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第四十七話 両親の職場参観中にヤバいセクハラ客が乱入! しかし、店長がめちゃくちゃカッコよく成敗してくれたおかげで、無事にキャバクラ勤務を認めてもらえました

 ご両親の職場参観の真っ最中、ついに現れてしまった最悪の要注意客・仲井さん。


 ライバル嬢エリカの思惑通り、セクハラ行為が始まってしまい、ご両親の顔は怒りと失望で強張ります。万事休すかと思われたその時……!

 

 従業員を守るため、「堕天使」の葉山店長が静かな怒りとともに立ち上がります。スカッと感120%、そして感動の第四十七話をお楽しみください!

「お客様のご都合が変わったのよ」


 エリカさんは事も無げに言い放った。


「エリカ、てめぇ何企んでいやがる?」


 姉小路が、エリカさんへの猜疑心を隠さず低いトーンで突っかかった。


「まあまあ、お客様の前ですよ。二人ともそのくらいにして。仲井様、こちらのボックス席へどうぞ」


 そう言って沙織さんが仲井さんの着席を促した。沙織さんはこういう所の機転が本当に利く。


 不穏な雰囲気に、曉子さんのご両親も少し緊張した面持ちだ。


 仲井さんが着席すると、エリカと沙織も彼を間に挟むように座り、乾杯用のドリンクのオーダーをシオンくんに伝えた。


 離れた席から見つめる曉子さんは、気が気でない様子だ。


 もし仲井さんが――僕自身は直接見たことはないのだが――セクハラ行為を働いたりしたら、曉子さんのご両親のこの仕事に対する心象は確実に落ちる。


 もちろん、現実を知ってもらった上で認めてもらえるのならばそれに越したことはないが、そうでなければ曉子さんの願いは絶たれてしまうかもしれない。


 そんなことを考えている間に、仲井さんのいるボックス席では乾杯が始まり、俄かに盛り上がっていた。


「イエーイ、今日はボトル入れちゃうぞ? そうだな、山崎の十二年とかあるの?」


「山崎の十二年は、最近人気がありすぎてなかなか入荷しないのよ」


「じゃあ、エリカちゃんのおすすめは何?」


「仲井様って、バーボンはお好きだったかしら?」


「うーん、嫌いではないかなあ」


「じゃあ月並みですけど、『Maker’s Mark』はいかが?」


「『Maker’s Mark』か……月並みだね(笑)」


「もう! 普通のじゃなくて、カスク・ストレングスっていう数量限定品が入ったの。それはどうかしら?」


「普通のとどう違うの?」


「少しビターチョコみたいな風味がするんだって。私、バーボンはそんなに飲んだことないんだけど、もし仲井様が入れてくれるならちょっと飲んでみたいなって」


「そうだな、じゃあそれ、もらおうか」


「仲井様、Maker’s Mark カスク・ストレングス一本いただきましたー!」

  

 盛り上がるボックス席とは対照的に、曉子さんのご両親は極めて冷ややかな目線を仲井さんに向けて沈黙していた。


 そして、お父さんが静かに口を開いた。


「曉子は、ああいう客の対応もするのかい?」


 一瞬、曉子さんは躊躇ためらったが、


「……うん。お客様も……いろいろだから」


 その刹那、ボックス席から沙織さんの小さな悲鳴が上がった。


「もう! 仲井さんのエッチ!」

 

「なんだよー、減るもんじゃないだろ。ちょっとその柔らかそうなおっぱいの感触を試しただけじゃないか」


 どうやら、仲井さんのセクハラが始まったようだ。


 同伴してきたエリカさんは、ニヤニヤしながら沙織さんと仲井さんのやり取りを見ている。


 止めるでもなく、ただ面白そうに。


「ねえ、曉子。あなたもあんなこと、されたりするの?」


「……お母さん、正直に言うわね。決して正しい事じゃないけど、私もされたこと、あるわ」


「まあ、なんて事……!」

 

