま地下室の外へ出てしまった。
「わぁ!!」
目の前に広がっていたのは、初めて見るものばかりだった。
まぶしい建物の照明。
赤や青に光るネオン。
甘い香水とお酒の匂い。
楽しそうに笑う女の人たち。
見たこともない服を着た男の人たち。
地下室とはまるで違う世界が、そこには広がっていた。
「これが……外なんだ」
胸が高鳴る。
私は店の中に戻り、夢中になって店の中を歩き回った。
誰にも止められない。
誰も私を見ていない。
試しに男の人の前へ立ってみる。
私は服を着ていないのに、なんの反応もない。
手を振ってみても、声をかけてみても、なにも反応しなかった。
「聞こえないの?」
男性の肩に触れようとしたその時、私の手は男の人の身体をすり抜けてしまう。
何も掴めない。
誰にも触れられない。
本当に幽霊になったみたいで、少しだけ寂しくなった。
それでも、この世界をもっと見ていたかった。
だけど、時計を見る習慣のない私でも、長くここにいてはいけないことだけはわかっていた。
地下室にいないことが知られたら、店長にまた怒られる。
また殴られる。
その考えが頭をよぎった瞬間、私は慌てて地下室へ戻った。
壁をすり抜け、元の場所へ戻る。
身体はいつの間にか元通りになっていた。
私はくたびれた白いワンピースを着て、冷たい床に座り込み、大きく息を吐く。
誰にも見えない。
誰にも触れられない。
それでも私は、生まれて初めて地下室の外の世界を見たのだった。




