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4

 自分の能力に気づいたのは、ある日のことだった。

 地下室の壁にもたれかかって眠っていた私は、目を覚ました瞬間、身体が妙に軽いことに気づく。


「あれ……?」


 着ていた白いワンピースが床に落ちている。

 自分の手を見る。

 手は透き通っていて、向こう側が見えた。


「えっ……?」


 慌てて両手を見つめる。

 腕も、足も、身体も、ガラスみたいに透き通っていた。


「すごい……」


 怖いよりも先に、胸が躍った。

 前に南さんが読んでくれた絵本に登場する幽霊みたいだった。

 私は恐る恐る壁に手を伸ばした。

 腕が壁の中へ吸い込まれていく。


「えっ……?」


 もう一歩踏み出す。

 身体は壁をすり抜け、そのまま地下室の外へ出てしまった。


「わぁ!!」


 目の前に広がっていたのは、初めて見るものばかりだった。


 まぶしい建物の照明。

 赤や青に光るネオン。

 甘い香水とお酒の匂い。

 楽しそうに笑う女の人たち。

 見たこともない服を着た男の人たち。

 地下室とはまるで違う世界が、そこには広がっていた。


「これが……外なんだ」


 胸が高鳴る。

 私は店の中に戻り、夢中になって店の中を歩き回った。


 誰にも止められない。

 誰も私を見ていない。

 試しに男の人の前へ立ってみる。

 私は服を着ていないのに、なんの反応もない。

 手を振ってみても、声をかけてみても、なにも反応しなかった。


「聞こえないの?」


 男性の肩に触れようとしたその時、私の手は男の人の身体をすり抜けてしまう。


 何も掴めない。

 誰にも触れられない。

 本当に幽霊になったみたいで、少しだけ寂しくなった。

 それでも、この世界をもっと見ていたかった。


 だけど、時計を見る習慣のない私でも、長くここにいてはいけないことだけはわかっていた。

 地下室にいないことが知られたら、店長にまた怒られる。

 また殴られる。

 その考えが頭をよぎった瞬間、私は慌てて地下室へ戻った。


 壁をすり抜け、元の場所へ戻る。

 身体はいつの間にか元通りになっていた。


 私はくたびれた白いワンピースを着て、冷たい床に座り込み、大きく息を吐く。

 誰にも見えない。

 誰にも触れられない。

 それでも私は、生まれて初めて地下室の外の世界を見たのだった。




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