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第二十九話 実家に軟禁された彼女を救うため、同級生のキャバ嬢が『夜の世界の荒技』を提案してくれました。そして僕は、逃げた彼女のお父さんを探すことになります

いつもお読みいただきありがとうございます!


暁子を取り戻すため、因縁の同級生・姉小路クレアに助けを求めた悟。

私服姿で現れた彼女は、見事な奪還作戦を提案してくれます。しかし同時に、姉小路の口から語られたのは「暁子は地雷女だ」という鋭すぎる警告でした。

悟の本当の覚悟と愛情が試される、熱いエピソードをお楽しみください。

「待たせたな」


 予告通り、一時間後に姉小路は「堕天使」の入り口に姿を現した。


 キャバドレスを着た彼女しか見たことがなかったから、今日の装いには少し驚かされた。


 シックでパールカラーのボウタイブラウスと、テーパードの白いボトムに、ナイロン生地のトレンチを羽織っている。なかなかのセンスだ。


「こんな時間に呼び出して悪かった。でも、ほかに頼れる人がいなくて」


「まあいいよ。ウチのトップ・キャバ嬢の一大事だからね。ここじゃなんだから、場所変えよ」


 僕と姉小路は、駅前のファミレスに入った。


 席に着くなり、僕は先ほど曉子さんのお母さんと対峙した顛末と、彼女が携帯を取り上げられ、家に軟禁状態にされていることを説明した。


「なるほどね。母親の過干渉と宗教がらみの洗脳か……厄介な案件だね」


「どうしたら曉子さんをあの家から連れ出せるだろう? 警察に行くべきか……」


「バカ言わないで。警察が民事や親子の問題にすぐ介入するわけないでしょ。こういう時はね、ウチらみたいな『夜の世界』のやり方があるのよ」


「夜の世界のやり方?」


「お母さんが一番嫌がるのは何? 世間体でしょ。りおんが無断欠勤なんてしたら、ウチの店が黙ってない。『契約違反の違約金』とか『前借りの返済』を口実に、黒服のボーイや店長を実家に差し向けることができる」


「えっ! そんな荒っぽいこと……」


「脅すだけだよ。でも、娘の職場である『水商売の怖い男たち』が家に押しかけてきたら、あのお母さんも世間体を気にして、りおんを外に出さざるを得なくなる。その隙に、りおんを完全に家から引き離すの。店長には私から上手く話を通しておく」


 姉小路の提案は、僕には到底思いつかない荒技だった。でも、今の曉子さんを救い出すには、それくらい強引な手段が必要なのかもしれない。


「ありがとう、姉小路。本当に助かる。でも……」


「そう、それはあくまで『脱出』させるだけ。根本的な解決にはならない」


 姉小路は僕の不安を見透かしたように言った。


「あのお母さんの洗脳と執着を解くか、完全に諦めさせるには、あのお母さんに責任を負える人間……つまり、逃げた『父親』を引っ張り出すしかないと思うよ」


「お父さんを探して、説得する……」


「あんたにその覚悟、あるの?」


 真っ直ぐに僕を見据える姉小路の瞳に、迷いはなかった。


「ある。僕が探す。曉子さんが外に出られるまでの間に、絶対に僕がお父さんを見つけ出すよ」

「……ふーん。昔の情けない尾上とは大違いだね」


 姉小路はストローでアイスティーをかき混ぜながら、ふっと表情を変えた。


「ところでさ、尾上はどうしてあんな面倒くさい女が好きになったんだ?」


「面倒くさい……か……」


「面倒臭いだろ? どう考えたって!」


「客観視できてないから何ともいえないよ。好きになった人がそんな事になってたってだけでさ」


「お人好しだよ。ホント」


 お人好し?


 いや、僕はそんな人間じゃない。


「多分姉小路は、中学生の頃のぼくの事しか知らないからそういうふうに思うだけじゃないか?」


「あのさー、この際ハッキリ言っておくけど、りおんは、地雷女だよ。一応警告しておく」


「ど、どういう意味だよ?」


 なんだよ、人が好きになった人を悪くいうなんて。


「そういう意味だよ。気をつけないとあの子は、いつかお前をダメにする。あの子、母親からの異常な愛情のせいで、正しい愛情の受け取り方が分かってないんだよ。だから、依存先を探してる。それが今度は、お前になったってわけ」


「……依存先?」


「そう。お前が好きだと周りが見えなくなってるでしょ? そのペースに巻き込まれて、お前がただ甘やかしてたら、二人とも共依存で自滅するぞ」


 ふと、ここ二日間くらいのことを思い出してみると、曉子さんの無鉄砲な行動が脳裏を駆け巡った。


 勘違いして飛び出した僕を泣きながら追いかけてきたり、インターネットの知識を真に受けてお風呂に突撃してきたり……。


「思いあたる感じだろ?」


「ま、まあそうかもな……」


「今回の件だって、完全にあの子のペースじゃん! お前がちゃんとりおんをリードしてやらないとダメだよ。お前にはそれを一度、ちゃんと言っておきたかったんだ」


 何を言い出すかと思えば、姉小路なりに、僕の曉子さんに対する態度にブレがありすぎるから、ちゃんと導いてやれって応援してくれてるんだと分かった。


 この一言はとても重い。


 そして、とてもありがたかった。


「姉小路、本当に恩にきるよ。目が覚めた様な気分だ。今日、姉小路の服装を見てセンスがいいなって思ったけど、中身も最高にカッコいいよ」


「何だよ! いきなり! 恥ずかしいからそんなこと言うな!」


 褒めたのに怒られた。でも、姉小路がいい奴で良かった。


 あの時、名古屋に引っ越す事を告げずいなくなった事を、僕は真剣に後悔した。


「……ねえ、尾上」


 姉小路はそう言いながら、ふと寂しそうな顔をした。


「あの子からお前を取ったりしないから。私が店長と話をつけて、りおんを助け出す準備が整うまで……アタシと一緒にいてくれないか?」


 姉小路の顔が真っ赤だ。


「たぶんそれは、曉子さんが一番嫌がることだから断るよ」


「……」

 

「姉小路だって、自分が本気で好きな相手が、そういう時に別の女と一緒にいたら嫌だろう?」


「まあ、お前らしい答えだな。安心したよ」

まさか、ぼくを試したの?」


「当たり前だろ! 私はお前になんて勿体ないんだよ!」


 どれだけ自分に自信があるのか。


 でも、その強がりが姉小路らしいと思った。


 僕らは駅で別れた。


 別れ際に僕に手を振る姉小路は、なんだかやっぱり少しだけ寂しそうに見えた。


 待っている時間はない。


 明日から、姉小路の作戦が動く。それと同時に、僕は曉子さんのお父さんを探し出さなければならない。


 もう、過去のように逃げたり、ただ時間が過ぎるのを待ったりはしない。


 僕の手で、曉子さんを取り戻すんだ。

最後までお読みいただきありがとうございました!

姉小路さん、めちゃくちゃイイ女じゃないですか……! 「夜の世界の荒技」を提案する頼もしさ、共依存の危険性を指摘してくれる的確さ。そして何より、最後に悟を試した後の「少し寂しそうな強がり」にグッと心を掴まれました。

しかし、そこで絶対に揺るがない悟も本当にカッコいいですね!

次回、いよいよ「父親探し」と「奪還作戦」が同時進行で動き出します!


「姉小路さん切ない!」「悟、絶対にお父さんを見つけ出せ!」と熱くなった方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします! 皆様の熱い応援が執筆の最大の原動力です。次回もお楽しみに!


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