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3

 ある日、南さんは珍しく元気がなかった。

 地下室の床に座り込むと、小さくため息をつく。


「どうしたの?」


 私が聞くと、南さんは困ったように笑った。


「私ね、叶えたい夢があるの」


「どんな夢?」


「この店でナンバーワンになること、それが私の夢」


 ナンバーワン。

 その言葉は、私にはよくわからなかった。


「ナンバーワンになるとね、私に会いたいってお客さんがたくさん来てくれるの。それで高いお酒を買ってもらえるようになるのよ」


 そう言って笑う南さんの顔は、少しだけ寂しそうだった。


「いろいろ頑張ってはいるんだけど、なかなかうまくいかなくてね」


 私は黙って話を聞いていた。


「もっと魅力的な女性になれたらいいんだけど…、いっそのこと整形しようかな…」


 南さんは冗談っぽく笑ったけれど、その目は笑っていなかった。


 私は胸が締めつけられた。


 南さんは、私に文字を教えてくれた。

 世界を教えてくれた。

 優しくしてくれた。

 だから今度は、私が南さんの力になりたい、そう思った。


 その日の夜、私は初めて自分から地下室の扉を開けた。

 南さんの力になれる方法を探したかった。

 だけど、一歩も踏み出せなかった。

 すぐに店長が現れたからだ。


「何してる!」


 低い声が響く。


「ご、ごめんなさい……」


 言い終わる前に、頬へ強い衝撃が走った。

 私は床へ倒れ込む。

 口の中に鉄のような味が広がった。


「勝手に出るな」


 店長は冷たく言い放つ。


「お前は大人になるまで、この地下室から出さない」


 その言葉に、胸の奥が真っ白になった。

 大人になるまで。

 それは、あと何年なのかもわからない。


 私は床に座り込んだまま、閉ざされた扉を見つめ続けた。

 扉の先には、南さんがいる。

 それなのに、たった一枚の扉が、どうしても越えられなかった。




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