第三十話 仲間たちの喝と、夜の店での作戦会議
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
「何のための彼氏ですか?」
迷える悟の背中を力強く蹴り飛ばしてくれたのは、美瑠と結衣香、そして水野という賑やかな同僚たちでした。
決意を固めた悟たちは、作戦の進捗を聞くためキャバクラ『堕天使』へと向かいます。プロとして働く姉小路への少し複雑な感情や、強面の店長の登場など、見どころたっぷりのエピソードをお楽しみください。
鬱々とした長雨が降る6月の初旬。
あの日、東堂さんのお母さんからストーカー扱いされて家を追い出されてから、数日が経っていた。
東堂さんは、岩田電産も「堕天使」も休んでいる。
吉永部長からは、「暁子は体調不良で少し休むそうだ」と聞いた。部長は、彼女とお母さんの間に何があったかまでは知らないようだった。
僕は焦っていた。
姉小路がお店の「契約違反」を理由に東堂さんを強引に連れ出す作戦を進めてくれているが、根本的な解決のためには、僕が「逃げた父親」を探し出さなければならない。
しかし、探偵でもない僕に、何の手がかりもない状態だった。
昼食を社員食堂で久しぶりに水野と結衣香の三人で取っていると、結衣香が聞きにくそうに尋ねてきた。
「先輩、あの後ずっとりおんちゃんには会えずにいるんですか?」
「ああ、そうだよ」
「どうにか……ならないんですかね?」
「『堕天使』の店側から何とかアプローチをかけてもらってるんだけど、根本的な解決には『東堂さんのお父さん』を探すしかないみたいなんだ。でも、僕には手がかりが何一つなくて……」
水野が割り込んでくる。
「その東堂さんって子は、岩田電産の吉永部長の姪っ子さんなんだろう? 部長経由で親父さんの情報を聞けないのか?」
「吉永部長は、僕と東堂さんが付き合っていることを知らないんだよ。取引先の部長にプライベートなトラブルを巻き込むなんて、リスクが高すぎるだろ」
「パイセン、何を弱気なこと言ってるんです?」
いきなり食事を乗せたトレーを持って、立花美瑠がやってきた。
「おい、美瑠。パイセンとか呼ぶのやめろ」
「はーい。結衣香先輩。で、で、どうなんですか? りおんちゃんのお父さん探し」
「だから、吉永部長に聞くのは仕事上のリスクが……」
美瑠は、僕の顔をまじまじと覗き込んで、深く深呼吸してから言った。
「先輩、何のための彼氏ですか? いま、りおんちゃんは尾上先輩が救い出してくれるのを、どんな気持ちで待ってると思ってるんですか!」
ハッとした。
美瑠の言う通りだ。僕は「取引先との関係悪化」というビジネスのリスクに怯えて、一番確実な手がかり(吉永部長)にアプローチするのを躊躇していたのだ。
姉小路に偉そうに「覚悟はある」と言ったくせに。
「いいんだ、結衣香。立花さん、ありがとう。確かに東堂さんは僕のことを待っている。吉永部長にすべてを打ち明けて、お父さんの情報を聞き出してみるよ」
「そうですよ、先輩! やれるだけのことはやったほうが後悔しなくて済みますって!」
「よし、なら今夜、その『堕天使』の店長やクレアって子に作戦の進捗を聞きに行こうぜ! オレも行っていいかな?」
水野が調子良く言った。
「私も行きますよ! 焔先生にも会いたいし!」
結衣香や美瑠まで?
まあ、いいか。みんな僕と東堂さんのことを心配して背中を押してくれている。本当にありがたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませ。あ、悟さんじゃないですか! 今日は沢山でご来店ありがとうございます!」
「堕天使」に入ると、金髪のシオンくんが出迎えてくれた。
僕たち四人がボックス席に案内されると、間髪入れずにあすか嬢と沙織嬢がやってきた。
「焔先生!」
「美瑠さん、久しぶりね」
立花美瑠はあすか嬢が目当てだったから、指名してあげればよかったな。
隣では沙織嬢が少し不満顔をしている。
「今日、『まじまん』はいないの?」
まじまんって(笑)。真島課長のことだよね。
「今日真島課長は誘っていないんだ」
「えー、そうなの? 残念! そちらのイケメンは?」
「ああ、沙織さん。こいつは僕の同期入社で水野っていうんだ」
「どうもぉ! 水野です!」
チャラい水野みたいなやつがここに来ると、妙に馴染んでいやがる。
しばらくして、赤いワンピースを纏った姉小路がやってきた。
「よっ、来てたのか」
「今日は、あの件で店長に少し話が聞きたくてね」
「お姉さん、お名前は?」
水野の目の前のソファに腰掛けた姉小路に、水野が身を乗り出した。
「クレアっていいます。よろしくお願いします」
「あ、俺、水野。悟の同期なんですよ。今日はようやくこのお店に来れて良かった。またクレアさんに会いに来ますよ!」
「えー、うれしー」
営業モードに入った姉小路クレアには、プロ意識みたいなものが垣間見えた。
僕には見せたことがないような、ものすごく可愛らしい表情と甘えるような声。
知らなかった姉小路の一面を見たようで驚きでもあり、なんだか少し悔しい気持ちにもなったし、何かいけないものを見てしまったような気分になった。
(私と一緒にいてくれないか?)
ふと、あのファミレスでの寂しそうな顔を思い出してドギマギしてしまう。
「店長に用があるんだろう? 呼んでくるよ。あの人はヒマしてると思うからね」
姉小路はサッと立ち上がり、控室に戻って行った。
しばらくすると、強面の店長が現れた。
「悟さん、りおんちゃんの件ですね」
「はい。なにか良い手がかりがあればと思っているんですが。」
「じゃあ、話をしましょうか」
そう言ってソファに座り、店長は静かに話し始めた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
美瑠の「何のための彼氏ですか!」という一言、最高に刺さりましたね。普段はハチャメチャな彼女ですが、今回は見事なMVPです! 水野のチャラいコミュ力もここに来て活きていますし、沙織さんの「まじまん」呼びには笑ってしまいました。
そして最後に登場した強面の店長。果たして彼の口から、暁子さんを救うどんな手がかりが語られるのか!?
「美瑠ナイス!」「まじまん不在残念!」「店長頼む!」とテンションが上がった方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします! 皆様の応援が執筆の最大の原動力です。作戦会議の次回もお楽しみに!




