幕間5 満月の夜【柏木視点】
夜も更けた仕事帰りの一時、菅がふと夜空を見上げる。ぽっかりと浮かぶ月は満月。ポツリとひと言。
菅「……柏木。今夜の月、綺麗だね」
(柏木内心)
ますたーが! あのますたーが……月が綺麗! 月が綺麗などと!まさかの告白!? 落ち着け宗一郎。そんなはずあるまい。Masterは朝香さま一択。そんな気がないことなど百も承知。今朝もあのファイルを真剣な眼差しで眺めておられた。その朝香さまを差し置いて、まさか「そうですね」などと言えるものか! よもやこの私を試しておられる? わざと揺さぶり、この私が華麗にスルー出来るか否かを。なるほど。早まってそのままをお伝えするところだった。ここは冷静に。いつもどおり、完璧な執事を演じるのだ……
柏木「確かにあれは……美しい。あのビルの鏡面にも同じ月が映り込み……まるで真冬の湖。心なしか雪の匂いも致します。そろそろコートをお召しになるが宜しいかと」
菅「え? コートはまだ早くない? お盆が過ぎたばかりだよ?」
(柏木内心)
し! しまったああああ! 有能を意識しすぎたあまり季節を間違えてしまった! 落ち着け! 落ち着け私!
柏木「……そうで御座いました。あの凍るような月からつい冬を連想してしまい……申し訳ありません」
(それでいい。素直に謝れば寛大なる我がMasterはお許し下さる。まかり間違って月が綺麗=告白では? などと言わなくて本当によかった!)
菅「そう言うこと? うん。確かに見た目、凍ってるもんね」
柏木「えぇ。月が綺麗などと……まるで告白ですね?」
(ちょ! 何を言ってる! 内心の方が言葉に出てしまったぞ!? もどれ! もどれ時間! いやむしろこれは……好都合? 普段言えぬ言葉を脳が勝手に変換してくれたのか? なるほどこれはMasterの真意をうかがう絶好のチャンス! ありがとう脳! ありがとう私!)
菅「……え? そう? そんなつもりじゃないよ?」
柏木(……………。えぇ。……ですよね。わかっておりましたとも。こうなる事は……よく。)
「……無論、承知いたしております。しかし誤解されやすいお言葉ゆえ……その台詞はあの方におっしゃるがよろしいかと」
菅「わかった。使ってみるよ、ありがとう」
柏木「……どういたしまして、と申しておきましょう」
(Master……どうか……どうかお幸せに。わたくしは草場の陰から見守っております……)
柏木「……どういたしまして、と申しておきましょう」
(Master……どうか……どうかお幸せに。わたくしは草葉の陰から見守っております……)




