第三十六話 毒親と和解してついに軟禁から解放! 大好きな彼氏の家にサプライズで突撃したら、見知らぬ女の人がインターホンに出ました
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
本話から新章が始まります。
家族の絆を取り戻し、晴れて自由の身となった暁子。
「悟さんに会いたい」――その一心で、彼女は彼が住む町へと向かいます。
しかし、幸せなサプライズ訪問になるはずだったその場所で、暁子を待ち受けていたのは想像を絶する絶望でした。
すれ違う二人の運命から目が離せないエピソード、お見逃しなく!
東堂曉子は、2か月以上に及ぶ自宅軟禁の末、軟禁の主体者である母親とも和解したがいまだに体力は完全に戻ってはいなかった。
取り上げられていた携帯電話は母親から返却され、もう、誰といつ何を話しても問題はなくなった。
父、宜史も曉子の母、佐知との復縁を前提に曉子たちが住んでいる自宅に戻ってきた。
宜史の書斎は、手つかずだったのだ。
宜史は早速実弟の衛に連絡をして、
「曉子がようやく解放されたんだ。会社に復帰させたいと思っているのだが、スムーズにいくものかな?」
と訊いた。
新入社員がいきなり五月病にならない前に休職したのである。
いろいろとある事ないこと噂になっていることだろう。
「兄さん、そのことなんだが」
「どうした、やっぱり難しいのか?」
「俺は曉子が自分の姪っ子だってことを全く会社には言っていないんだ」
「本当か? じゃあお前の部下であることはホンの偶然ってことか」
「ああ、そうなんだ。曉子は今、吉永姓ではないだろう?」
佐知は宜史と離婚した後、直ぐに吉永姓を旧姓に戻したのだった。
「ああ、そうだったな」
「曉子の実力なら、俺のコネなんて使わなくても岩田電産なら何の問題もなく入社できたさ。それで、佐知義姉さんと再婚すると曉子はどちらの姓を名乗るんだい?」
「曉子はもう立派な成人だ。曉子が決めればいいと思っているよ。お前に面倒を掛けたくないから、そうだな。東堂を名乗っていればいいと思っている」
「まあ、俺のことはさておき。会社にはいい機会だからバラしてもいいかなとは思っている。購買部からは配置転換されるかもだがな」
「それは仕方ないさ。ともかくどちらの姓を名乗るとしても、衛、頼む。曉子を見守ってやってくれ」
「それは勿論だよ、兄さん」
その後少し世間話をして、7月1日から復帰することで話がまとまった。
衛は吉永姓に戻すことで、曉子が新たな社会人生活を送れるのではないかと思っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ええっ? 私の姓を吉永に?」
食欲が戻り、少し体重も戻ってきた曉子は、宜史からの提案―― つまり曉子の最初の名前に戻すこと ――に少し戸惑った。
両親が離婚するまでの名前、吉永 曉子に戻るか、大学、社会人で名乗り慣れた東堂 曉子であり続けるか。
自分のアイデンティティの問題でもある。
「お父さん、ありがとう。でも少し考えてみたいの」
「慌てることはない。ゆっくり考えなさい。お父さんとお母さんが再度席を入れたとしても、曉子は自分の名乗りは自分で決められるんだ」
「うん、……そうだね」
曉子は悩んでいた。
吉永姓を名乗ることの良し悪しを測りかねていた。
(そうだ、悟さんに連絡をしなくっちゃ。この件、相談に乗ってくれるかな?)
