第三十七話 『見知らぬ女』の正体は若すぎる僕の母親でした。最悪のすれ違いと、爆笑しながらやって来る頼もしい元同級生
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幸せの絶頂から一転、暁子を絶望のどん底に突き落とした「見知らぬ女」の正体。
それは浮気相手でもなんでもなく……なんと、たまたま帰省?していた悟の「若すぎるお母さん」でした!
最悪のすれ違いに頭を抱える悟ですが、そこに頼もしい(?)戦友・姉小路からの着信が。
ラブコメ感満載のドタバタな第三十七話、お楽しみください!
「良く聞こえなかったんだけど。誰が来たの?」
悟は二階の部屋から出て、階段の上から一階に呼びかけた。
「東堂さん、って聞こえたけど。あんたの会社の人じゃないの?」
「えっ! 東堂さんだって? 母さん、もっと早く言ってよ!」
東堂さんにインターフォン越しに対応したのは、僕の母麻子だったのだ。
母さんは、僕の父と21歳で結婚し、翌年兄の透が生まれ、三年後に僕が生まれた。
母さんの年齢は五十五歳だが、口性のない周囲からは「美魔女」と噂されるほど若く見える。息子が言うのだから間違いない。
さすがに二十代は無理だが、三十代前半と本人が言えば、本当の年齢を見破れる人はほとんどいないだろう。
「あ、ああ。いま、お付き合いさせてもらって……いや、ちょっと複雑な事情があってさ。二か月くらい連絡が取れなかったんだ」
「それは穏やかじゃないわね。アンタ浮気でもしたの?」
「何だよそれ、そんなのしてねえし」
「じゃあどうして?」
「これはちょっと母さんにも言っていいかどうかわからないから今は言えない。本当に深刻な話なんだ」
母さんも事の深刻さを分かってくれたのか、僕がそう言うと反論はしなかった。
「お母さんが手伝えることがあったら、何でも言ってね。一人で抱え込まないの」
「ああ、ありがとう」
多分、第三者から見ると、三十路の僕と、美魔女の母さんは親子ではなく恋人同士に見えるかも。
「東堂さん、帰っちゃったみたいね。アンタがなかなか部屋から出てこないから」
「……いや、母さんの声を聞いて誤解したんじゃないかと思う」
「えっ……私?」
それを聞いて僕は頭を抱えた。
「あちゃー、申し訳ない……って仕方ないじゃない! ここは私の家なんだし!」
「それはそうなんだけどさ。ところで突然今朝帰ってきていったい何があったの? 父さんと喧嘩でもした?」
「全然! 今でもラブラブよ?」
「二人とも仲のよろしいことで。で、どうして?」
「実はね、高校の同窓会が明日あるのよ。ついでだからアンタの顔も久しぶりに見たくなって早めに帰ってきちゃった。どうせろくなものも食べていないんだろうし」
「お生憎様。ちゃんと家で料理つくっているし、それなりにバランス良い食事を取ってるさ」
「そお? まあたまにはおふくろの味っていうのもいいでしょう?」
「ああ、それはありがたく頂戴する」
「それはそうと、その東堂さんを帰しちゃったけど電話しなくていいの?」
「あっ!」
悟は絶句して慌てて二階の自室に駆け上がってスマートフォンからに電話を掛けてみた。
しかしコールが十二回続いたあと、「ツーツーツー」という音がなり呼び出しはキャンセルされてしまった。
でも、電話はかかるんだ。きっと軟禁状態は解けたんだな。
だけど、僕がこの件のキーマンである東堂さんのお父さんと話をする前に何故、あの東堂さんのお母さんが軟禁を解いたのだろうか。
考えても仕方がない。
とにかく、東堂さんの家に行って誤解を解かなければ、そう悟は決意して着替え始めた。
そこに着信。
「曉子さん? すまない、さっきのは僕の母さんなんだ!」
「おい、尾上、何の話だ?」
「えっ、姉小路……だったのか」
電話の主は、クレアこと姉小路雪子だった。
「姉小路だったのかじゃねえって(笑)」
「すまん、さっきりおんちゃんがウチに来たみたいなんだ」
姉小路はそれを聞いて一瞬絶句して、
「マジか! 軟禁解けたんだな? で、何をしくじったんだよお前。バカ野郎だな!」
と怒鳴った。
「すまん、母さんが一時帰宅してて勘違いされたみたいなんだ。想像なんだけど」
「え、お前の母さんって、二十歳くらいにしか見えないあのお母さんか? 噂にしか聞いたことないけど」
「ああ、あれからさすがに十五年経ってる。もう二十歳ってことはないがな。でも声も若いからインターフォンでそう思われた可能性はものすごく高くて」
姉小路は爆笑した。
「かははっはっは! 笑えるねえ! 君たちぃ!」
「笑い事じゃないって。だからこれからりおんちゃんちに行こうと思ってさ」
笑っていた姉小路だが、秒で素に戻り、