 お母さんは激しく動揺し、怒りさえ覚えていることが僕にもわかった。


「曉子、やっぱり私は、あなたがこのような職場で働くことを認めるわけにはいかないわ!」


 そう言い放ったお母さんに対して、曉子さんが何か言い返そうとした瞬間――仲井さんのいるボックス席で、異変が起こった。


「仲井様。大変申し訳ありませんが、ご退店いただきます。そして二度と弊店にはお越しにならないようお願いいたします」


 いつの間に近寄っていたのか、葉山店長が毅然と言い放った。


「てめえ、どういう意味だ? 俺は客だ。金だって払っている。なぜ出て行かなければならない?」


「弊店が定める規約に違反されたからです」


「規約? そんなの知らねえし、説明を受けたこともない」


「仲井様、弊店では接客社交従事者――平たく言ってキャバクラ嬢に対する性的接触は禁止となっております」


「キャバクラがそれ否定しちゃうの? ハハっ、自縄自縛だね」


「仲井様が行くべき店は当店ではなく、いわゆる性風俗特殊営業店ですね。ファッションヘルスやソープランドなどがそれにあたります」


「四の五のうるせえ。俺は癒されにここに来てんの。細かいこと言うなよ。ホラ、Maker’s Markも入れてやったんだからさ」


「チャージを含めて、本日の『お代』は結構です」


「ああっ? どういう意味だ?」


 怒りが頂点に達したのか、仲井さんがいきなり立ち上がった。


 だが背は長身の葉山店長よりも十センチは低く、見上げる形になった。


「な、なんだよ! 客を見下ろすような店なんかここは!」


「今、『客』とおっしゃいましたね? 私は先程『お代は結構です』と申し上げたはずです。……なので、アンタは客ですらない」


「て、てめぇ!」


 仲井さんが、葉山店長の胸ぐらを掴んだ。


「シオンくん、警察を呼んで。これは傷害沙汰です」


 胸ぐらを掴まれたまま、店長は事も無げに言い放った。


「警察を呼ぶだと? 呼んだらアンタたちが困るんじゃねえのか? 『叩けばホコリが出るような業界』なんだろ? ええっ?」


 自信満々に反撃したつもりの仲井さんだったが、次の葉山店長の言葉に完全に凍り付くことになった。


「アンタさ、俺たちがどれだけ努力して、公明正大に商売やっているか理解していないだろう? 俺にはさ、アンタみたいな『客の面をしたゴキブリ』から、この店と、ウチの女の子たちを守らなきゃいけない責任があるんだよ。俺は絶対に見過ごすことはしない。覚悟しろ」


 気が付くと、シオン君をはじめ男性のホールスタッフ全員がボックス席を包囲していた。


 そして沙織さん、姉小路、曉子さんの全員が、葉山店長の言葉に胸を打たれていた。


「て、店長……そんなにアタシたちのこと……」


 姉小路にそう言われて、店長は一瞬照れたような表情をしたが、直ぐに真顔に戻った。


「おいおい、冗談だろ。ちょっとこの女(沙織)のおっぱいを触っただけじゃねえか」


「冗談は顔だけにしてほしいのはアンタの方だ。じゃあ、好きでもない男にアンタのイチモツをいきなり触られて、アンタは『冗談』で済ましてくれるのかい?」


「それとこれとは話が全然違うだろ? 何言ってんだ」


 ここで、形勢不利と見たのか、エリカさんが会話に乱入した。


「店長、酷いですよ。私がせっかく取ってきた上客なのに。仲井様に謝ってください!」


「エリカさん。申し訳ないが、この店の『掟』を破ったのは君も同じだ。あとでゆっくり話がある」


 葉山店長はもともとシュッとした強面だが、ここまで鬼気迫った表情は誰も見たことがなかった。エリカさんは継ぐ言葉が見つからず、忌々しそうに俯いてしまった。


「さあ、どうします? 自らご退店いただくか、こちらで警察を呼ぶか」


「お、覚えていろよ、絶対俺はこのままじゃ済まさねえからな!」


 仲井さんはお決まりの三流悪役のような捨て台詞を吐いて、「堕天使」から逃げるように出て行った。


 葉山店長は、その他のお客様にこの騒動を詫び、深々と謝罪のお辞儀をした。


 それだけでなく、


「さあ、みなさん。お詫びの印として、只今より『Maker’s Mark』を特例で一時間フリードリンクにいたします!」


 と言って、鮮やかなアフターフォローも欠かさない。


「さあ、エリカさん。バックヤードへ」


 最後にそうエリカさんに促し、店長は先に事務所のドアを開けて入っていった。エリカさんも渋々、店長に続いてドアの中へ消えた。


 エリカさんの姿を目で追っていた曉子さんは、ハッと気が付いて両親の方に振り向いた。


「曉子」


 お母さんの一言で、その場に重苦しい雰囲気が漂った。


 次にどんな拒絶の言葉が飛び出すのか。不安な表情を浮かべる曉子さんに、お母さんは真っ直ぐに向き合った。


「お母さん、さっきは『このような職場』なんて失礼なことを口走ってしまったこと……後悔しているわ」


「えっ!?」


「あんなにしっかりした、従業員思いの店長さんがいらっしゃるなら……私、あなたがここで働くことに賛成するわ」


「お母さん……」


「お父さんもだ。曉子の同僚の皆さんの姿を見ていると、なんていうのかな。お客様が安らぎを求めてきていることに、真摯に対応しているのがわかる。そして何より、店長さんが素晴らしい」


「お父さんまで……」


 少し涙ぐんだ曉子さんは、心の底から嬉しそうに見えた。


「りおん、良かったな」

 

「クレアさん、でしたっけ? この子を、くれぐれもよろしくお願いします」

 お母さんは姉小路に向かって、深々と頭を下げた。


「そうですね。私がこの店にいる限りは……」


「あら、お辞めになる予定でも?」


「いやいや、キャバ嬢なんてずっとひとところの店にいることなんて稀ですよ。それに……」


「それに?」


「アタシ、もう三十路なんで。大体みんな、これくらいの歳で引退、って感じなんですよね」

 

「クレアさん! 絶対やめないで!」


 涙が溢れた曉子さんは、姉小路に抱きついて懇願した。


 姉小路は少し寂しそうな、それでいて優しい表情を浮かべながら、


「今は、お前の面倒を見てやるから安心しな」


 と、曉子さんの髪を撫でた。

 最後までお読みいただきありがとうございました!


 店長ーーーーっ!! 最高にカッコいいです!! 「客の面をしたゴキブリ」「冗談は顔だけにしてほしい」など、名言のオンパレードでスカッとしました! エリカちゃんの企みも未遂に終わり、ご両親にも見事に『堕天使』の素晴らしさが伝わって本当に良かったです(泣)。


 しかし、最後に姉小路が匂わせた「引退」という現実。30歳という年齢の壁に直面する彼女の寂しげな笑顔が切ないです……。


 「店長最高!」「クレア引退しないで!」と心が動かされた方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします!


 皆様の応援が執筆の最大のエネルギーです。次回もお楽しみに!

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