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第八話 明かされたツンデレ後輩の秘密。そして深夜零時、最悪のすれ違いが幕を開ける

いつもお読みいただきありがとうございます!


無事にハラスメントの疑いも晴れ、課長とサシ飲みをすることになった悟。しかし、彼には重大な「忘れ物」がありました。

次々と明かされる社内の人間模様。そして時計の針は、無情にも深夜零時を回ってしまい……。急展開の第八話です。

 僕と真島課長は、岩田電産での出来事に対して今後どう進めるか協議し、

「家に帰っても居場所がない」といつも愚痴をこぼしている、同じく遅くまで残業をしていた田淵部長に伝えて概ね了承を得て退社したのが九時を回ったところだった。


 約束通り課長と二日連続で同じ居酒屋に来て、課長が隠そうとしていた話を聞いていた。


 その内容は、僕にとっては衝撃的だった。


「そ、それマジで言ってるんですか?先輩?」


「ああ、本当だよ」


「昨日、『今のお前には必要のない情報だ』って言ってた意味が分かりました」


 真島課長が言うには、結衣香は僕の事がずっと好きだった。


 あれだけ僕の事を動きがキモいとか言っていたのに。


「なぜ先輩がそれを?」


「一昨年の『オフサイトミーティング』だよ。結衣香は水野に告られて、振ったっ訳だが、アイツ、申し訳ないと思ったみたいで独りでロビーの片隅でに泣いていたんだ。そこにたまたま煙草を買いに来たのが俺、ってわけ」


「それがどうして僕の話につながるんですか」


 課長はいつにない真剣眼差しに変わった。


「水野の事は別に嫌いじゃなかったが、ボロボロ泣きながらあいつ言っていたんだ。新人の頃から面倒を見てくれたお前の事が好きで水野を振ったんだと」


 居酒屋の中の喧騒が、一瞬僕の中では遠のく。


「えっ、ちょっとびっくりです。水野の方が金持ちだし条件良いじゃないですか。なんで僕なんかを」


「お前はさ、少しそういう所が鈍すぎるよ」


「はぁ……そうなんですか。でもアイツ僕に対する態度が余りにもガサツで冷たいし、そんな。好かれているなんて事、感じたこともないですよ」


 そうは言ってみたけど、思い当たる節がないわけではない。

 結衣香が夜遅くまで残業して何をしているかと言えば僕の営業で使う資料とか、実績の分析などを頼みもしないのにやってくれているのだ。


 課長は、その理由は水野にあると思っているみたいだ。


「それは水野の事を考えての事じゃないかと思う。例えば結衣香がお前にだけ親しそうにしたとするだろう? または付き合い始めるとする。そしたら水野はどういう行動に出るか想像できるか?」

 

 ハッとした。


 確かに水野はチャラ男だけど、根はいい奴だ。そしてかなり繊細だ。

 

「ひょっとすると会社辞めてしまうかも……ですね」


「それはちょっと極端だけど、その可能性だってあり得るよな」


「ええ。そうですね」


「だからお前にもああいう馬鹿にしたような態度をとることで水野が卑屈にならないように気を遣ってるんだろうと思うぜ」


 今日はは店が混んでいて、二人並んでカウンター席で並んで話している。

 

 しかしこんな話題にはなんとなく合っているシチュエーションだ。


「でも水野が知ってたのはちょっとムカつきました。なんで話したんですか」


 僕がそう言うとヨッシー先輩は『痛い』という顔をした。


「スマン。結衣香と水野の前でつい口が滑った。俺のミスだ。結衣香はその時無表情だったが」

 

 ああ、水野だけでなく結衣香も知っていたのか。


「で、僕に気になる人ができてしまったから、もしかして匿名制度を利用して結衣香が自作自演で僕を告発したって事ですかね?」


 先輩は五秒くらい沈黙を守った。


「なあ、悟」


 そしてそんな風に改まられると少し怖い感じがする。


「なんでしょうか」


「お前、東堂さんの事は諦めて結衣香と付き合ったらいいんじゃないか?」


 僕は咄嗟に答えることができず、その間結衣香のとの数年を思い返していた。


 新人研修を終えて営業三課に初めて配属されてきた時のこと。

 

 結衣香は今とは違い初々しかった。

 

 僕の事を悟先輩と呼んでどこに行くにもくっ付いてきたっけ。


 とんでもないミスをやらかして凹みまくっていると思えば、僕では思いもつかないようなアイディアを会議で披露して実際それが上手くいって業績を上げたりと僕にとって結衣香はびっくり箱みたいな存在だった。


 五年前、落ち込んでいた時に人目をはばからず号泣していたのを慰めてくれたのは結衣香だった。


 ずっと、僕の事を見ていてくれたのか。結衣香は……。


 二人の間に沈黙が続いたが、それを破ったのは先輩だった。


「まあ、オレが言ったことは忘れろ。悪かった。お前の恋路を邪魔する権利は俺にはないよな」

 

「いえ、そんなこと……」


「じゃあ、本命さんに『堕天使』に会いに行こうぜ?」

 

 はっ? えっ? ちょっと待って。先輩は今なんて?


