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第三十八話 勘違いで傷ついた彼女が身を引こうとしていたその時、美魔女のお母さんを味方につけた元キャバ嬢の同級生が実家に直接乗り込んできました

 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


インターホン越しの悲劇(美魔女の母)から数時間後。

悟の家にやってきた姉小路は、見事に状況を分析し「お母様に一肌脱いでもらう」という大胆な作戦を提案します。

一方、誤解から絶望し、静かに身を引こうとする暁子と、悟への憎悪を募らせる母・佐知。すれ違う想いが交錯する中、吉永家のインターホンを鳴らしたのは……まさかのあの人物!? 目が離せない第三十八話です!

「こんにちは! 初めまして。私、姉小路雪子と申します」

 一時間くらいで、と言っていた姉小路が、それよりも十五分も早くやって来た。


「きゃー、尾上君のお母様って、本当にお若くしていらっしゃるのですね」

 僕があれほどそういう話はしない様にって言ったのに。

 ……もう、知らないからな。


「初めまして。悟の母、麻子です。よくいらっしゃいました」


「お母様って、ひょっとして私よりもお若く見えますよ。ほら、私って昔から生活が乱れてたから、老けるのが人より早いかもって」


「そんなことないわ。雪子さんでしたっけ? 私は悟を二十五の時に産んでいるから。あ、計算はしなくていいわよ」

 母さんが冗談を言っているうちは大丈夫だと思うけど、この手のギリギリの会話は聞いていて心臓に悪い。


「まあ、立ち話も何なんで、中に入りなよ。お前んちとは違って狭いけどな」


「あー、アタシんちはどうでもいいよ。そんな比較なんてしないって」

 態度もでかいし見た目も派手だが、姉小路は地元の名士の娘だから、どうも卑屈になってしまってダメだ。


「雪子さん、ここまで歩いてきて暑かったでしょう? 冷たいものを今お出しするから、中にお入りくださいな」


「はい、それではお言葉に甘えてお邪魔します」

 躾はしっかりされて育っているから、言葉遣いをTPOで使い分けられるのが姉小路の凄いところだ。


リビングのソファに姉小路を通すと、台所から母さんが「麦茶が入ったわよ」と声をかけてきたので取りに向かった。


「何にもないけどさ、麦茶を飲めば少し涼しくなるだろう」


「ありがとう。アタシ麦茶は好きなんだ」


「それは良かったわ」

 母さんが台所から応える。


「それはそうと、お前んちの前に駅前の洋菓子屋の袋が落ちててな、中にケーキが入ってたんだよ。悪いけど、これ棄てておいてくれ」


「誰がこんなもの棄てていったんだろうな……って、まさか」


「多分そうだろうな。りおんがパニくって落としていったんだろう」

 姉小路から渡された半透明のレジ袋。そこから透けて見える小さな白い箱からは、微かにチョコレートの匂いがした。

 びっくりさせてしまって、曉子さんには本当に申し訳ないことをしたな。


「ちょうどよかったわ。私、名古屋から悟にお土産で『きよめ餅』買って来たのよ。この子が名古屋に住んでいる時に結構好きでね」


「母さん、麦茶にきよめ餅はちょっと……」


「お茶も淹れるわね。麦茶は身体の火照りを取るものよ。お菓子にはお茶が当たり前じゃない」


「お母様、本当にお気遣いなく……でも、きよめ餅ってどんなお菓子ですか?」


求肥ぎゅうひに小豆餡が包まれている、本当にシンプルな和菓子ですよ」


「私、求肥大好きなんですよね。ありがたく頂戴します」


「それは良かった」

 

 母さんがきよめ餅と温かいお茶を運んでくると、いよいよ本題が始まった。


「りおんはああ見えて、脊髄反射的に振る舞うところがある。いつだったか『堕天使』でスケベじじいに絡まれたとき、腕をひねりあげて無茶苦茶怒っていた時があってな」


「ええっ、そんなことするの?」


「そりゃアタシだってびっくりだよ。だから今回のことも、よく確かめもしないでケーキを放り出して家に逃げ帰ったんだろうな。当然、りおんの母親はどういう経緯かは知らないけど、お前に会ってもいいと一度は許したのに、お前に他の女が居たって聞く羽目になるわけだ。すると、あの母親の反応はどうなる?」


「僕をまた悪者にするよね。たぶん」


「多分じゃねえって。お前が言い訳をすればするほど、あの娘の母親はお前を攻撃するだろうね」

 分かっている。曉子さんのお母さんは、良くも悪くも一途な性格の持ち主みたいだ。だから今回の件も、娘である曉子さんをいかに守るか、その一点で僕を激しく攻撃してくるのは容易に想像できた。


「で、どうすればいい?」

 僕が問うと、姉小路は少し悪戯っぽい表情を浮かべて、母さんの方に視線を向けた。


「少し、お母様にも一肌脱いでいただきたいなって」


「え、私が? 一肌って? 脱ぐの? 何を?」

 急に話を振られた母さんは、間抜けなことを言いながら、びっくりして開いた口が塞がらなくなっていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「母さんが浅はかだったわ。あなたをまた傷つかせてしまったわね」

 曉子の母・佐知は、何も語らない曉子に何が起きたかは分からなかった。しかし、自分が悟に会うことを許した結果、娘がひどく傷ついて帰ってきたことに驚き、そして激しく後悔していた。


