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第五十七話 僕たちを目の敵にする常務と、僕をどん底に落としたい元カノが密室で結託。とんでもない嘘の情報で、会社もろとも社会的に抹殺されそうです

 いつもお読みいただき、ありがとうございます!



「全てメチャクチャにして、私にすがりつかせてあげる」


 悟への執着と暁子への嫉妬を燃やし続ける女・涼子と、吉永部長たちを失脚させたい男・都賀常務。


 決して交わるはずのなかった二人の悪意が、今、最悪の形で結びつきます。


 悟、暁子、吉永部長、そして真島課長……彼らをまとめて社会的に抹殺するための「切り札」。


 破滅の足音が近づくサスペンス展開をお楽しみください。

 季節は巡り、街路樹の葉が冷たい北風に舞う冬がやってきた。


 新宿の喧騒から少し離れた、高級百貨店の最上階。


 外資系ハイエンドコスメブランド『クリスティーヌ・ニューヨーク』のメンズ専用VIPルームには、上質なラベンダーとベルガモットのアロマが静かに満ちていた。


 完全予約制のその密室で、ふかふかのリクライニングチェアに身を沈め、ホットタオルと最新式のスチーマーの温かな蒸気に包まれているのは、岩田電産の都賀常務である。


 経営層という激務の重圧を忘れさせる、極上のアンチエイジング・フェイシャルエステ。


 その最上級のリラクゼーションを提供しているのは、このブランドのトップ・ビューティーアドバイザーである涼子だった。


 売り場の一店員から社内資格を得て昇格したのだった。


「……少し、お疲れが顔に出ていらっしゃいますね、常務。眉間の筋肉がこわばっておいでです」


 涼子は、滑らかで寸分の狂いもない手技で都賀の顔に最高級の美容オイルを馴染ませながら、絹を撫でるような心地よい声音で囁いた。


「ああ……君のゴッドハンドにかかれば、少しはマシになるだろう。まったく、上に立つ人間というのは、常に頭の痛い問題を抱え込まねばならないからね」


 目を閉じたまま、都賀はゆっくりと、だがあからさまな不快感を滲ませて息を吐き出した。


「社内の派閥争いというものは、実に非生産的で不愉快極まりない。……私の推進する次期経営構想において、直接の部下が、どうにも目障りな癌になっていてね」


 都賀の声は、感情を荒らげることのない静かなトーンだったが、その奥にはエリート特有の冷酷な響きが潜んでいた。


「彼を適当な閑職へ追いやるための、完璧な手はずを整えていたんだがね。しかし、いざという段階になって、予期せぬ横槍が入って。……出入り業者に過ぎない、関東テクノスという会社の連中なんだ」


 涼子の指先が、都賀の頬を優しく引き上げながら滑っていく。


「真島という課長と、尾上とかいう若手社員が、実に小賢しく立ち回って。たかだか一介の外注業者の分際で、我が岩田電産の社内政治に影響を及ぼそうとするなど、身の程をわきまえないにも程がある。……部下もろとも、彼らには自分たちの立場というものを、社会的かつ徹底的に教育してやらねばならないと考えているんだがね。彼らも無駄に現場での人望があって、決定的な隙を見せないのだよ」


――ピタリ、と。


 都賀の輪郭をなぞっていた涼子の指先が、ほんの一瞬だけ止まった。


「……常務。今、関東テクノスの尾上さんと、おっしゃいましたか?」


 涼子の声の温度が、わずかに下がった。


 都賀はゆっくりと目を開け、怪訝そうに頭上の涼子を見上げた。


「ええ、尾上悟という男ですが。……なんだ、君、彼を知っているのかな?」


 涼子はスチーマーの出力を少しだけ弱めると、ふわりと、だがどこか猛毒を帯びたような艶やかな笑みを浮かべた。


 尾上悟。


(あの女……私にあんな酷いことを言って)


 涼子の胸の奥では、はらわたが煮えくり返るようなドロドロとした嫉妬が渦巻き続けていた。


「……ええ、存じております。以前、ごく私的な付き合いがございましたので」


「ほう。君のような洗練された美しい女性が、あの平凡な若手社員と? それは驚きだな」


「過去の若気の至りというものですわ。ですが常務……彼、今は岩田電産の吉永部長の姪御さんと、ご婚約されているとか」


「ああ、東堂くんか。なんだきみ、そんなことまで知っているのかね。役員会議の折に、吉永が挨拶がてら連れてきてね。我々重役にお茶出しをさせていましたよ。いかにも清楚で、世間知らずの品の良い箱入り娘といった風情の女だが。それが何か?」