「えっ?」


「『え?』じゃねえよ。『堕天使』に東堂暁子に会いに行くんだよ」


「先輩、りおんちゃんお気に入りだったんじゃ」


「ははっ。マジで驚いたよ。部下の好きになった女が俺のお気に入りとは恐れ入ったぜ。でも俺は不純な動機でりおんを追っかけてたんだ。気にするな。『譲る』っていう言い方は相応しくないよな」


「なんだかすみません。いや、何言ってんだろ僕」

 

 真島さんがそんな風に手を引くなんて思ってもいなかったので僕は何を言って良いのか窮してしまった。


「まあ、俺もこの状況に置かれてハッとしたわけよ。これは神の采配なんだ、ここは悟を応援するべきなんだって。これでも本当に俺はお前とりおん、いや東堂さんが上手くいくといいと思っているんだぜ」


「先輩……あのっ」


「何も言うな」


 そう言った先輩が本心では諦めきれていないのも分かったし、でも僕を応援してくれているのも本心なんだと分かった。

 

 それから、結衣香の存在がいきなり大きくなってきてしまい、僕は思いもしなかった展開に頭の中が上手く整理できなかった。


 何気なく時計を見た。もう十二時を回っていた。


「先輩、『堕天使』行っても、もうりおんちゃん上がってますよ?」

 

 あれ?……そうだ、東堂さんシフト十二時までだったんだ。あれ、どこかで待ち合わせ……ああああああ!


 僕は慌ててスマートフォンのショートメールを確認した。ショートメールのアイコンに未読のマークが出ていた。


 次いでにバッテリー残量を見て驚いた。そういえば今日会社で充電するの忘れてたな。あと十四パーセントしかバッテリー残ってないや。


 ともあれ、メッセージを見てみる。


「今晩楽しみにしています。堕天使の近くに、アーチーズってカフェレストランがあるので、そこで待っててもらえますか?」


 ヤバい、とんでもない失策だ。僕は慌てて駆けつけることにした。 


「先輩!すみません。僕、東堂さんに一人で会ってきます!」


「お、おう、わかった。頑張れ、よな?」

 

 僕は課長に対する返事そこそこに、居酒屋を出たが、走り出す前に、せめて一本、メールを返すべきだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「店長、りおん上がりまーす」

 

「りおんちゃん、お疲れ様明日もシフト入っているんだよな?」


「はい、いつもと同じ八時から十二時ですよ」 

 

「OK。気を付けて帰るんだよ。また明日」


「はーい。店長もお疲れさまです!」


 店の扉を押す前、曉子は一度だけ深呼吸をした。

 今夜は、五年前に置いてきた時間を少しだけ前に進められる気がしていた。


 そこへ沙織が寄って来た。


「りおんちゃん、お疲れー。アタシももう少しでアガリなんだけど、今日少し付き合ってくれないかな?」


 暁子の表情が曇った。


「沙織ちゃんごめんなさい、明日も昼の仕事が朝早いの。金曜日だったら沙織ちゃんとどこかでアフターしたいな」


 本当は悟と待ち合わせをしているからだが、本当のことは沙織に言えない。


「りおんちゃん、私たち同士ではアフターって言わないよ(笑)。分かった。急にゴメンね」


「ううん、こちらこそゴメンね。いつも沙織ちゃんには良くしてもらっているのに」

 いつも闊達な感じの沙織だが、今日は少し調子が違う。


「どうしたの、沙織ちゃん?」


 感情が溢れ出てきた沙織の眼から涙が一筋流れた。


「え、沙織ちゃん、メイクが……」


「りおんちゃん、アタシ昨日来た悟さんがマジで好きになっちゃったみたい」


 暁子は薄々沙織の態度でそれを感じ取っていたが、自分がずっと五年間片思いを続けてきた悟を沙織と取り合うことになるとは夢にも思わなかったのだ。

 何を言ってよいか分からないが、沙織は暁子に優しい友達のような存在だし、関係を悪くしたくはない。


(なんでこんな事に…… 神様、どうして今なんですか?)


「分かったわ。待ってる。今晩は沙織ちゃんに付き合うよ」

最後までお付き合いいただきありがとうございます。

悟を想う結衣香、悟を想う(?)沙織、そして互いに想い合っているはずなのにすれ違う悟と暁子。真島課長が身を引いたことで少し整理されるかと思いきや、かつてないほど複雑な四角関係になってしまいました。

「神様、どうして今なんですか?」という暁子の悲痛な心の声が切ないですね。果たして二人は今夜会うことができるのか。次回もお楽しみに!


面白いと思われましたら、是非ブックマークや感想をお願いいたします!ますます精進いたします。

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