「うーん、気持ちは分かるけど、今は止めておきなよ」
と、僕を窘めた。
「今は止めておけって、誤解されたままじゃ不味いだろう?」
「気持ちは分かるけどさ、お前が電話かけてもりおんは電話に出ねえんだろう?」
「そ、そうだけど」
「アタシが想像するに、また振出しに戻ったんだよ。おそらくあの娘の母親は、お前をまた拒絶するね」
「そ、そんな」
「だからさ、今からお前んちに姉小路雪子様が言って作戦を考えてやるよ」
「い、いいのか? ていうかお前何の用で電話してきたの?」
姉小路は詰まった。
「べ、別に元気かなって電話しただけだ。悪いか?」
「いや、そんな事ないよ。いつも僕みたいな奴の事を気に掛けてくれて本当に感謝してる」
「バカ! なに改まってそんな恥ずかしいこと……」
「(笑)なんて言えばいいんだよ。まあ、とにかくりおんちゃんには電話をしたって履歴は残ったと思う。姉小路の作戦を聞いてからでも遅くない」
「そ、そうか? じゃあお前の家に行ってもいいんだな?」
「ああ、母さんがいるけど構わないか?」
「キャー! 伝説の『美魔女』に逢えるんだ! いろいろ聞きたいことあるからモチ会いたいくらい! アタシももう三十じゃん? どうやって若さを保つかとかめっちゃ気になるじゃん」
「一応言っておくけど、母さん、その『美魔女』って言われ方嫌いだから気を付けてくれよ」
「あちゃー、ごめんごめん。それは言わないから」
「まあいいよ。僕んちわかるよな?」
「当たり前よ。地元だもん。一時間で着くから。あ、お母さんどこかに行かさないでね!」
「あっ、」
と僕が言いかけた刹那、姉小路は一方的に電話を切ってしまった。
僕はまた一階に戻って、姉小路がここに来ることを母さんに告げた。
「姉小路さんって、あの華道の……? あんたが中学の時に結構不良だった子よね?」
「母さん、そんな言い方しないでくれ。姉小路にもいろいろあったんだ」
「ごめん」
「いいんだ。僕が名古屋に転校する前に、姉小路が兄さんと似た境遇だなって話したことがあったんだ」
「透に似てる?」
「大人の偏見で押しつぶされた兄さんと姉小路も同じだ」
母さんは黙って頷いた。
「その姉小路さんとあんたは、転校してもずっとつながりがあったってことなの?」
「いや、偶然再会した」
「なんだかドラマチックじゃない? どこで会ったの?」
答えるのに躊躇したが、思い切って話すことにした。
多分母さんは僕の味方をしてくれると思ったからだ。
「東堂さんは、僕の取引先の購買部長の姪っ子さんなんだけど、彼女はキャバクラで働いているんだ」
思い切って言ったけど、母さんの反応は薄くてどうしていいかわからなくなった。
「お母さん、急に東堂さんの話に戻ってもう混乱してるんだけど(笑)。でも、ついていけるように頑張って聞くから続けて」
母さんは理解するのに時間がかかる、と言っているんだな。
「そこで姉小路も働いていた、そういう事なんだ」
「あら、アンタも隅に置けないわね。でも、アンタってそういう所あまり好きじゃないでしょ? どうしてまた」
「今の上司がキャバクラしか行かないんだよ」
ちょっと誇張かもしれないけど、ほぼ本当のことだし。
「でもアンタはそこで東堂さんと出会ってしまった。姉小路さんとも再会してしまった。それでどっちにするか悩んでいると……」
「なんでそういう話になるんだよ!(笑) 全然違うし」
「でも、お母さんはちょっと違う想像をしているわよ」
「え、どういうこと?」
「ごめん、今はいう事じゃないわね」
「なんだよ、言いかけて止めるなんて気持ち悪いな。あと、『そういう所』って言い方、それは母さんの偏見だよ」
「そうね、その言い方も撤回するわ。ごめんなさい。あなたがまともな感覚を持っていて、お母さん嬉しい」
「そんなんじゃないけど。ともかく、東堂さんの家に行って釈明しようと思ったんだけど、姉小路は止めておけって。それで作戦を二人で考えることにしたんだ。あ、母さんに挨拶したいって言ってたよ」
母さんは、僕のことを少し気の毒に、というような顔をしていた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
インターホンの女、お母さんだったんかーーい!!(笑)
前回の暁子さんの絶望と涙を返してあげて!とツッコミつつ、あまりのラブコメの王道展開にニヤニヤしてしまいました。
姉小路が爆笑するのも無理はありません。
しかし姉小路、悟の暴走を的確に止めてわざわざ家まで来てくれるなんて、本当にイイ女であり最高の相棒ですね。
お母さんが察した「違う想像」というのも気になります!
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