母佐知が悟の存在を認めてくれた事を喜んだ曉子であるが、母のせいとは言え、2か月以上も会うことはおろか電話で話すことも出来ずにいたのだ。
電話で何を言えばいいんだろう。
突然、曉子は悟に猛烈に会いたくなっていた。
(電話ではなく、直接悟さんに会ってこの二か月間の事、話さなきゃ)
そう呟くや否や、二階の自分の部屋に駆け上がり、出かける支度を始めた。
今は日曜日の朝だ。
(ひょっとしたら悟さん、家にまだいるんじゃないかしら。ちょっと驚かせたいし、行ってみようかな)
ちょっとした悪戯心が発露するほどに曉子の心も解れていたのだ。
曉子は七分袖のネイビーカラーのカットソーとボーイフレンドジーンズを合わせてみた。
(まだ、ちょっと不健康そうな顔色ね)
三面鏡に映る自分の顔に少し不満気だったが、悟に会いたい気持ちがそれを凌駕していた。
「少し外に出てくるわ」
「あら曉子。尾上さんと約束したのかしら?」
「い、いや、そういうのじゃないけど。お母さんも連れてきなさいっていうし。今日はちょっと会いに行くだけよ」
「曉子、もうお母さんはあなたの邪魔だてなんてしないわよ。私のことは気にしないでね」
「お母さん……ありがとう。本当に、ありがとう」
梅雨の中休みのような晴れの日。
曉子は両親に見送られて家を出、悟の住む町まで続く電車に乗った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(悟さん、急に押しかけたりしたらびっくりするだろうな)
そうは思いつつ、悟の住む町の駅で下車した曉子は、駅前の洋菓子屋でチョコレートケーキを二つ買って商店街を日傘を差しながら歩いて行った。
二か月前。
悟の家に急に泊まると言って浴室で倒れた時のことを思い出し、一人赤面していた。
(あれは恥ずかしかったな。でも、悟さん、優しかった)
なんだか自分でも想像して吹き出しそうになるくらいにニヤけた顔をしていた曉子は悟にもうすぐ会える、その想像で頭の中が一杯だったのだ。
商店街の商店が尽き、普通の住宅街に変わった。
悟の住む尾上家は商店街から続く一本道沿いにあった。
築30年は経っているであろう日本建築の家屋には、バランスよく樹木が植えられており、ブロック塀で囲まれているごくありふれた家だった。
門柱に取り付けられたインターフォンを押そうかと指を伸ばしたが、心臓の音が頭の中に響くほどに緊張は高まった。
(ここまで来たんだから。それに、悟さんと一緒に食べようと思ってチョコレートケーキも買ったんだし)
曉子はそうやって心を奮い立たせた。
「ピンポン♪」
軽やかに呼び鈴は鳴った。
背後で、車が一台、二台と通り過ぎたが家の中から反応はなかった。
(あれ、悟さん。寝ているのかしら。だとしたら、こんな時間に来てしまって起こしてしまったら申し訳ないわ)
そう思ったが、やはりここまで来たことが無駄になってしまうことが曉子には勿体なく思えてきた。
(もう一度だけ。呼び鈴を押して反応がなかったら、仕方ないから帰ることにしよう)
そう心の中でつぶやきながら、思い切って二回目の呼び鈴を押した。
十秒ほどだっただろうか。
沈黙は続いた。
(やっぱり悟さん寝ているか、お仕事か何かで出かけているんだわ)
曉子が伏し目がちに尾上家に背を向け、帰ろうとしたその時だった。
「はい、どちら様」
インターフォンのスピーカーから女の声がした。
同時に振り向いた曉子は、
(えっ、誰?)
間違いはないはずだが、念のため曉子は門柱に埋め込まれた表札を確認した。
「尾上」と草書体で書かれた表札がそこにはあった。
「あっ、あっ、あの、私、東堂と申します。さ、悟さんは御在宅でしょうか?」
一瞬だけ間が開いた後、
「サトル―、東堂さんだって」
と、インターフォン越しの女は悟を呼んだ。
(だ、誰なんだろう……悟さん、私と会えなくなってからまさか……)
不安だけが大きくなって、曉子はこれまでの軟禁状態の時のように心に薄い、そして不透明な幕が張られてゆくのを感じていた。
(これほどの絶望ってあるの? せっかく、お母さんが許してくれたのに。悟さん、どうして。どうして!)
曉子の大きな瞳からは涙がとめどなく流れ出てきた。
気が付くと嗚咽していた。
周りには幸い通行人は居なかったものの、急に羞恥心が出てきて、曉子は洋菓子店で買ったチョコレートケーキを投げ出して、駅に向かって駆け出した。
(私はバカだ。いつまでも悟さんのことをつなぎとめることができるなんて、自惚れていたのよ。二か月も連絡が取れない女なんて、悟さんは悪く……ないわ)
そう頭の中で考えて自分に対しても冷静を装うとしていたが、曉子の中には違う感情も同時に存在していたのだ。
(悟さん。なんで? なんでなの? あの時、『ぼくは、何度でもここに曉子さんとお付き合いさせていただけるようにお願いに来ます。そしてぼくが曉子さんに相応しい男だとわかっていただけるまで何度でも』って言ったじゃない! それなのに。なんで? どうして? 酷いわ。悟さん、裏切りよ!)
つばの広い帽子を目深にかぶって泣き顔を乗客に隠して、曉子は電車を乗り継いで自宅へ帰った。
「あら、曉子。尾上さんとは会えたの?」
無言で自宅に帰ってきた曉子の様子を観た母佐知は、曉子の明らかにおかしい様子を見て何かを悟った。
佐知は何も言わず、曉子の肩を抱いた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
暁子さぁぁん……!!(号泣) 軟禁から解放されて、ウキウキでケーキを買って悟の家に向かう姿が可愛かった分、ラストのインターホンの破壊力がエグすぎます……。
投げ出されたチョコレートケーキが切なすぎる!
インターホンに出た「女」とは一体誰なのか!?(親戚? それとも別の誰か!? まさか涼子?)
悟、お前は家の中で何をやっているんだー!!
「暁子さん泣かないで!」「悟、早く追いかけて誤解を解け!」とヤキモキした方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします! 読者の皆様の熱い反応が執筆の最大の原動力です。波乱の次回もお楽しみに!