「何があったのか、話してくれるわね?」

 曉子は小さく頷いた。

 嗚咽は止まっていたが、涙がひたすらに頬を伝い、なかなか言葉が出ない。


 佐知は「まず座りなさい」と言って、リビングのソファを曉子に勧めた。


 曉子が腰を下ろすのを見届けると、「少し待ってて」と言って台所へ向かい、湯を沸かしている間にコーヒーミルで豆を挽いた。


 ケトルの笛がけたたましく鳴り、湯が沸く。


 カップボードから佐知がお気に入りのカップ&ソーサ―を二組取り出し、少量のお湯を注いでカップを温める。フィルターで丁寧にコーヒーを淹れると、曉子のもとへも芳醇な香りが漂ってきた。


 コーヒーの香りには、集中する効果とリラックスを促す効果があるという。


 間もなく、佐知はコーヒーをトレイに乗せてやってきた。


「いい……香り。ちょっと落ち着いた」


「それは良かったわ。あなた、学生の頃はあまりコーヒーが好きじゃなかったわよね?」


「うん。テスト勉強とかでミスドに行って、沢山お代わりしたりしたから、ちょっと嫌いになっちゃって」


「そうね。なんでも飲みすぎはだめよ」


「うん。……それでね」


 佐知は、曉子が意外にも冷静さを取り戻しているのを見てホッとした。だが反面、悟に対する憎悪は静かに燃え上がっていた。

 まだ何も聞いていないが、娘があれほどまでに泣き崩れた原因は、容易に想像がついたからだ。


「直接会って、この二ヶ月間のことをお詫びしたかったの。お母さんに悟さんとのことを許してもらえて、私、少し舞い上がっていたのかな」


「あの人には会ったの?」


「ううん。インターフォンを押したんだけど、最初誰も出なくて。帰ろうとしたら――」

 ここまで言いかけて、曉子の目にはまた涙が浮かんだ。


「帰ろうとしたら、知らない女の人の声がインターフォンから聞こえてきて……」


「なんてこと……」

 それは、佐知が想像していたいくつかのシナリオの中で、最悪の結果だった。


「それで私、変な想像しちゃって、訳が分からなくなっちゃって」


「可哀想な曉子。やっぱり、あの男はあなたには相応しくないわ」

 しかし曉子は、佐知の意見には同意できなかった。


「ううん、お母さん。私が二ヶ月も悟さんに連絡できなかったんですもの。酷いことをしたのは、私の方だわ」


「それは、お母さんがあなたを……その、自由にさせなかったからじゃない。曉子のせいではないわ。たった二ヶ月よ? あの男はそれすらも待つことができないのかしら」


「お母さんを責めているわけではないの。相応しい、相応しくないの前に……私は悟さんにとって、今現在どんな立場なのかなって。それが何だか悔しくて、悲しくて、情けないのよ」


「曉子。やはりあの男を、私は絶対に許さない。どんな手を使ってでも懲らしめてやるから」


「それだけはやめて。もう、私が身を引けばいいことなんだし。また親子三人そろったんだから、私はそれだけでも幸せよ」


「あなたの本当の幸せは、それだけじゃ足りないわ。あなたを縛り付けてきた母さんが言う資格もないのだけれど……これからはお父さんと一緒に、あなたの幸せの事だけを考えるから!」


「お母さん、ありがとう。でも、いつまでも自立できない娘じゃダメよね。私も独り立ちできるように頑張るから。こんなことでメソメソしているわけにはいかないわね」

 佐知は、そう気丈に振る舞う曉子の成長を感じると同時に、これまで娘に様々な制約を設けてきたことを心の底から申し訳なく思った。


「じゃあ、この話はお終い。私、メイクをちょっと直してこないと。酷い顔しているわよね?」

 曉子がそう言って自室に戻ろうとしたとき、インターフォンが鳴った。


「あら、宅急便かしら」

 佐知が言いながらインターフォンのモニターを確認すると、そこには見たことがない若い女が立っていた。


「どちら様でしょう?」


「りおんちゃんいます? あ、ごめんなさい。本名知らなくて」

 インターフォン越しの女は、ぶっきらぼうにそう言った。


「曉子、お店の同僚の方かしら? ちょっと出てみて」


「はーい」

 そうは応えたものの、曉子の自宅を知っている「堕天使」の同僚などいるはずがない。

 曉子は怪訝に思いながら玄関まで行き、チェーンロックを外してドアを少し開けた。


「りおんちゃん、こんにちは」


そこに立っていた女は、三十代くらいの――つい先ほど、あの悟の家から聞こえてきた声の持ち主だった。

 最後までお読みいただきありがとうございました!


 姉小路さん、行動早すぎる!!(笑) 悟の家でのお母さんとのやり取りに和んでいたと思ったら、もう吉永家に乗り込んでいるフットワークの軽さに痺れました。


 暁子さんからすれば「悟の家にいた見知らぬ女が直接やってきた(修羅場!?)」というパニック状態ですよね。


 果たして姉小路は、暁子さんと佐知さんにどう切り込んでいくのか!?


 お母さんの「一肌脱ぐ」作戦とは!?


「姉小路頼む!」「誤解を解いてあげて!」と続きが気になった方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします! 皆様の応援が執筆の最高のエネルギーです。次回もお楽しみに!


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