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第七話 突然のパワハラ疑惑で人事部送りに!? 疑いは晴れたものの、今夜の予定が大ピンチです

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

前回のラストで迫る「悪意のある第三者」の影。

いつものように水野、結衣香と三人でランチに出かけた悟でしたが、その何気ない日常の裏で、卑劣な罠が牙を剥きます。

突然の人事部への呼び出し、そして身に覚えのない告発……。急転直下の第七話です!

「おれ、B定食に決ーめた!」


 よく言えば天真爛漫、悪く言えば三十歳児の水野は、結衣香と一緒という事もあって浮ついてやがる。


「結衣香っち、俺っちが選んであげようか?」


「有難迷惑です。誘われただけでもウザいのに」


 水野は涙目になった。

 

「水野、ほら、列進んでるぞ」


 僕に促されて水野はシュンとした顔で列を詰めた。


「そう言えば尾上先輩、今年は田淵部長がオフサイトミーティングやるって言ってましたけど何か知ってますか?」


 オフサイトミーティング。


「少しなら真島課長から聞いてるぞ。秋ごろって話だ」


「なになになに、オフサイトミーティングって?」


 水野よ、そこから説明しなきゃならんのか?


「お前向けに端的に説明してやると、一昨年千葉の鴨川のホテルで一泊二日で会議やっただろ? アレだ」


 なぜか水野はそれを聞いて石化したように動きを止めた。


 どうしたことかと結衣香を見ると、結衣香も僕から目線を逸らした。


「まさかとは思うけど、お前たち……」


「そのまさかですけどね」


 結衣香によると、一回目に水野が結衣香に撃沈されたのがそのオフサイトミーティングだったらしい。


「悟ぅ、お前知ってて言ったんじゃないのかよー」

 

「悪いがお前たちが付き合うとか付き合わないとかは興味ないんでな。で、日程は連休中の月末だと。有給取りたかったんだけどな。本当は」


「えー、それマジですか? 最悪っすね」


「場所はまさか……」


「そのまさかだ。鴨川グランビューホテルだ」


 水野はその場に崩れた。


 その姿を見て社員食堂にいる社員たちは別段驚かないが、冷ややかな目で水野を見ている。

 もう皆さんコイツの仕草には慣れっこ、ってことですか。


「まあ、営業部の一課から三課まで総勢32名が一堂に集まる機会はそうはないさ。親睦を図るっていうことも悪い事ばかりじゃないと思うけどな」


「いつも動きがキモい先輩、大人っすね。こういう時だけ」


「いちいち暴言吐かないと死ぬ病気なのかお前」

 

「てへっ」


 何が「てへっ」だ。まったく。じゃじゃ馬め。

 

「はーい、B定食とA定食ね」


 社員食堂のおばちゃんから定食をようやくカウンターで受け取った僕たちは、席についてとりとめもない話をした。


「そういやお前、昨日なんか岩田電産行っていい事あったらしいじゃん」


「えっ?」


 真島課長、コイツになんか言ったのか?


「先輩、それでキモい動きしてたんですか?」


「ズバリ、コレらしい。課長から聞いちゃったー!」


 下品にも水野は小指を立てて結衣香に差し出した。


「おい!」


「先輩もスミに置けないっすね(笑)」

 と言いながら物凄く冷たい視線を結衣香は僕に差し向けていた。


 やはり真島課長か。というか、課長、こんな短い時間で水野に東堂さんの事をいつ話したんだ?


 あっ! さっきの三人で何か話してたアレか!


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「悟、ちょっといいか?」


「こっちも話があります」

 真島課長の表情はいつもより少し硬くてどうしたんだ、とは思ったけど、東堂さんの件では僕にも言いたいことはある。岩田電産からの帰り道、気まずかったからって水野に話したのは気分が悪い。


 しかし、課長はそれを無視して言った。


「単刀直入に言う。今日の午後に入ってすぐ『ハラスメントホットライン』でお前が人事に告発された」


 ショックのあまり咄嗟には言葉が出なかった。


「『ハラスメントホットライン』は匿名だから誰が告発したかは分からない」


 僕は何とか気を振り絞って、


「僕は誰にそんな事をした事に?」


 と聞いた。


「結衣香だ」


「なんで」


 頭が混乱していると語彙が極端に少なくなる。


「だって、今日一緒に昼飯食べてんですよ?」


「その時の様子をお前は告発されているんだ」


 何だって? むしろハラスメント受けてたのは僕の方なのに!



「いつものように結衣香から酷い扱いをされていたのは僕と水野ですよ。本人ではなく、誤解した誰かが密告したってことですね?」


「言っただろ?『ハラスメントホットライン』は匿名だと」


 僕は唇を噛んで天井を仰いだ。


「人事から個々にお前と結衣香に事情聴取が行われる。その前にちゃんとお前から事実を聞いておきたい」


 何でこんなことに。


「俺には嘘偽りなく話せ。良いな?」


「分かりました」

 力なく僕は返事をした。


 真島課長には社員食堂での僕、結衣香、水野の三人の間の会話を可能な限り再現して見せた。


「うーん、聞く限りでは何が問題なのかオレにはわからんし、お前たちに限ってそんな事になるとはオレも思わないよ」


「ですよね、真島課長もそう信じてくれますよね?」


「ああ。もちろんだ。とにかく身の潔白を主張してこい」


 そう言って真島課長に送り出され、僕は人事部の会議室へ赴き人事部長とセクハラ防止担当の女性社員二名から僕は事情聴取を受けた。

 

