第五話 彼が忘れている過去の出会い。取引先のキャバ嬢は、ずっとあなたに片思いしていました
前回の会議室での大波乱。吉永部長が発した「暁子」という呼び捨てと、彼女の予期せぬ号泣……その裏で一体何が起きていたのか。
今回は視点を変えて、ヒロインである東堂暁子の心情に迫ります。彼女が胸に秘めていた五年前の記憶と、真実が明かされる第五話です。
「暁子、一体さっきはどうしたんだ」
私、昨日の尾上さんの事で取り乱して衛叔父さんに迷惑を掛けてしまった。
「叔父さん、ごめんなさい。今日は心身ともに少し調子が悪くて」
「確かに顔色も悪い。無理して出社して来なくてもよかったんだぞ?」
「はい。でも今日の関東テクノスさんの訪問を取り次いだのは私だから」
「暁子は責任感が強いな」
と笑う叔父の顔は、業者を震え上がらせる購買部長のそれではない。
私もその時だけは、仮面を脱いだ一人の姪に戻れる気がした。
私の両親は私が大学二年生の時に離婚をし、旧姓に戻った母と私にとても良くしてくれたからだ。
岩田電産に入ったのは自分の実力なのは間違いない。
だって、叔父さんは私がこの会社の入社試験や面接を受けていることを知らずに 入社後の配属が決まる時に初めて気が付いたと言っていたから。
それにしても、尾上さん。
私と会った事を忘れてしまっているなんて、少し寂しいな。
叔父が私の大学の進路を相談するのに一番最初に紹介してくれたのが尾上さんだった。
尾上さんと会った時、人当たりが良いだけの人かと思ったんだけど、とにかく沢山私の気持ちを引き出してくれて、気がついたら私全部自分の気持ちや考えを吐き出していた。
そんなことって今までなかった事だったから、自分でもびっくりしちゃって。
こんな人が自分の彼氏だったら、きっと上手く付き合う事ができるんじゃないかって、そんな風に思った。
結局私は卒業するまで誰とも付き合ったこともなく岩田電産に入社した。
でも、あの時の尾上さんは、どこか危うくて、でも驚くほど優しかった。
今の彼が纏っている『仕事のできる男』の鎧の奥に、私はあの日の面影を探してしまう。
再会は偶然じゃない。
いつか胸を張って隣に立てる自分でいたくて、私はこの会社を選んだ。
そして尾上さんが叔父と対等に渡り合ってるのを見て、私は確信した。
この人とまた巡り会えた。
いつも私の心の片隅に存在してくれていた。
追いかけたわけじゃない。でも、待つだけの女にもなりたくなかった。
あの時、手帳を忘れた尾上さんにそれを渡すチャンスがあったのはきっと神様がいるのだと思った。
そして尾上さんは同じ日に私の「二つ目の職場」に偶然来た。
もしかして、あの人が言っていた“好きな女性”は——
なんて、都合よく考えすぎかな。
ううん、自惚れているわけではないよ。状況から言ってそう言う事だと思う。
「また、さっきの話の続きはここで」なんて、ぎゅっと心を掴まれた。
岩田電産《この場所》を守るためなら、私は夜の蝶にだってなる。その覚悟を、彼は無意識に肯定してくれた。それがどれほど救いだったか、彼は知らないだろう。
私が事情があって副業をやっていることを認められたような気がして嬉しかったし、私の事、忘れていたとしても好きになってくれたんだ……
あの後ずっと尾上さんの事を考えていたら夜更かししてしまって、寝坊で遅刻なんて学生気分が抜けていないなんて言われても何も言い返すことができないし叔父さんに迷惑をかけたと思ったり、真島さんと尾上さんが「堕天使」ではなく岩田電産に二人揃っているのを見たら頭の理解が追い付かなくなって、あんな風に取り乱してしまった。
いけないいけない。
気を引き締めて叔父さんに迷惑を掛けない様しなきゃ。
尾上さんに選ばれる女性になる、じゃない。私が選ぶのだ。この人を。
まずは尾上さんに電話をして、さっきの事、お詫びしなきゃ。
いえ、電話をする理由は、謝罪じゃない。
もう一度、私を見てほしい。
——今度は、忘れられないように。
お読みいただきありがとうございました!
東堂さん視点、いかがでしたでしょうか。尾上が忘れてしまっていた過去の出会いをずっと大切に抱え、自分を磨き続けてきた彼女の健気さに胸が熱くなりますね。「選ばれるのではなく、私が選ぶ」という力強い決意も最高に魅力的です。
さて、決意を固めた彼女からの電話で、二人の関係はどう動くのか? 次回もご期待ください!
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