 涼子は、手元の高級な美容液のボトルをゆっくりと持ち上げた。


 この数ヶ月、彼女は悟の新しい女の正体を暴き、二人を破滅させるために、美容部員としてのあらゆる顧客ネットワークと執念を燃やしていたのだ。そして先日、ついに決定的な確証を得るに至った。


「常務。……その『清楚な箱入り娘』が、実は新宿の高級キャバクラでトップを張っている夜の女だとしたら……どう思われますか?」


「……なんだと?」


 都賀の顔からリラックスした表情が完全に消え失せ、冷徹で計算高い経営者の目つきに変わった。


「実は私、以前こちらのカウンターで、曉子様のお顔を直接タッチアップさせていただいたことがあるんです」


 涼子は、都賀の耳元に顔を近づけ、甘く、そして残酷に囁くように言葉を紡いだ。


「私共のような美容のプロフェッショナルは、一度触れたお客様の骨格、肌の質感、筋肉のつき方、そして好まれる香水の品番まで、決して忘れることはありません。……東堂さんのお顔立ちは、新宿の『堕天使』という高級店でナンバーワンの座に君臨している『りおん』というキャバクラ嬢と、寸分違わず同じものでした」


 涼子の荒唐無稽な戯言(ウソ)だが、信じた都賀が、小さく息を呑む音が密室に響いた。


「つまり吉永部長は、自身の派閥の力を誇示するために、どこの馬の骨とも知れない夜の女を『清楚な姪』と偽り、天下の岩田電産の神聖なる役員会議に立ち入らせた。あろうことか、重役の皆様方に接客をさせて騙していたのです……。これ、常務の仰っていた『決定的な隙』になりませんか?」


 涼子は、美しく完璧な造形の唇を三日月のように歪ませ、決定的な一言を放った。


「吉永部長の悪質な背任行為および、役員全体への重大な侮辱行為。そして、それを裏でそそのかしていた関東テクノスの尾上。……二人をまとめて会社から社会的に追放するための、これ以上ない『切り札』かと存じますが」


 静まり返ったVIPルームの中で、都賀は天井を見つめたまま、しばらく沈黙した。


 やがて、その喉の奥から、クックック、という押し殺したような低い笑い声が漏れ始めた。それは次第に大きくなり、上品さをかなぐり捨てたような歓喜の高笑いへと変わった。


「……素晴らしい。なんという痛快な喜劇だ!」


 都賀は勢いよく身を起こし、涼子をギラギラとした野心的な目で見た。


「あの真面目ぶった堅物の吉永が、我々役員をキャバ嬢に接待させて嘲笑っていたとは! これが明るみに出れば、奴は役員会で弁明の余地なく血祭りに上げられる。会社の品位を著しく貶めたとして、即刻懲戒免職も免れない大問題だ。当然、その姪と深く繋がっている尾上や、関東テクノスというふざけた会社との取引も、コンプラの観点から完全に断ち切ることができる!」


「これがお役に立てるのなら、光栄の至りですわ」


「ああ、大いに役立つよ。この素晴らしい情報提供の恩は、私の権力(ちから)を以て必ず大きく報いさせてもらおう。……君のような賢く、美しく、そして残酷な女性は、私の手元に置いておくのに相応しい」


 都賀は満足げに高級スーツの身支度を整え、意気揚々とVIPルームを後にした。


 残された涼子は、鏡に映る自分の完璧なメイクを見つめながら、冷たく、妖艶に笑った。


(……これで終わりよ、悟。あなたが大切に築き上げてきた仕事も、あの忌々しい小娘との甘い未来も、全部メチャクチャにしてあげる)


 地位も名誉も仕事も失い、どん底に落ちてボロボロになった悟が、最後にすがりついてくるのは絶対に自分しかいない。その時、たっぷりと優位に立って、惨めな彼をこの手で慰めてやろう。


 冬の冷たい北風が、新宿の街に破滅の嵐の予感を運んできていた。

 最後までお読みいただきありがとうございました!

いやあああ、涼子怖すぎる!!(鳥肌)


 嘘八百を並べ立てて都賀常務を焚きつけ、悟の全てを奪ってから自分に依存させようとするその執念、まさに最凶の元カノです。


 そして、それに乗っかって歓喜する都賀常務も最悪すぎます!


 これ、吉永部長も真島課長も巻き込む会社ぐるみの超絶大ピンチじゃないですか!?


 悟たちはこの罠をどうやって切り抜けるのか!?


「涼子ヤバい!」「悟たち負けるな!」とハラハラした方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします!


  皆様の熱い応援が、迫り来る危機を乗り越える力になります。次回もお楽しみに!


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