 女性社員は各社員のキャリア担当である僕の一つ上の先輩、桜城さんだった。


 入社時からよくしてもらった先輩だが、こんな場で会えばいつもとは違う。


 自分の心拍数が上がっているのが自覚できる。喉がひりつくように乾いている。

 

 少し手も震えていた。


 静謐な人事部の会議室で、これから起こることに想像を働かせて、そしておののいていた。


 桜城さんが何も言わず手元の資料をめくる音がやけに大きく聞こえた。


 やがて口を開いた桜城さんの説明によれば、第三者の社員が今日の昼食時に僕、水野、結衣香の三人が交わしていた会話がパワハラに当たるとの指摘だったらしい。


「お前は死ぬ病気か?」


 がそれにあたるとの指摘、しかしこれは前後の『いちいち暴言を吐かないと』という部分が意図的に伏せられ、乱暴な言葉だけが報告されていた。


 結衣香もこの件で聴取を受けたが、事実とは違うと証言してくれたらしく、その旨桜城さんから説明を受けた。

 アイツが、俺のためにそう言ってくれたのは助かるな。


 人事から僕に対する疑いは一応晴れてはいたが、形式上本人に対する聴取は記録として残すため、せざるを得ないとのことだった。


「尾上くん、気を付けるんだよ。あなたは今、良い意味で方で目立ってしまっているから、こうやって匿名制度を濫用して君の足を引っ張ろうとする輩は一定数いるわ」


「桜城さん、課長からそう言われたときは眼前が真っ白になりましたよ。とにかくやった覚えがない事を『やった』とされることはとても恐怖でした」


「そうね。仲のいい後輩であっても、お互いに言葉選びは慎重にしないと」


 お互いに、っていう事は結衣香の僕に対する罵詈雑言も桜城さんはご存じなわけか。


 アイツは直ぐに「キモい」と誰にでも大声で言うからな。


 それを知っていて仲がいいっていうのはどういう了見なんだろう。


「仲がいい、っていうのはどうですかね」


「あら、あなたたち付き合ってるんじゃないの?」

 

「さ、桜城くん?」


 人事のキャリア担当である桜木さんがそんな事をさらっと言うのには腰を抜かしそうになった。


 人事部長である黒崎さんが慌てるのも他ない。


「付き合ってなんてないですよ! なんでそうなるんですか! 僕の方こそ汐留にはいつもパワハラまがいの酷いことを言われているんですよ?」


「あちゃー、そうなんだ。女子社員の中ではそういう事になってるわよ」


 結衣香は、今日水野が東堂さん事を言った時、いつもと違って皮肉を言っていたな。


「桜城さんのような立場の人がそんなデマを信じたらだめですって」


「そうね。分かったわ。では、黒崎部長、本件お咎めなしという事でよろしいですね?」


「そうだな。尾上、桜城君の言うように、汐留くんとの間の会話は十分気を付けるようにな?」

 

「分かりました。今回の件、本当に部長にも桜城さんにもお手数をおかけしてしまって申し訳ありません。今後は十分気を付けますので」


「よし、それではこの件は以上だ」


 そう言うと黒崎部長と桜城さんは僕を会議室から先に出るよう促して、事後の打ち合わせをすると言って残った。


 しかし、誰が、何のために。

 俺をこんな目に遭わせる?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「悟、お疲れ様だったな。疑いは、晴れたか?」


 僕がデスクに戻るや否やまた真島課長に先ほどの小会議室に呼び出された。


「黒崎部長と桜城さんはお咎めなしだと言ってました」


「なんでそんな事に?」


「桜城さんが言うには、僕の事を妬んだりする社員がいてもおかしくないって」


「なるほど。密告の仕組みも考え物だな」


「それと……」


「それと、なんだ?」


「女子社員の間の噂では、僕は結衣香と付き合ってることになってるって」


 僕は、咄嗟に真島課長が一瞬視線を僕から外したのを見逃さなかった。


「真島課長、何か知ってるでしょう?」


 僕がそう追及すると、咳払いを一つして言った。


「ああ、分かった分かった、それじゃ今晩も付き合え。昨日はヴーヴクリコごちそうになっちまったしな。今日はきちんとオレがおごるから」


「なんでそうなるんですか(笑)!」


「いいだろ? 付き合えって」


「仕方ないですね、昨日の事を水野に話したこともちゃんと話してくださいよ?」


 あれっ?


 今日は僕、重要な約束、していたんじゃなかったっけ?


 しかし、結衣香のヤツ、普段なら『キモい』と笑い飛ばすのに、なぜあんなに冷めた目を……?

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

突然のハラスメント疑惑はどうにか晴れましたが、問題は山積みですね。

女子社員の間で出回る「結衣香と付き合っている」という噂、それを聞いて視線を逸らした真島課長。そして何より……悟、東堂さんとの大切な夜の約束を完全に忘れています!(笑)

上司との飲みか、ヒロインとの念願の再会か。絶体絶命の第八話へ続きます!


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作者冥利に尽きます!

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